第十五話 静かな脱獄、気持ちのいい朝
ウェインに別れを告げてから、四半刻が経とうとしている。鍵があれば、全部が簡単になる...というわけではないらしい。むしろ扉が多すぎて、鍵穴に合う鍵を見つけるのにひどく手間取ってしまっている。
それに加え、通路の途中には看守が居座っている。
(...正直、うんざりだ)
眠っている看守に、半分起きているような看守。
机に突っ伏しているが、足音には敏感な看守。
どいつもこいつも、本当に寝ているのかすら怪しい。
なんせ、今の時刻は四時半といったところだろう。朝に強いやつなら、この時間にはもう目を覚ましていてもおかしくはないのだ。
けれど、時間がない中でも僕は急がなかった。
下手に急げば、失敗しそうな気がしたから。
曲がり角の前では必ず立ち止まり、呼吸音を聞く。
そして灯りの揺れ方をみて、影が動いていないか確かめる。これを確実に、丁寧に行うことが成功へと繋がると...そう思った。
たとえ危ない状況になっても、僕には能力があるんだ。やばい時は、必要なぶんだけ小さなものを創ればいい。それだけで十分、看守の目を欺くことができる。
たとえば、豆粒ほどの小さな石。
扉の隙間に挟む薄い木片。
鍵同士が触れ合わないよう包む布。
これらはどれも小さく、音を殺し、看守の目を欺くための道具。ここから出るために、わざわざ人を殺すための道具を創る必要なんてない。
――およそ十分後。
寝ていた看守が欠伸混じりに顔を上げた
――その瞬間。
そいつの視線が、僕の影を捉えそうになった。
定かではないないが、なんとなくそんな気がした。
僕はバレないように、小さな石を反対側の通路へ弾く。
――ころん、ころん、こん。
すると、看守の視線がその音のほうへ流れた。
僕はその一瞬で、階段を駆け上がった。とはいえ、小さなものを創るたびに、血を抜かれていくように体がふらついてくる。
この感覚は、貧血によく似ているものだった。
それでも僕は足を止めなかった。ここで終わるわけにはいかない。ウェインと約束したんだ。
『身体』と『喉』を元に戻す方法を
必ず見つけると――
***
ようやく最後の鉄扉を抜け、地下牢の外れに出た時、空はまだ薄暗かった。
(五時前くらいだろうか...)
そう思いながら、僕は一度大きく息を吸って吐いた。外の冷えた空気は、地下牢とは別の意味で肺に痛い。けれど、酸素すら薄く感じるあの地下牢より、街中で吸い込む生きた空気のほうが、ずっと心地よかった。
思っていたより早く抜け出せて、僕は内心ほっとしている。だが、のんびりはしていられない。
夜が少しずつ明け始めているのを感じるのだ。
――もう少しで、朝が来る。
今のうちに、ベルクレアという大きな牢から抜け出さなければ、すぐに捕まってしまう。街中が騒ぎになるのも時間の問題だ。
そう思いながら、僕はフードを深く被り直し、石造りの回廊を抜けて、ベルクレアの城門へと向かった。
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