↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰雪のベルクレア  作者: ラッキー中学生
ベルクレア脱獄編
PR
11/52

第10話 『感謝と謝罪』

 

 逃げ出す前に、やるべき事が一つあった。

 それは、アリーシャと叔母さんに手紙を残すこと。

 何も残さずに去るなんて、僕には出来ない。


 僕は静かに息を吐き、右手を開いた。

 すると掌の上に、淡い銀色の粒子が集まり始めた。


 雪明かりを失った銀みたいな、冷えた光。

 やがて淡い銀色の粒子は、三枚の紙と細い筆記具、洋封筒へと姿を変えた。


 暗い牢の中では、その紙だけがやけに白く感じた。

 僕の目には、ベルクレアの雪よりも。

 まぁ今の僕にとっちゃ、あの雪はもう灰色にしか見えてないのだから、当然といえば当然なのだが。


 それでも、この紙はまだ汚れていない純白。

 家族と見ていたあの頃の雪のように白かった。


 そう考えた途端、筆記具を持つ指が震えた。

 心の汚れた僕が書けば、その白は灰色に変わっていくような気がしたのだ。


 盗みは何度もやった。

 嘘もたくさんついた。

 けれど、本当のことを書くのが怖かった。

 二人が僕のことを嫌いになるんじゃないかって。


 しばらく迷ってから、僕はようやくペンをしっかり握り、書き始めた。

 本当は、短い文で終わらせようと思っていたのだが。


 二人にはたくさん迷惑をかけたし、伝えたいことだって山ほどある。

 せめて最後くらいは、丁寧に別れを告げておこう。

 そう思った。



 MATERTERAE(叔母さん) ET(そして) ALISHAE(アリーシャへ)


IGNOSCITE(ごめん) MIHI(なさい). DIU CLAM(私は長い間) FURATUS(ひそかに盗みを) SUM(していました). INITIO ID (初めは)FECI, QUOD(アリーシャに) ALISHAE (食べさせ)CIBUM DARE(たかった) VOLEBAM(からです). QUOTIENS(家の) PANIS(パンが) DOMI(減る) MINUEBATUR(たびに), MIHI(自分の) VIDEBAR(分だけ) CIBUM MIHI(誰かの皿から) DESTINATUM(奪っている) EX ALIENA(気がして) CUIUSDAM(それが苦しくて) PATINA(自分の手を) SURRIPERE(汚しました).


SED(でも), SI VERUM (本当のことを)SCRIBAM(書くなら), NON EA(それだけ) SOLA(じゃ) CAUSA FUIT(ありません). PAULATIM(途中から僕は) FURARI(盗むことに) CONSUEVI(慣れてしまいました). FATEOR ME(上手くやれた時の) ETIAM(あの) INTERDUM(感覚を) QUANDAM(どこかで誇らしいと) SUPERBIAM(思っていたのも) SENSISSE(また事実です), CUM(だからこうして) FURTUM(捕まったのは) FELICITER(きっと当然の) FECISSEM.(報いなんだと思います)


NIHILOMINU(それでも)S, SI MIHI(もし許されるなら) IGNOSCERE(もう一度) VELITIS(だけ), UNUM(二人に) ADHUC(ちゃんと顔を向けて) CUPIEBAM.(謝りたかったです)RE VERA(本当はもっと) MELIOR(ちゃんとした) HOMO(人間に) FIERI(なりたかった) VOLEBAM(です).


HODIE EX(僕は今日で) HAC URBE(この街を) PROFICIS(出ます)COR. FORTASSE(もう二度と) NUMQUAM(この街には) HUC REDIRE(戻れない) POTERO(かもしれません). NOLITE(探さないで) QUAERERE(ください).


PRO OMNIBU(今まで本当に)S QUAE MIHI(ありがとう) PRAESTI(ござい)TISTIS.(ました)


                ISAYA



 ついでに、各々に宛てた手紙も書いておこう。

 それぞれに伝えたいことが、僕にはあるんだ。



 MATERTERAE(叔母さんへ)


GRATIAS(僕たちを) TIBI AGO(引き取ってくれて), QUOD NOS(ありがとう) RECEPISTI(ございました). ET IUS(冬の) HIEMALE(薄い) TENUE(スープ) ET(も) PANIS(固い) DURUS(パンも) VERE(ちゃんと) CALIDI(温かかった) ERANT(です). QUOTIENS(あの家の) LUMEN(明かりに) ILLIUS (何度)DOMUS ME(救われた) SERVAVIT(ことか)! ODOREM(洗濯物の) VESTIUM(匂いも) LOTARUM(朝の) NEC(鍋の) SONITUM(音も) OLLAE(僕はたぶん) MATUTINAE(一生) NUMQUAM(忘れません), UT CREDO, OBLIVISCAR.


CUM AD EAM(あの家に) DOMUM MODO(来たばかりの) VENISSEM(ころ), MATREM(僕は) MEAM(母さんが) AMISISSE(いなくなった) ANIMO(ことを) ACCIPERE(受け入れ) NON(られずに) POTERAM(いました). QUOD(そんな) PAULATIM(僕が) AD FUTURA(少しずつでも) RESPICERE(前へ向けるように) POSSEM(なったのは), TIBI DEBEO(叔母さんのおかげです).


