第二十二話 夕暮れの空き椅子
イザヤの視点に戻ります。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「......っ!」
僕が目を覚ますと、部屋は夕方の色に染まっていた。興奮のあまり忘れていただけで、身体は悲鳴をあげていたんだ。
窓の外の斜面には長い影が落ちており、赤みを帯びた光が石壁を撫で、昼間より少しだけ街を柔らかく見せ始めていた
――けれど。
眠る前の記憶はあるのに、起きた瞬間、自分がどこにいるのか分からなかった。とはいえ、眠る前まで感じていた身体の疲労が、とっくに抜けていることだけは、すぐに感覚で分かった。
部屋の中は地下牢にいる時よりも広く、近くに小机や椅子などがしっかり置かれている。
僕はそんな部屋の中で、しばらくクルエルを待っていたが、一向に帰ってくる気配がしなかった。あの男は確かに、「夕方まで寝てろ」と言っていたんだけど、当の本人は何処にいるんだ。
戻ってくるつもりなら、今ここにいてもおかしくないはずなのに。
僕は不安になって、部屋の扉を開けて廊下を見ても、人は誰一人いなかった。それに、足音だって一つたりとも聞こえてこない。もしかして...と思い、机の上を確認してみたものの、クルエルからの書き置きはなかった
――また、置いていかれたのか。
そんな嫌な考えが、一瞬だけ僕の脳裏を過った。
しかし、わざわざ宿まで取ってくれたクルエルに限って、そんな意味のないことをするはずはない。僕はそんな嫌な考えを振り払うように頭を振り、両頬を軽く叩いた。
そして、部屋の窓からドロームの街並みを眺めていると、家々の灯りが一つ、また一つと増えていく光景が視界に入った。
ベルクレアの夜景しか見てこなかった自分が、今は別の街へ滞在しているのだと、改めて実感させられた...そんな気がした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
評価やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります。




