第42話 『ダンジョンについて』
「クルエル」
「どうした? 疲れたか?」
「寄るべき場所ができたって、もしかして、ここの中じゃないだろうな? 正直いって、説明なしには付き合ってられねぇよ」
そう言うと、クルエルはその場で足を止めた。
「そういや、説明してなかったな。すまない」
詫びを入れながら、クルエルは地べたに腰を下ろす。
僕たちも、つられるように近くで腰を下ろした。
クルエルは何かを取り出そうとしているのか、外套の内側へ手を入れて『さわさわ』としていた。
それを見て、僕とティエラは顔を見合わせた。
それから、クルエルが何かを取り出すのを、僕たちは静かに見守っていた。
やがて、服の中から小さな金属製のペンダントが取り出された。
それは、飾りにしては少し厚みがあるようで、古びてはいるが、丁寧に使われてきたものというのが分かる。
「これを見ろ」
そう言って、クルエルはゆっくりとペンダントの蓋を開けた。
すると、ペンダントの内側から青白い光が浮かび上がった。
「.....」
「.....」
僕とティエラは、同時に言葉を失ってしまった。
掌ほどの小さな盤面の真上に、地形らしき線が浮かんでいたから。
川や山、それから国なども載っており、一定の範囲で謎の印が数多く散っていた。
◯。
赤丸。
青丸。
緑丸。
「これはな...」
「ダンジョンマップというんだ。この世界、テラに存在するダンジョンへ、通じる印の位置を示す道具だ。といっても、このマップには持ち主の現在地を中心に、一定範囲内のダンジョンしか知ることは出来ないがな」
「「ダンジョンへ通じる印?」」
「あぁ。地上には、ダンジョンへ繋がる起点の印が各地に存在する。ギルドで購入できる『巻物』を使えば、そこから特定のダンジョンを開けられるんだ」
「じゃあ、この◯とか赤丸とかが、ダンジョンの場所を示しているのか?」
「そうだ。珍しく察しがいいな、イザヤ」
「そりゃまぁ、一目見たら誰だってそう思うだろうさ」
そう小さくボヤきながら、僕は再びマップを眺めた。
色のついた丸は、同じ色でも光の強さが少し違い、薄く光っているものもあれば、遠目にも分かりそうな程、強く光っているものもあった。
これは、難易度の違いだろうか。
それとも、意味なく強く光っているのか?
聞こうと思ったが、先にティエラが質問するので、聞きそびれてしまった。
「丸が色で区別されているのは分かったけれど、それぞれが何を意味しているのか知りたいわ」
彼女は思案顔で顎に手を当てながら、マップに穴が開くのでは?
と思ってしまうほどに、じっと見つめていた。
「よく聞いてくれたな、ティエラ」
そう言って、クルエルは盤面を指で示した。
「まず、この◯は未起動の位置だ。そこにダンジョンへ通じる印はあるが、今は入口が開いていないんだ」
「じゃあ、色つきは開いている場所なの?」
「その通り」
そして今度は、赤丸を指差した。
「赤丸は《討伐型》と呼ばれ、中にいる魔物を倒すことで、討伐証が得られるんだ」
「その討伐証はどう使うのよ?」
続けざまに、ティエラが質問する。
「ダンジョンで得られる討伐証は、各国や街に存在するギルド支部へ持っていけば、換金できるんだ。俺みたいな冒険者は、そうやって金を稼いでいる」
「ドロームや、セロ村にもギルド支部はあったの?」
ティエラが聞くと、クルエルは首を横に振った。
「残念ながら村にはない。村の連中がダンジョンの巻物を購入したり、討伐証を換金する場合、国や街にあるギルド支部まで足を運ばなければならない」
「そこのとこ、面倒くさいのね」
「とはいえ、ドワーフやエルフの街里にだって、栄えている場所ならギルド支部が置かれていることはある。ギルドは、人間だけのものじゃないからな」
ティエラは一度納得したように頷き、なぜか僕の方に視線を向けてきた。
まるで、僕がちゃんと理解しているのかというのを、確かめているかのようだった。
(分からなきゃ、ちゃんと聞き返すってのに)
