第43話 『討伐型Cランク』
道はいつしか、深い森の中へと続いていた。
クルエルは相変わらず先頭を歩いており、僕とティエラは、その背中を追うようにして進んでいる。
やがて木々の切れ間に、ぽつんと佇む黒い門が視界に入った。
石でできているようにも、鉄でできているようにも見える。
だが、それは普通の門ではなかった。
左右の柱には細かな模様が刻まれ、その奥には煙とも霧とも違う、赤い靄のようなものが揺れていた。
風もないのに、門の中だけがゆらゆらと波打っているようだった。
僕はそれを指差し、クルエルに聞いた。
「もしかしてあれが、ダンジョンへ通じる入口なのか?」
「そうだ。あれがダンジョンゲートだ。起動した印が今もなお、開きっぱなしになっている」
ゲートの上部には、剣を交差させたような記号が刻まれており、その真下には、【C】と彫られていた。
それを見て疑問に思ったのか、ティエラが首を傾げる。
「あの剣の記号と、【C】は何を意味しているの?」
「あの剣は討伐型を表している。ダンジョンマップで見た赤丸に相当する記号だ」
「じゃあ、採掘型や採取型にも別の印があるのね?」
「あぁ。採掘型はツルハシ。採取型は双葉で表される」
「あの真下にある【C】は何を意味しているの?」
「ダンジョンの難易度だ」
そう言って、クルエルは【C】の文字を指で突いた。
「ダンジョンの難易度は、低い方から【D】【C】【B】【A】【S】に分けられる。ここは見ての通り【C】ランク。新人冒険者だけで入るにはちと危ないが、慣れた熟練冒険者ならソロで対応できるランク帯だ」
(なるほど...)
ダンジョンの種類や開いてからの経過時間は、マップを見れば知ることが出来るが...。
難易度は直接行くまで、知ることができないのか。
なんつーか、非効率というか。
到着してから諦めるなんてこともあるのか?
でもそれは、マップで見つけた場合の話か。
巻物の購入者は、当然見れるんだったか?
そんなことを、さっき話していたような...。
「ところでよークルエル」
「どうした?」
「クルエルは、どこまでソロで攻略できるんだ?」
この男の実力を知らない、というこもあって、つい探るような聞き方をしてしまった。
「そうだなぁ...」
別に難しいことを質問しているわけではないのだが、返答に窮しているようだった。
顎髭に指を添え、ゆっくりと摩りながら、少しだけ難しい顔をしていた。
「おそらく【B】ランクまでがソロでの限界だろうな」
「ダンジョン攻略って、そんなにも難しいのか?」
「あぁ。今じゃ【A】ランク以上は複数人でパーティを組むのが前提となっている。ましてや【S】なんぞ、小規模パーティで攻略できるレベルじゃないんだ」
てっきり【S】ランクまでソロで攻略できるものかと、そんな淡い期待を抱いていたのだが。
流石にこの男でも、ダンジョン攻略は簡単なことではないらしい。
てことは、ほぼ戦闘未経験の僕やティエラなんかは、【D】でさえクリアできないんじゃ...。
「もっとも、十六年前以前のダンジョンなら話は別だ。今ほど魔物が厄介じゃなかった頃なら、【A】ランクもソロでどうにかなったかもしれんな」
なんだか言い訳にも聞こえてくるが、この男がただの見栄で言っているようには思えなかった。
十六年前か。
僕が生まれる一年前...。
「それで、お前たちの聞きたいことはもう済んだか?」
「まぁ一応はな...」
「私は済んだわよ」
そうして僕たちは会話を終えると、再びゲートへと視線を戻した。
「それじゃあ行くぞ」
先ほどより少しだけ声を低くして、クルエルは言う。
「カルロ村長の話からして、子供たちが巻物を使ってここへ入ったのは間違いないだろう。マップでの光の強さからして、五日程は閉じ込められている可能性がある」
(まだ助けられる命が、この先に...)
あのマップの光は、ただの印なんかじゃない。
希望を捨てず、誰かが助けを求めている光でもある。
「ついてこい」
クルエルはそう言って、赤い靄の中へと片足を踏み込んだ。
そして僕とティエラは、一度顔を見合わせ、それからクルエルに続いてゲートをくぐった。
とたん瞼の裏が赤く滲み、耳の奥で『ザザーッ』と強い雨音のようなものが鳴り始めた
――次の瞬間。
僕たちは、森の中ではない場所に立っていた。
「......うっ! どこだここは?」
目の前に広がっていたのは、建物が朽ち果て、人の気配を全く感じないような廃れた街だった。
本来なら、あってもおかしくない生活音や喧騒というものは何一つ聞こえてこない。
近くにはたくさんの家々があったが、どの家も似たり寄ったりで屋根は低く、壁は薄い灰色や土色に沈んでいた。
その家々に挟まれる道には、硬く踏み固められた黒土と、古びた石畳がまだらに敷かれていた。
まるでこのダンジョンは、人が暮らしていた街を真似て造っただけの空っぽの模型みたいだ。
「本当に、ここがダンジョンの中なのか? 家があるし、人も住んでるんじゃないのか?」
「そんなわけないだろ」
クルエルは周囲に視線を走らせながら、即座に否定してきた。
「ダンジョンの中で、人が生活しているなんてことは絶対にありえない。家があるからといって、人がいるかもしれんなんて変な期待はするな」
「まぁでも、人間の姿に化けるような、そんな魔物ならいるかもしれんがな」
直後、クルエルが話終えるのを待っていたかのように、不気味な風が『ヒュウヒュウ』っと吹き荒れ、家々の窓を『ガタガタッ』と揺らした。
それはまるで、誰かが内側から窓を叩いているかのように。
もちろん人は住んでいないらしいから、そんなはずはないのだが。
「一軒ずつ調べていく。俺の後ろについて歩け」
そうして僕たちは、息の絶えた家々を一軒ずつ、調べていくこととなったのだ。
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