第3話 『二人の盗人』
それから僕たちは、奇妙な相棒になった。
別に仲が悪いわけじゃない
――けど。
同じ日に盗みを働いても、狩り場は分ける。
運河沿いの商区は、ウェイン。
露店の多い中央街区は、僕。そんな感じに。
そうすれば、効率よく獲物が集まるんだ。
その後は仕事...いや、作業が終わると、僕たちは決まって屋根の上で落ち合うことが多かった。
たいていは、夕日が沈んだあとの見張りが手薄になる時間帯。
盗んだパンを分け合い、どちらが多く稼いだか競い、寒い夜には煙突の温もりを背にしながら街の灯りを眺める。この時間が、家族と過ごしていた時と同じくらい僕には好きな時間だった。
ウェインの力は、金具や刃物みたいなものとやけに相性が良く、鍵も硬貨も短剣も、彼の手にかかれば生き物みたいに従う。
砂鉄のような細かな粒さえ、彼のまわりでは意思を持っているみたいに動き始めるんだ。
正直、妬みたいほどに羨ましかった。それでも、ウェインは僕にとって初めてできた友達。失いたくない
――けれど。
しばらくして僕は、ウェインに言ってしまった。
コイツの能力が本気で羨ましかったから.....。
一応、僕も能力を持っているのだが、コイツの能力のほうが盗みには適している気がしたのだ。
「ずるいよなぁー。その力」
そう言うと、ウェインは鼻で笑ってきた。
自分の能力が気に入っていないのかもしれない。
「便利な力ほど、雑に使うとすぐに足がつくんだ。この力は俺じゃなきゃ使いこなせん。イザヤじゃ無理だ」
「俺にも、お前みたいに物を引き寄せるような力があれば良かったのになんて思ってる」
「すぐ人を羨むな!」
「別に良いじゃねぇか。本当のことなんだから」
そんなやり取りが、不思議と楽しかった。
僕はウェインといると、自分が盗人であることを忘れそうになる。
それに、屋根の上で食べる硬いパンも盗んだ干し肉も、一人の時より少しだけうまく感じるんだ。
だが、それによって変わっていくものもあった。
最初はアリーシャのための盗みだった。
そう言い切れた。
けれど、二人で盗みを重ねるうちに、理由は少しずつ濁っていったのだ。
上手くやれた時の高揚と、見つからなかった時の優越感は凄まじい。
気づけば盗みは、生きるためだけの行為ではなくなっていた。
***
――とある夜。
屋根の上で成果を見せ合っていた時のことだ。
ウェインが僕に対して家族のことを聞いてきたんだ。
正直、ウェインが盗みのこと以外で自分から話を振ってくるのは珍しかった。
「イザヤ。お前、妹に何て言ってるんだ」
ウェインが何気なく僕に聞いてきた。
「何のことだよ」
「盗んだ物のことだ」
「拾ったって言ってる」
「嘘じゃねぇか」
「盗んだなんて言えないだろ」
「バレてないのか? それ」
「大丈夫。上手くやってるさ」
ウェインは笑わなかった。
ただ遠くの灯りを見たまま言うのだ。
「お前は隠せているつもりかもしれんが、薄々勘づいてるだろうな」
「......じゃあ、お前はどうなんだよ」
そう言うと、ウェインは少しだけ目を細めた。冬の月明かりが横顔を撫で、首筋の青をうっすら拾った。
「俺にもう、家族と呼べる人はいない。父親は俺が三歳の時、騎士団の連中に連れて行かれた。それ以来、一度も会ってないんだ。生きてるのか、死んでるのかも分からん。母親は、父親がいなくなってすぐ、他の男と再婚して子ども(男)を産んだ」
そこで一度、ウェインは言葉を切った。
「けど俺は、あの家に帰るのが嫌なんだ。自分だけが、どこか浮いてる気がしてな。だから、盗みで食い繋いでる。明日も明後日も、そうやって生きていくつもりだ」
それを聞いた僕は、あまり踏み込まないほうがいいと思った。
だって、聞かれたくないことなんて、誰にでもあるんだから。
僕だって、家族のことを聞かれるのはあまり好きじゃないんだ。
その後僕たちは、ベルクレアの夜景を眺めながら、二人屋根の上で過ごした。
この日は、なぜかいつもより会話は無く、沈黙が長く続く時もあった。
ただそういう沈黙も、友情の一部になっていたから、僕は気まずさなんて感じなかった。
多分きっと、ウェインも同じことを思ってるんだろうと、僕は思う。
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