第66話 婚礼の前夜
婚礼の、前夜。
魔王城は、招待客で、賑わっていた。
大陸全土から、招待客が、到着していた。クリストフ殿下と、国王陛下。グランハイド公爵と、ヴァルター長兄と、次兄。マリーさん、庭師のロッドさん、洗濯係のエミル。魔族の領主たち。ハインツの教える、半身の血を、引く、子供たちの、何人か——。
城下も、お祭りの、空気だった。料理長と、マリーさんが、料理の山を、用意していた。
しかし、リーシェは——夜更けに、一人で、図書館に、向かった。
お姉さまの絵に、ご挨拶、するため、だった。
◇
図書館の、奥。
ローシェの絵が、月光の下で、立っていた。
月光は、図書館の窓から、入っていた。地下の、月光の小部屋と、同じように、絵を、白く、照らしていた。
リーシェが、絵の前に、しゃがんだ。
「お姉さま」
「ええ」
「明日、婚礼です」
「ええ」
「あなたの、星織りの布で、お仕立て、いただいた、ドレスを、お召し、申し上げます」
「ええ」
「あなたの、髪飾りも、つけて、参ります」
「ええ」
「お姉さま」
「ええ」
「私、ゼルヴァーンさまと、千年の続きを、過ごします」
「ええ」
「お姉さまも、世界の循環の中で——ご列席、いただけますか」
風が、図書館の窓から、入ってきた。
絵の前の、花瓶の花が、揺れた。
お姉さまの、お返事、だった。
◇
扉が、開いた。
「リーシェ」
ゼルヴァーンが、入ってきた。
「ゼルヴァーンさま」
「お姉さまに、ご挨拶か」
「はい」
「僕も、ご挨拶を、申し上げる」
「ええ」
ゼルヴァーンが、絵の前に、立った。
「ローシェ」
「ええ」
「明日、リーシェと、婚礼を、挙げる」
「ええ」
「君が、千年前、僕に、託した、次の半身と、ようやく、続きを、過ごす」
「ええ」
「君の、千年の、想いに——感謝、する」
絵の前の、花が、もう一度、揺れた。
「ローシェ」
「ええ」
「君も、世界の中で、お休み」
「ええ」
「次に、お会いするのは——」
「花の中で」
「ああ」
ゼルヴァーンが、リーシェの肩に、手を、置いた。
「リーシェ」
「はい」
「君と、僕の、千年は——明日から、本当に、始まる」
「はい」
◇
深夜。
ナディアが、リーシェの部屋を、訪ねてきた。
「お嬢様」
「ナディアさん」
「お眠りに、なれませんか」
「眠れません」
「ええ」
「ナディアさんも、デミウルゴさまと、お婚礼の、ご予定は」
「私たちは——」
ナディアが、わずかに、笑った。
「正式な、ご婚礼は、いたしません。千年、すでに、お側に、おりますから」
「ええ」
「ただ、お嬢様の、ご婚礼の、後、私たちは——お側で、お祝いを、いただきました、と、ご報告、いたします」
「ええ」
「お祝い、いたしましょうね、ナディアさん」
「ありがとうございます」
◇
夜更け。
月の庭園。
ゼルヴァーンが、一人で、出ていた。
月光の下で。
彼が、絵の前で、ローシェに、申し上げたのと、違うことを——もう一度、心の中で、申し上げた。
「ローシェ」
「ええ」
「君の、選択を——千年、僕は、責めて、いた」
「ええ」
「『揺らがず、選ばず、消えた』、ことを、僕は、千年、後悔して、いた」
「ええ」
「しかし——リーシェに、出会って、わかった」
「ええ」
「君の選択も、君の答えだった」
「ええ」
「君は、揺らがず、選ばず、消えた。リーシェは、揺らいで、消えなかった。違う答えだが、どちらも、正しい」
「ええ」
「君を、千年、責めて、ごめんなさい」
ゼルヴァーンが、両手で、顔を、覆った。
月光の下で、千年の魔王が、千年の、お詫びを、申し上げて、いた。
風が、吹いた。月の庭園の花が、いっせいに、揺れた。
お姉さまの、お返事、だった。
「もう、いいのよ」
風が、ゼルヴァーンの、頬に、触れた。
ローシェの、最期の、髪の一筋が——千年前の、月光の祭壇で、届かなかった、距離。
今、届いていた。
お読みいただきありがとうございます。
婚礼の、前夜。
リーシェとゼルヴァーンが、お姉さまの絵に、ご挨拶を、申し上げました。
そして月光の下で、ゼルヴァーンが、千年、お姉さまを、責めていた、ことを、お詫び、申し上げました。
「もう、いいのよ」
風が、彼の頬に、触れて、お姉さまが、お答え、くださいました。
次回、第67話「夜が、明ける」。
婚礼の、朝。
二つの月が、両方とも、満月に、なる、日。
千年で、初めての、満月の朝、です。
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婚礼の前夜に、☆ひとつ、お力添えを。
蒼空ルーシェ




