↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰雪のベルクレア  作者: ラッキー中学生
旅立ち編①
PR
23/54

第22話 『置き手紙とドロームの夜』

 

 結局、いつまで経ってもクルエルが戻ってこないから、街の探索をして暇を潰すことに決めた。

 せっかく、この街に足を運んだというのに、何もしないのは勿体ない気がしたのだ。


 そういやクルエルは、長から依頼を頼まれてきたと言っていた。

 もしかしたら、依頼をこなしているから戻ってこれないのかもしれない。


 そこで、クルエルに向けた置き手紙を残すため、薄い紙と細い筆記具を創り上げた。

 おそらく、依頼の後は酒場に行きたいと思うのではないか?


 だから僕は、クルエルへの置き手紙に『酒場で待っている。この手紙を読んだなら、一番近い酒場まで来てくれ』と、そう書くことにした


          ――けど。


 この街にそういうものがあるのかどうかすら僕には分からない。

 だが、ベルクレアには酒場が至る所にあったから、人が多い街なら酒の匂いがする場所くらいあるのだろう。


 そんなことを思いながら、紙を机の中央に置いた。

 ついでに、風で飛ばぬよう銀の粒子を残して、小さな錘(おもり)も一緒に置いておいた。

 僕なりの粋な計らいだ。

 普段なら、絶対にこんなことはしないが。


 そうして僕は、フードのついたコートを羽織り、すぐ宿を後にした。


         ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ――ドロームの最上段近く。


 斜面を削って築かれた石の館は、他の建物よりもひときわ古びていた。

 入口の両脇には短く太い柱が立ち、その石肌には古い彫り込みが連なっている。


 そんな街の心臓部で、俺――クルエルはドロームの長と向かい合っていた。


 背丈こそ低いが、胸も肩も厚く、灰色の髭は胸元まで流れ、片目だけを細めて俺を見る癖があった。


「遅かったな。クルエル」


 怒っているわけではないようだ。

 ただ俺が遅刻したことを、問い詰めるような語り口ではあった。


 俺は表情を引き締め、その理由を述べた。


「少し用事が出来て、ベルクレアに寄ったんだ。待たせてすまない」


 その言葉を聞いて、長の片眉がわずかに上がった。


「お前がベルクレアに用事とは珍しいな。

    まさか、あの噂を耳にして寄ったのか?」


 驚いた。さすがはベルクレアだ。

 まさか、あの情報がドロームにまで届いているとは。

 こりゃ、言い訳は出来なさそうだな。


「あぁその通りだ。ベルクレアに、まだ若いのに面白い手を持ったガキがいると耳にしたんだ」


 そう答えると、長は食い入るように返してきた。


「そいつはどんな力を持っているんだ。お前が目をつけるだなんて、相当な腕利きだと見るが」


 俺は目を細めて、長を見つめた。


「実は俺もまだ、そいつの戦っているところを見たことがないんだ。刃を向けられた時にどう動くか、追い詰められた時にどこまで踏みとどまるか、まだ何一つ分かっちゃいない」


 誤魔化すことなく、そう正直に話した。


「だが素質はあるように感じるんだ。まだ十五の歳で、これから幾らでも鍛え上げられる。俺は、あいつの将来に期待しているのさ」


「......なるほど、な」


 それは納得した声のようで、俺がいつも同じようなことを言っては、呆れているようにも感じ取れた。


 しばらくして、長は火床の向こうで姿勢を直した。


「そんなことよりクルエル。お前を呼んだのは、街の下で拘束している『魔物』の始末を頼みたいからだ」


 長は続けて、その依頼の理由を淡々と述べ始めた。


「今は、鍛冶場も鉱山も人手が足りとらん。『ミネラーレ』と呼ばれる地へ調査部隊を送り込んでいるからな。だから、その『魔物』を仕留める為の手が足りんのだ」


 とたん、炉の火が『ぱちっ』と鳴った。


「ミネラーレか。港湾都市ベイリアからしか行けない鉱物地帯。謎が多く、何十年も採掘調査を行なっていると耳にしたことはあるが」


 俺は、顎髭を撫でながらそう呟いた。


「下で拘束している魔物は、街の戦士でも倒せない相手ではない。だが、そのためだけに調査部隊をわざわざ呼び戻したくはないのだ。クルエルよ、お願いだ。お前だけが唯一頼れる相手なんじゃ」


 その話を聞き、俺は顎を引いた。

 ここで長に貸しを作っておけば、今度はこっちがお願いを頼みやすくなるんだ。

 それに、端からそんなことだろうとは思っていた。


「分かりました。その依頼、引き受けます」


 その『魔物』がどんな奴か聞くこともなく、俺はただ端的に答えを出した。

 長もまた、俺の端的な返答に「感謝する」とだけ短く返してきた。


 話がまとまると、俺はすぐに長の館を後にした。

 ドロームの空は、すでに夕暮れの色だった。


 俺は外套の襟を軽く直しながら、宿の方角へ視線を移し、誰にも聞こえない声で小さくボヤいた。


「イザヤの奴、素直に寝てると良いんだが...」


 そう考えた直後、なぜかそんなわけない気がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

図々しいお願いで恐縮ですが、評価やブックマークで応援いただけると、飛んで喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。