第34話 『ベルクレア騎士養成学校』
目の前にそびえ立っていたのは、想像以上に巨大な建物だった。
ベルクレア騎士養成学校。
名だけは聞いたことがあった。だが、実際にこの目で見るのは初めてだ。高い石壁に、広い正面階段。白を基調とした外壁には、金の装飾が細く走っている。
尖ったアーチ窓が整然と並び、屋根の縁には古い紋章が深く彫り込まれていた。
ただの『学校』と呼ぶにはあまりにも立派で、厳格な空気を纏っているようだった。
「.....」
ここで騎士が育ち、ベルクレアのために武器を持つものが王に仕えるのか。
王の命令に絶対服従する、今の俺のように見えない首輪をつけられた『犬』どもが。
そう思いながら、俺は自身の黒鉄の腕を静かに見下ろした。
(俺もここに...)
機骸にされ、声すら奪われたこの化け物が。
「ここが、ベルクレア騎士養成学校だ」
ブレイブの声が、朝の空気を震わせた。
この場所を、これっぽっちも疑っていない人間の声。
「お前たち六人は、今日から各クラスへ編入する」
俺たち六人の視線が、自然とブレイブへ集まった。
「この学校には、刻印者もいれば無刻印者もいる。貴族も平民も商家の子も、孤児もいる。ここで問われるのは、出自ではない」
ブレイブは一度言葉を切った。
そして、先ほどより大きな声で告げる。
「騎士として使えるかどうか、ただそれだけだ!」
その言葉を浴びせられても、動揺を見せる者は誰一人いなかった。俺を含め、誰もが顔色一つ変えずにブレイブをただ見つめていた。
とたん、ブレイブが順に名を呼び始める。
「Aクラス。ブラッド!」
深紅の髪をした男が、一歩前へ出た。
この男は、俺たちの中で最も年上に見えた。
おそらく背が高く、金縁の眼鏡の奥の瞳に、底知れない知性を感じさせるからだろう。
一方で、知的なイメージとは裏腹に、両手の甲から腕にかけて赤い包帯が巻かれており、まるで血に染まっているかのような不気味さも感じる奴だった。
「Bクラス。リネット!」
次に呼ばれたのは、アイボリーの髪をした少女だ。
長めのウェーブヘア。
どことなく品があり、瞳が大きく、誰もが信じて疑わないような『お嬢様』の容姿をしている。
俺と同じ年頃の少女が、罪人としてここに連れてこられたとは到底思えないほど、整った顔立ち。
この女は名前を呼ばれると、『ニコッ』と可愛らしく微笑んでお辞儀をした。
「Cクラス。ラハシア!」
ポニーテールに結われた髪。
くっきりとした目鼻立ち。
名を呼ばれた瞬間、ブルネットの髪の少女が目をつぶった。この街では珍しい、俺と同じような暗めの髪色だ。
「.....」
なぜ何も言わない。動かない。
目を開けないんだ。
(不気味な女だ...)
「......まぁいい。Dクラス。ヴィオラ!」
名を呼ばれた瞬間、気怠そうに片目を開けた女。
鬱陶しそうに『チッ』と舌打ちをした。
この女は、俺より二つか三つは年上に見える。
菫色のショートヘアで、身長は俺やレストより少しだけ高いが、さっきの深紅髪の眼鏡よりは低かった。
目つきは酷く悪く、姿勢もだらけており、見るからに近づきがたい空気を放っている。
「最後。Eクラス。レスト! ウェイン!」
とたん、隣でレストが軽く眉を上げる。
「俺たちだけ、一緒でいいんか?」
その問いに、ブレイブが冷たく言葉を返す。
「ここへ来る道中、お前とウェインは随分仲が良さそうだったからな。それに、この学校には五クラスまでしかないんだ」
「そんなら、しょうがねぇなぁ」
レストは、おどけたように笑って言った。
(冗談じゃない...)
こんな奴と一緒のクラスだなんて...。
イザヤと違い、コイツは平気で人を殺せる奴だぞ。
そう思っていると、ブレイブは隣に立つ澄まし顔の女騎士を示した。
「Eクラスの担当はこの人だ。元騎士で、今は騎士養成学校の教官を務めてもらっている」
すると、その女が一歩前へ出た。
「シエロだ。これからよろしく頼む」
(なんて温度のない名乗り...)
「この学内のことは私に聞け。ただし、聞けば何でも優しく教えてもらえると思うなよ。分からないことは、自分で見て覚える。それがここでの最初の訓練だ」
その言葉に、レストが小さく口をすぼめる。
だがシエロが鋭く睨みつけ、レストは肩をすくめた。
「では、それぞれ移動しろ」
そのブレイブの一言で、俺たち六人はバラバラに分かれていった。
ブラッドは『Aクラス』へ。
リネットは『Bクラス』へ。
ラハシアは『Cクラス』へ。
ヴィオラは『Dクラス』へ。
そして、俺とレストはシエロの冷たい背中を追って、『Eクラス』へと歩き出した。
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