「あと、青丸や緑丸についても教えて欲しいわ」
「青丸は《採掘型》。緑丸は《採取型》だ」
そう言って、青丸と緑丸を順に示しながら話し出す。
「赤丸の《討伐型》とは違って、魔物を倒して証を得るのが目的じゃない。青丸は鉱石や宝石、石材、粘土、結晶なんかを掘り出すためのダンジョンだ」
クルエルは、そこで一度言葉を切った。
「一方で、緑丸は薬草や木の実、樹液みたいな自然素材を集めるためのダンジョンだ」
「ふーん。なるほどねぇ」
「なるほどな」
薬草...か。
クルエルはたしかに、その単語を口にした。
もしかすると、ウェインの喉を治す手がかりになるものがあるかもしれない。
普通の薬草でどうにかなるほど簡単ではないと、頭では分かっているが。
それでも、もしかしたら...。
「ダンジョンについて、少し分かってきた気がするわ。ありがとう、クルエル」
ティエラの言葉に、クルエルは短く頷き、さらに言葉を付け足した。
「ついでに言っておくが、このマップで分かるのはダンジョンの位置と種類だけだ。難易度は『巻物』を購入した者にしか分からないようになっている」
「じゃあ、この光の強さは何なの?」
そう言いながら、ティエラは強く光る丸を示した。
「入口が開いたまま、閉じていない時間の長さを意味している。つまり強く光っているほど、長時間閉じていないことになる」
「閉じていないってことは、そういうことよね?」
「そういうことだ。まだ生きている者が、ダンジョン内に居るということだ」
その言葉を合図としたように、鳥が『ピヨピヨッ』と鳴き出し、草木が大きく揺れた。
そんな中、僕は強く光る丸をじっと見つめていた。
ただの光だったはずなのに、その奥に誰かの息遣いが聞こえてくる気がするのだ。
誰かが必死に助けを求めているような、そんな声が。
「.....」
「.....」
「ダンジョンは、中にいる者が外に戻るか、全員死ぬかすれば自然に閉じる仕様だ。逆に言えば、一人でも中に生きている者がいれば、入口は閉じない」
クルエルの声は、物凄く淡々としていた。
僕たちが、息を呑みながら話を聞いているというのに、クルエルの声色は一定を保っていた。
一体、どんな気持ちで話しているんだか...。
「......誰も、助けに行ってやらないのかよ」
下を向き、声を震わせながら僕は言った。
それに対し穏やかな口調で、クルエルは言葉を返してくる。
「そんなことはない。あまりに光が強くなれば、ギルド本部の救助隊が動いてくれるんだ。だから、お前たちが心配することはない」
だいぶ重たい空気の中、クルエルはペンダントの蓋を閉じた。
とたん、青白い地形もダンジョンを示す印も、『フッ』と姿を消してしまった。
「よし! 少しは休めただろ。先を急ぐぞ」
そう言って、クルエルは『サッ』と立ち上がった。
「まさか、俺たちにダンジョンの話を聞かせたということは、今から向かうのか?」
わざわざクルエルが話すということは、そういうこと何だろうが、一応確認しておきたかった。
「あぁ実はな。開いたまま閉じていない反応が、近くにある。今朝、カルロ村長から相談されたんだ」
その言葉に、胸の奥が少しだけざわついた。
きっと、ティエラも同じだろう。
「なんて、相談されたんだ?」
「俺たちが訪れる一週間前。村へ泊まりにきた三人の子供が、『巻物』を持って、ダンジョンへ通じる印に向かったんだと」
その子たちは、一体何を考えているんだ。
だいぶ、戦いの腕には自信があったのか?
「...正直な話、ダンジョンに入るのは怖いけど、助けを求めている人がいるのなら、放っては置けない」
「そうよね。私もあなたと同じだわ...」
そう言って僕とティエラは立ち上がり、子供たちの潜るダンジョンへと向かって、再び歩き出した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
図々しいお願いで恐縮ですが、評価やブックマークで応援いただけると、飛んで喜びます。




