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灰雪のベルクレア  作者: 村井 世那
ベルクレア脱獄編
16/32

第十五話 静かな脱獄、気持ちのいい朝

 

 ウェインに別れを告げてから、四半刻が経とうとしている。鍵があれば、全部が簡単になる...というわけではないらしい。むしろ扉が多すぎて、鍵穴に合う鍵を見つけるのにひどく手間取ってしまっている。

 

 それに加え、通路の途中には看守が居座っている。


 (...正直、うんざりだ)


 眠っている看守に、半分起きているような看守。

 机に突っ伏しているが、足音には敏感な看守。

 どいつもこいつも、本当に寝ているのかすら怪しい。


 なんせ、今の時刻は四時半といったところだろう。朝に強いやつなら、この時間にはもう目を覚ましていてもおかしくはないのだ。


 けれど、時間がない中でも僕は急がなかった。

 下手に急げば、失敗しそうな気がしたから。

 曲がり角の前では必ず立ち止まり、呼吸音を聞く。

 

 そして灯りの揺れ方をみて、影が動いていないか確かめる。これを確実に、丁寧に行うことが成功へと繋がると...そう思った。


 たとえ危ない状況になっても、僕には能力があるんだ。やばい時は、必要なぶんだけ小さなものを創ればいい。それだけで十分、看守の目を欺くことができる。


 たとえば、豆粒ほどの小さな石。

 扉の隙間に挟む薄い木片。

 鍵同士が触れ合わないよう包む布。


 これらはどれも小さく、音を殺し、看守の目を欺くための道具。ここから出るために、わざわざ人を殺すための道具を創る必要なんてない。


 ――およそ十分後。


 寝ていた看守が欠伸混じりに顔を上げた


        ――その瞬間。


 そいつの視線が、僕の影を捉えそうになった。

 定かではないないが、なんとなくそんな気がした。

 僕はバレないように、小さな石を反対側の通路へ弾く。


     ――ころん、ころん、こん。


 すると、看守の視線がその音のほうへ流れた。

 僕はその一瞬で、階段を駆け上がった。とはいえ、小さなものを創るたびに、血を抜かれていくように体がふらついてくる。


 この感覚は、貧血によく似ているものだった。

 それでも僕は足を止めなかった。ここで終わるわけにはいかない。ウェインと約束したんだ。


 『身体』と『喉』を元に戻す方法を

           

          必ず見つけると――

 

          ***


 ようやく最後の鉄扉を抜け、地下牢の外れに出た時、空はまだ薄暗かった。


 (五時前くらいだろうか...)


 そう思いながら、僕は一度大きく息を吸って吐いた。外の冷えた空気は、地下牢とは別の意味で肺に痛い。けれど、酸素すら薄く感じるあの地下牢より、街中で吸い込む生きた空気のほうが、ずっと心地よかった。


 思っていたより早く抜け出せて、僕は内心ほっとしている。だが、のんびりはしていられない。

 夜が少しずつ明け始めているのを感じるのだ。


 ――もう少しで、朝が来る。


 今のうちに、ベルクレアという大きな牢から抜け出さなければ、すぐに捕まってしまう。街中が騒ぎになるのも時間の問題だ。


 そう思いながら、僕はフードを深く被り直し、石造りの回廊を抜けて、ベルクレアの城門へと向かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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