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灰雪のベルクレア  作者: ラッキー高校生
旅立ち編②
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第42話 『ダンジョンについて』

 

 セロ村を出てから、数十分は歩いた。

 太陽は、先ほどよりも明らかに高くなっている。


 クルエルは相変わらず先頭を歩いていた。

 道に迷う様子もなく、ただ何かを確かめるように時折、周囲の地形を見渡していた。


 (寄るべき場所って、もしかして...)


「クルエル」


「ん、どうした? 疲れたか?」


「寄るべき場所ができたって、もしかして、此処()の中じゃないだろうな? 正直いって、説明なしには付き合ってられねぇよ」


 そう言うと、クルエルはその場で足を止めた。

 そして、少しだけ考えるように間を置き、こちらを振り返ってくる。


「そういや、説明してなかったな。すまない」


 詫びを入れながら、クルエルは地べたに腰を下ろした。

 僕とティエラも、つられるように近くで腰を下ろす。


「腰痛ってぇー。何してんだよ、クルエル」


「見れば分かるだろ」


 クルエルは何かを取り出そうとしているのか、外套の内側へ手を入れて『さわさわ』としていた。


「ペンダントを、服の中から取り出そうとしてんだよ」


 その言葉を聞き、僕とティエラは顔を見合わせた。


 それから、クルエルがペンダントを取り出すのを、僕たちは静かに見守っていた。


 やがて、服の中から小さな金属製のペンダントが。

 それは、飾りにしては少し厚みがあるようで、古びてはいるが、丁寧に使われてきたものというのが分かる。


「これを見ろ」


 そう言って、クルエルはゆっくりとペンダントの蓋を開いた。

 すると、ペンダントの内側から青白い光が浮かび上がった。


「.....」

「.....」


 僕とティエラは、同時に言葉を失ってしまった。

 ペンダントから光が放たれるなんて、思ってもみなかったからだ。


 掌ほどの小さな盤面の上に、地形らしき線が浮かんでいた。

 川や山、それから国なども載っており、一定の範囲で謎の印が数多く散っていた。


  ◯。

 赤丸。

 青丸。

 緑丸。


「これはな...」


「ダンジョンマップというんだ。この世界、【テラ】に存在するダンジョンへ、通じる印の位置を示す道具だ。といっても、このマップには持ち主の現在地を中心に、一定範囲内のダンジョンしか知ることは出来ないがな」


「「ダンジョンへ通じる印?」」


 僕たちは、初めて口を揃えて同じセリフを口にした。


「あぁ。地上には、ダンジョンへ繋がる起点の印が各地にある。ギルドで購入できる『巻物』を使えば、そこから特定のダンジョンを開けられるんだ」


「じゃあ、この◯とか赤丸とか青丸とか緑丸とかが、ダンジョンの場所を示してるのか?」


「そうだ。珍しく察しがいいな、イザヤ」


「まぁそりゃ、一目見たら誰だってそう思うだろうさ」


 そう小さくボヤきながら、僕は再びマップを眺めた。


 色のついた丸は、同じ色でも光の強さが少し違い、薄く光っているものもあれば、遠目にも分かりそうな程、強く光っているものもあった。


 難易度の違いだろうか。

 それとも、意味なく強く光っているのか?


 聞こうと思ったが、先にティエラが質問するのだ。


「丸が色で区別されているのは、分かったけれど、それぞれが何を意味しているのか知りたいわ」


 彼女は思案顔で顎に手を当てながら、マップに穴が開くのでは? 

 と思ってしまうほどに、じっと見つめていた。


「よく聞いてくれたな、ティエラ」


 そう言って、クルエルは盤面を指で示した。


「まず、この◯は未起動の位置だ。そこにダンジョンへ通じる印はあるが、今は入口が開いていないんだ」


「じゃあ、色つきは開いている場所なの?」


「その通りだ」


 そして今度は、赤丸を指差した。


「赤丸は《討伐型》と呼ばれ、中にいる魔物(ボス)を倒すことで、討伐証が得られるんだ」


「その討伐証はどう使うのよ?」


 続けざまに、ティエラが質問する。


「ダンジョンで得られる討伐証は、各国や街に存在するギルド支部へ持っていけば、換金できるんだ。昨夜、お前たちに説明した『ベル』『クレア』『ラーメ』にな。実は、冒険者はそうやって金を稼いでいる」


