第65話 家族の今後
翌朝。
応接間に、家族が、集まっていた。
婚礼の準備の、合間の、家族会議。テーマは——婚礼後の、それぞれの、未来。
ゼルヴァーンが、口を、開いた。
「皆さま」
「ええ」
「リーシェと、僕の、婚礼が、近づいた。婚礼が終わったら——皆さま、それぞれの、お役目を、もう一度、整理、いたしたい」
「ええ」
「クリストフ殿下」
「はい、陛下」
「殿下は、もうすぐ、国王に」
「父が——退位、を、決意、いたしました。私が、即位、いたします」
応接間が、静まった。
「殿下」
リーシェが、口を、開いた。
「即位、ですか」
「ええ。父は、半身の血を、隠して、母を、苦しめた罪を——退位という形で、引き受ける、と」
「ええ」
「私が、即位して——半身の血を、隠さない、世界を、作って、参ります」
「お母さまの、想いの、続き、ですね」
「ええ」
「ご立派です、殿下」
「ありがとうございます」
◇
「アルト」
ゼルヴァーンが、隣の十二歳を、見た。
「は、はい」
「君は——」
「ぼく、グランハイドを、継ぐ、ご準備を、します。八年で」
「うん」
「魔王城の、図書館で、勉強、させて、もらえますか」
「ああ」
「ぼく、ハインツさんと、文字の、お勉強、したいです」
ハインツが、頷いた。
「私、書庫長を、しながら、アルト様の、家庭教師も、いたします」
「ハインツさん」
「ええ。半身の血を、引いた者として、十二歳の、未来の公爵に——文字を、お教え、申し上げます」
「ありがとうございます」
◇
「リューシェさま」
リーシェが、口を、開いた。
「ええ」
「あなたは、これから、どう、なされますか」
「私は——」
リューシェが、長く、考えた。
「千年、無名の女王を、追って、生きてきました。お姉さまの、千年は、終わりました。私自身の、千年も、ここから、始まります」
「ええ」
「グランハイド領に、お戻りに、なるんですか」
「いえ」
「では、どこへ」
「世界を、旅して、参ります」
応接間が、静まった。
「旅、ですか」
「ええ。千年、ずっと、無名の女王の影だけを、見て、世界を、歩いて、参りました。これからは——花が咲く、世界を、見たいです」
「ええ」
「ノエル」
「リューシェさま」
「あなたも、ご一緒に、参りませんか」
ノエルの目が、見開かれた。
「私が、ですか」
「ええ。お姉さまの、面影を、追う、千年、で、はなく——あなた自身の、千年を、生きるために」
「リューシェさま」
「お互いの、千年を、お見守り、申し上げる、と、約束、いたしました」
「ええ」
「では、ご一緒に、世界を、お見守り、申し上げましょう」
ノエルが、頷いた。深く。
「お供、いたします」
ナディアが、隣で、息を、呑んだ。
「ノエル、お妹さま」
「ナディアおねえさま」
「お見送り、申し上げます」
「年に一度の、お祭りで、お会いしましょう」
「ええ」
◇
「では、皆さま、ご決断、なさいました」
デミウルゴが、眼鏡を、直した。
「クリストフ殿下は、国王に。アルト様は、家督継承の、お勉強に。ハインツ様は、書庫長と、家庭教師に。リューシェ様と、ノエル様は、世界の旅に。フィン様は、すでに、ご隠居」
「ええ」
「では、魔王城に、残りますのは——陛下、半身さま、私、ナディア、で、ございます」
ゼルヴァーンが、頷いた。
「デミウルゴ」
「はい」
「ナディア」
「はい」
「お前たちは、これから、どうする」
二人が、目を、合わせた。
長く、見つめあった。
ナディアが、口を、開いた。
「陛下。私たちは、これからも、お側に」
「ああ」
「ただし——」
「ただし」
「私たち、二人で、お側に」
「ええ」
「二人で——」
デミウルゴが、咳払いを、した。
「ナディア」
「ええ」
「お前は、明日、明後日、と、お話、申し上げると、お約束、いたしました」
「えっ」
「今日、で、よろしいですね」
「あら、もう、お話、なさいますか」
「お話、申し上げます」
デミウルゴが、立ち上がった。
応接間の、家族たちの前で。
眼鏡を、外した。千年、お姉さまから賜った、眼鏡を、テーブルの上に、置いた。
「ナディア」
「ええ、デミウルゴさま」
「千年、お側で、お慕いして、参りました」
「ええ」
「私と、千年の続きを、ご一緒に、過ごして、いただけませんか」
ナディアの目から、涙が、ぼろぼろ、落ちた。
応接間の、誰もが、息を、止めて、見つめていた。
「デミウルゴさま」
「ええ」
「私も、千年、お側で——お慕い、申し上げて、おりました」
「ええ」
「お側に、いさせていただきます」
「ああ」
二人の、千年仕えた者たちが、千年遅れの、お互いの、お慕いを、ようやく、声に、出した。
応接間に、拍手が、満ちた。
アルトが、いちばん、大きな、拍手を、していた。
◇
「千年お仕えしておりますが——」
デミウルゴが、眼鏡を、もう一度、かけた。
「数えるな」
「これは、私自身の、記録でございます」
「ああ」
「お祝いの記録は、これからは、自分のことを、記録、いたします」
ゼルヴァーンが、笑った。
大食堂、ではなく、応接間に、笑い声が、満ちた。
◇
夕方。
月の庭園。
ゼルヴァーンと、リーシェが、二人だけで、立っていた。
「リーシェ」
「ええ」
「家族の、皆さまの、未来が、決まったな」
「ええ」
「君と、僕の、未来は——婚礼の日に、決まる」
「ええ」
「あと、一週間」
「ええ」
「楽しみ、です」
「ああ」
ゼルヴァーンが、リーシェの肩を、抱いた。
月光の下で。
お読みいただきありがとうございます。
家族の、未来が、決まりました。
クリストフ殿下は、国王に。
アルト様は、グランハイド継承の、お勉強に。
ハインツ様は、書庫長と、家庭教師に。
リューシェ様と、ノエルは、世界の旅に。
フィン様は、ご隠居。
そして——
デミウルゴと、ナディアが、千年遅れの、お互いの、お慕いを、声に、出しました。
千年お仕えしておりますが——お祝いの記録は、これからは、ご自分の記録でございます。
次回、第66話「婚礼の前夜」。
婚礼の、前夜。
リーシェが、千年前のお姉さまの絵に、お会いに、なられます。
——千年遅れのお慕いに、思わず「よかった」と言った方。どうか、一押しを。
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蒼空ルーシェ




