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灰雪のベルクレア  作者: 村井 世那
旅立ち編①
23/31

第二十二話 夕暮れの空き椅子

イザヤの視点に戻ります。


        ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「......っ!」


 僕が目を覚ますと、部屋は夕方の色に染まっていた。興奮のあまり忘れていただけで、身体は悲鳴をあげていたんだ。


 窓の外の斜面には長い影が落ちており、赤みを帯びた光が石壁を撫で、昼間より少しだけ街を柔らかく見せ始めていた


        ――けれど。


 眠る前の記憶はあるのに、起きた瞬間、自分がどこにいるのか分からなかった。とはいえ、眠る前まで感じていた身体の疲労が、とっくに抜けていることだけは、すぐに感覚で分かった。


 部屋の中は地下牢にいる時よりも広く、近くに小机や椅子などがしっかり置かれている。


 僕はそんな部屋の中で、しばらくクルエルを待っていたが、一向に帰ってくる気配がしなかった。あの男は確かに、「夕方まで寝てろ」と言っていたんだけど、当の本人は何処にいるんだ。


 戻ってくるつもりなら、今ここにいてもおかしくないはずなのに。


 僕は不安になって、部屋の扉を開けて廊下を見ても、人は誰一人いなかった。それに、足音だって一つたりとも聞こえてこない。もしかして...と思い、机の上を確認してみたものの、クルエルからの書き置きはなかった


    ――また、置いていかれたのか。


 そんな嫌な考えが、一瞬だけ僕の脳裏を過った。

 しかし、わざわざ宿まで取ってくれたクルエルに限って、そんな意味のないことをするはずはない。僕はそんな嫌な考えを振り払うように頭を振り、両頬を軽く叩いた。


 そして、部屋の窓からドロームの街並みを眺めていると、家々の灯りが一つ、また一つと増えていく光景が視界に入った。


 ベルクレアの夜景しか見てこなかった自分が、今は別の街へ滞在しているのだと、改めて実感させられた...そんな気がした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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