MULTAS(これまで) TIBI(叔母さんには) MOLESTIAS(たくさん) HACTENUS(迷惑を) ATTULI(かけました).


IGNOSCE(ごめん) MIHI(なさい).


                ISAYA



     ――よしっ。次はアリーシャだ。



 ALISHAE(アリーシャへ)


IAM PRIDEM(ずっと前から) ANIMA(俺の)DVERTERAS(ことに) QUID(気づいて) AGEREM(いたんだよな), NONNE? (?)QUOD TAMEN(それでも何も) NIHIL(言わずに) DIXISTI(いてくれたことが), NUNC DEMUM(今になって) ME CRUCIAT(苦しく思ってる). ET ME(それに) PAENITET(気づいてやれなかった) QUOD ID(ことも) NON(ずっと) ANIMA(後悔)DVERTI(してる).


IGNOSCE MIHI(ごめんな), FRATRI TA(こんな鈍感な)M HEBETI(兄で).

ET(そして) GRATIAS(優しい) TIBI AGO(妹で), QUOD SOROR(いてくれて) MIHI TAM B(ありがとう)ENIGNA FUERIS.


RE VERA(実は), EST ALIQUI(お前には)D QUOD(面と向かって) TIBI CORAM(一度も) NUMQUAM(言えなかった) DICERE(ことが) POTUI(あるんだ). SEMPER ID(本当はずっと) TIBI(お前に) DICERE VO(言いたかった)LEBAM. SED ERUBES(でも)CEBAM, NEC DICERE(恥ずかしくて) POTERAM(言えなかった). QUARE(だから) PATERE(その気持ちを) MIHI(今) UT ID QUOD(この手紙に) SENTIO NU(書かせて)NC IN HAC(ほしい) EPISTULA SCRIBAM.


CAPILLI(お前の) TUI(青い髪は) CAERULEI(雪よりも) NIVE PULCH(ずっと綺麗だ)RIORES SUNT.


FORTASSE(たぶんそれは) ID IDEO ERAT, QUOD NIX (俺には)MIHI CIN(雪が灰色に)EREA VIDEB(見えていたから)ATUR(かもしれない). ATTAMEN(それでも), MIHI CA(どんな色よりも)PILLI TUI (雪よりも)OMNI ALIO(お前の髪のほうが) COLORE IPS(ずっとずっと)AQUE NIVE(綺麗に) MULTUM, MU(映っていた)LTUM PULCHRIORES VIDEBANTUR.


                ISAYA      



 書き終えたあと、僕はしばらく紙を見つめた。

 込み上げてくるものを、必死に押し殺しながら。

 涙だけは、こぼさないようにと。

 看守に気づかれないよう、心の中だけで泣いていた。

 本当は思い切り泣きたかった。


 自分の字が、こんなに弱く見えたのは初めてだ。

 それに謝ってばかり。

 感謝も別れも、全部が遅すぎる。

 なんで直接、面と向かって伝えられなかったんだろう。

 そんな自分が、情けなく思えてくる。


 それでも、何も書かないよりはマシだった。

 何も残さずに消えるよりかは、ずっと。


 そう思いながら、僕は三通目の紙を手に取り、叔母さん宛てではなくアリーシャにだけ言葉を足した。



 CUM CAPTUS(俺が捕まった) ESSEM(とき), PRIMUS AD(真っ先に) ME IN CARC(牢まで)EREM VENIS(来てくれたよな)TI, NONNE? ID VERO ME(あれが本当は) MAGNOPERE(すごく) GAUDIO(嬉しかった) AFFICIEBAT. NAM TU SO(だって面会に)LA AD ME (来てくれたのは)VISITANDUM(お前だけだったから) VENISTI.


NIHIL MAG(たいしたものは)NI PRETII TI(何も残せない)BI(けれど) RELINQUERE(この手紙と) POSSUM(一緒に), SED UNA CU(左腕につけていた)M HAC EPIS(銀の)TULA ARMILLAM(アームレットを) ARGENTEAM(置いていく), QUAM IN B(これは)RACHIO SI(盗んだ)NISTRO GE(もの)STABAM, RE(じゃない)LINQUO. HANC(だから) NON FUR(安心して)ATUS SUM(くれ). ITAQUE NE TIMEAS. HANC A PA(お前が)TRE NOSTRO(まだ赤ん坊) ACCEPI(だった頃に), CUM TU A(父さん)DHUC INFA(から)NS ESSES(もらったモノだ). SI QUANDO(俺のことを) MEI OBLIV(忘れそうに)ISCI INCIP(なったら)IAS, HANC ASPI(これを)CE ET MEI(見て) MEMINERIS(思い出してくれ).



 最後の言葉を書いたところで、僕は目を閉じた。

 目頭がとても熱い。

 けど、泣くのは牢を出てから。

 そう思って、僕は三通の手紙を丁寧に折り、洋封筒に封入した。


 時刻は、およそ深夜二時頃だろうか...?

 時計はないが、長いこと生活していれば、なんとなくそれくらいだと分かる。

 もう立ち止まっていられるほど、夜は長くないと。


 僕は心を落ち着かせるため、深く息を吸った。


 そして、決意する――


     『必ず、ここを出てやる!』と。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

図々しいお願いで恐縮ですが、評価やブックマークで応援いただけると、飛んで喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。