 『ベル』『クレア』『ラーメ』


 昨夜に聞いた硬貨の名前が、ハッタリなんかではなく、本当の話かもしれないと。

 少しだけ現実味を帯びた気がした。


「ドロームや、セロ村にもギルド支部はあるの?」


 ティエラが聞くと、クルエルは首を横に振った。


「残念ながら村にはない。村の連中がダンジョンの巻物を購入したり、討伐証を金に換金する場合、国や街にあるギルド支部まで足を運ばなければならない」


「そこのとこ、面倒くさいのね」


「とはいえ、ドワーフやエルフの街里にだって、栄えている場所ならギルド支部が置かれていることはある。ギルドは、人間だけのものじゃないからな」


 ティエラは一度納得したように頷き、なぜか僕の方に視線を向けてきた。

 まるで、僕がちゃんと理解しているのかというのを、確かめているかのようだった。


(分からなきゃ、ちゃんと聞き返すってのに)


「青丸や緑丸についても知りたいわ」


「青丸は《採掘型》。緑丸は《採取型》だ」


 そう言って、青丸と緑丸を順に指し示しながら語り始める。


「赤丸の《討伐型》とは違って、魔物を倒して証を得るのが目的じゃない。青丸は鉱石や宝石、石材、粘土、結晶なんかを掘り出すためのダンジョンだ」


 クルエルは、そこで一度言葉を切った。


「一方で、緑丸は薬草や木の実、樹液みたいな自然素材を集めるためのダンジョンだ」


「ふーん。なるほどねぇ」

「なるほどな」


 薬草...か。

 クルエルはたしかに、その単語を口にした。


 もしかすると、ウェインの喉を治す手がかりになるものがあるかもしれない。

 普通の薬草でどうにかなるほど簡単ではないと、頭では分かっているが。


 それでも、もしかしたら...。


「ダンジョンについて、少し分かってきた気がするわ。ありがとう、クルエル」


 ティエラの言葉に、クルエルは短く頷き、さらに言葉を付け足した。


「ついでに言っておくが、このマップで分かるのはダンジョンの位置と種類だけだ。難易度は『巻物』を購入した者にしか分からないようになっている」


「じゃあ、この光の強さは何なの?」


 そう言いながら、ティエラは強く光る丸を示した。


「入口が開いたまま、閉じていない時間の長さを意味している。つまり強く光っているほど、長時間、閉じていないことになる」


「閉じていないってことは、そういうことよね?」


「そういうことだ。まだ生きている者が、ダンジョン内に居るということだ」


 その言葉で、周囲の空気が少しだけ変わった気がした。

 鳥が『ピヨピヨッ』と鳴き出し、草木が大きく揺れた。


 そんな中、僕は強く光る丸をじっと見つめていた。

 ただの光だったはずなのに、その奥に誰かの息遣いが聞こえてくる気がするのだ。

 誰かが必死に助けを求めているような、そんな声が。


「.....」

「.....」


「ダンジョンは、中にいる者が外に戻るか、全員死ぬかすれば自然に閉じる仕様だ。逆に言えば、一人でも中に生きている者がいれば、入口は閉じない」


 クルエルの声は、物凄く淡々としていた。

 僕とティエラが、息を呑みながら話を聞いているというのに、クルエルの声色は一定を保っていた。


 一体、どんな気持ちで話しているんだか。


「誰も助けに行ってやらないのかよ」


 下を向き、声を震わせながら言葉を発する僕を、納得させるかのような穏やかな口調で、クルエルは言う。


「そんなことはない。あまりに光が強くなれば、ギルド本部の救助隊が動いてくれるんだ。だから、お前たちが心配しなくてもいい」


 だいぶ重たい空気の中、クルエルはペンダントの蓋を閉じた。

 とたん、青白い地形もダンジョンを示す印も、『フッ』と姿を消してしまった。


「よし。少しは休めただろ。先を急ぐぞ」


 そう言って、クルエルは『サッ』と立ち上がった。


「まさか、俺たちにダンジョンの話を聞かせたということは、今から向かうのか?」


 わざわざクルエルが話すということは、そういうこと何だろうが、一応確認しておきたかった。


「あぁ実はな。開いたまま閉じていない反応が、近くにある。今朝、カルロ村長から相談されたんだ」


 その言葉に、胸の奥が少しだけざわついた。

 きっと、ティエラも同じだろう。


「なんて、相談されたんだ...?」


「俺たちが村を訪れる一週間前。村へ泊まりにきた三人の子供が、『巻物』を持って、ダンジョンへ通じる印に向かったんだと」


 子供だけでダンジョンへ向かうだなんて、何を考えているんだ。

 だいぶ、戦いの腕には自信があったのか。


「正直な話、ダンジョンに入るのは怖いけど、俺と同じ子供が助けを求めているのなら、放っては置けない」


「そうよね。私もあなたと同じだわ...」


 そうして僕とティエラは立ち上がり、子供たちの潜るダンジョンへと向かって、再び歩き出した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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