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第9話 『脱走』

 

 その夜、僕は眠れなかった。

 考えていた。

 ウェインが、あの姿に変えられた理由を。

 けどいくら考えても、その答えは見つからなかった。


 そういやウェインの父親も、あいつが三歳の時に騎士団に連れて行かれたと言っていたっけな。


 もしかすると、ウェインの父親も同じように?

 いやまさか、そんなはずない。


 鉄格子の向こうにいたウェインは、見回りの兵に連れて行かれ、もういなかった。

 残っているのは、床の上に散らばったわずかな砂鉄と、再会の記憶だけ。


 『久しぶりだな』


 たったそれだけの言葉が、僕の頭の中で何度も響く。

 あの夜、僕も一緒に走れていたら結果は変わっていたのかもしれない。

 そもそも僕が、「聖誕祭の市で力をみせてやる」なんて言わなければ。

 そういった後悔だけが残る。


 ウェインが逃げた。

 でも憎みきれなかった。

 逆の立場なら、僕も同じように逃げていただろうから。

 それに、ウェインがあの姿になってしまったのを見て、胸のどこかが冷え切ってしまったのだ。


 自分が捕まらなければ。

 ウェインが逃げなければ。

 二人とも最初から、盗みなんかしていなければ。


 そんな事を考えたところで何も戻らない。

 時間だけがどんどん過ぎていくばかり。


 そう思いながら、僕はウェインが去った後の、床に落ちていた砂鉄を見つめた。

 ほんの少しだけ残されたそれは、灯りの乏しい牢の中で鈍く光っていた。

 その微かな光が、まだ僕たちに希望はあるのだと。

 そう思わせてくれているようだった。


 そうだ。まだ終わっていない。


 アリーシャに返せていないものだってある。

 自分の罪にだって、まだ向き合えていない。


 それに機骸になった相棒を、このまま地下で朽ちさせていいのかという問いが、心の奥に沈んでいるんだ。


 僕は覚悟を決め、そして小さく息を吐いた。


 「待ってろよ、ウェイン。必ず助ける」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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