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灰雪のベルクレア  作者: ラッキー中学生
旅立ち編②
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第44話 『屋根裏』

 

 家の探索を始めて、数十件。

 最初は、扉を開くたびに緊張していた。


 何かが飛び出してくるんじゃないかとか、窓の影に誰かが立っているんじゃないかとか。

 そう思いながら、いちいち溜息をついていた


          ――けれど。


 人や魔物の気配すら何も感じなかった。


 必要最低限の家具に、使われた形跡のない食器。

 そして、埃だけが積もった棚。

 寝台もあったりしたが、誰かが寝転んだような形跡はなく、髪の毛一本見当たらない。


 ただ、家の形をした箱が並んでいるだけという、そんな印象だった。


「手がかり一つ見つからないじゃないか」


 そう言ってみたが、クルエルは答えてくれなかった。

 ただひたすらに、足を動かしているだけで。


「はぁ...。本当に子供たちが隠れているんなら、大きな声で呼んだほうが早いんじゃ?」


「それだと、魔物に気づかれる恐れがあるだろ。敵に自らの居場所を教えるなんて、そんな真似はしない」


 それもそうか。

 大きな声で叫べば、魔物に気づかれてしまう。


 しばらくして、クルエルは再び家の前で足を止めた。

 そして音を立てないよう扉へ手をかけ、ゆっくりと押し開けながら、中へと静かに足を忍ばせた。


 僕とティエラも、それに続いた。

 中へ入った瞬間、ティエラが息を殺して囁いてくる。


「なによこの家。生活感満載じゃないの」


 彼女の言うとおり、この家は他の家と明らかに違った。

 床には布や小物が散らばり、机の上には倒れた木杯。

 壁際の棚は半開きで、中身が引っ張り出されている。


 まるで、誰かが慌ててここを探し回ったのか、あるいは逃げる途中で荒らしたみたいだった。


 もしかしたら、この家のどこかに息を潜めているのかもしれない。

 魔物...あるいは、子供たちが


         ――そのとき。


『ガサガサ...ガザガサ......ガサッ!』と、奥の部屋から何かを必死に探しているような、そんな音が耳に届いた。


 クルエルはただ目だけを細め、僕たちに小さく『行くぞ』と合図を送ってくる。

 僕たちは嫌な汗をかきながらも、クルエルから離れまいと後を追った。


 やがて僕たちは、音のした部屋をゆっくりと覗いた。


 けれど、そこには誰もいなかった。

 魔物の姿も、子供たちの姿も。

 あるのは、散らばった布と倒れた椅子。

 開け放たれた箱だけだった。


「なーんなのよ。誰もいないじゃない」


 ティエラが、ほっとしたように言葉を零した。


 その瞬間。

 天井裏から『ドタドタッ』という音がしたのだ。


 先ほどの『ガサガサッ」って音とは違う。

 何かが天井裏を移動している音のようだった。


「何かいるな」


 クルエルが、小さく言った。


 それなのに僕は、緊張で喉の筋肉が強張り、唾すらもうまく飲み込めなかった。

 当然、声を出すことなど出来なかった。


 僕たちは、ただじっと天井を見上げていた。

 すると、その天井裏から小さな声が聞こえてくる。


「もっと・・・・・よ」

「今動いたら・・・・・・・よ!」


「.....」

「.....」

「.....」


 途切れ途切れで、よく聞き取れない。

 だが微かに聞こえるその声は、間違いなく子供の幼い声だった。


 (よかったぁ...)


 そう思って、僕はクルエルに視線を移した。


 クルエルの緊張はわずかに緩んでいるようだったが、完全に警戒を解いたわけではなさそうだった。


「誰かいるのか?」


 クルエルが、部屋の中に響く程度の声で言った。


「隠れていることは分かっている。俺たちはお前らの味方だ。下まで降りて、話を聞かせてくれないか?」


 その言葉の後で、『ドタドタッ』と何かが動く音が聞こえてきた。

 どうやら、言葉が通じているようだった。

 少なくとも、人に化けている魔物ではなさそうだ。


 やがて部屋の隅の天井板が『パカッ』と外れ、そこから縄梯子が下ろされた。

 その縄梯子を使って、二人の子供が降りてくる。


 一人は僕と同じくらいの背丈で、カッパーブラウンの髪をした少年。

 この家でずいぶんと身を潜めていたのか、服には埃がビッシリとついていた。


 その少年に続いて、今度は同じ髪色の少女が降りてくる。

 少年よりも背が低く、縄梯子を降りる手が少し震えていた。


 二人とも雰囲気がよく似ているし、おそらく兄妹なのだろうか。


「ごめんなさい! てっきり、魔物が入ってきたのかと思って...」


「気にすることはない。ちゃんと身を隠そうとするなんて大したもんだ。それで、お前たちの名はなんだ?」


「ムシュキです。そしてこっちが、妹のジェナです」


 少女は紹介され、僕たちに小さくお辞儀をした。


「このダンジョンへ来たのは、お前たちだけか?」


 そう聞かれ、ムシュキは下を向いた。

 拳を力一杯握りながら、震えていた。


「いいえ。実は、兄貴も一緒でした」


「兄貴?」


「はい。僕たちを魔物から逃がしてくれて、おそらく今もどこかで戦っていると思います」


「魔物はどんな奴だったか、確認したか?」


「それが逃げるのに必死で、ちゃんとは・・・「あたし、見たよ」


 横にいたジェナが、そう言って小さく手を上げた。


「一匹だけだったと思う。狼みたいなの。なんか、オォーゥって、変な声で鳴いていたの」


「それは本当か?」


 そう聞かれ、ジェナは少し自信なさげに頷く。


「うん...」


「なるほどな。多分、ナシランハイエナのことだろう」


「ナシランハイエナ?」


 僕はすぐに尋ねた。


「この魔物について今から説明するが、この場にじっとしていては、気づかれるかもしれん」


 そう言われ、僕たちは家の外へ出た。


 暗灰色の空の下、空っぽの街は相変わらず静まり返っていた。

 しかしその静けさとは裏腹に、僕の胸の奥では不穏なざわめきが満ちていた。


 なんだがよく分からないが、とても嫌な出来事が、僕たちを待ち受けている気がするのだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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