第64話 婚礼の準備
婚礼の日は、一ヶ月先に、決まった。
二つの月の、両方が、満月に、なる、夜。千年ぶりに、二つとも、満ちる日。
その日に、合わせて——婚礼が、執り行われる、ことに、なった。
大陸全土に、招待状が、送られた。クリストフが、王太子として、人間側の招待を、取りまとめた。ハインツが、書庫で、招待状の文面を、書いた。インクで、黒く、染まった、彼の指で。
魔族側は、デミウルゴが、取りまとめた。眼鏡を、何度も、直しながら。
「千年お仕えしておりますが——婚礼の招待状を、書くのは、初めてでございます」
「うん」
「お祝いの記録でございます」
「うん」
◇
仕立て部屋。
カルラが——千年前の、ローシェさまのドレスも、仕立てた、四本指の女性が、今朝、リーシェの寸法を、取り直していた。
「半身さま」
「カルラさん」
「千年に一度の、ドレスを、お仕立て、いたします」
「ええ」
「素材は——千年前のローシェさまのために、織られた、もう一枚の、星織りの布。私が、千年、誰にも、お渡しせず、保管しておりました」
リーシェの息が、止まった。
「お姉さまのために、織られた布」
「ええ。お姉さまは、停戦調印の夜に、お亡くなりに、なられて、婚礼の、お召し物は、お作りに、なれませんでした」
「ええ」
「千年、保管しておりました。本来は、お姉さまの、お墓に、お納めする、つもりで」
「カルラさん」
「ええ」
「お姉さまは——今、世界の循環の中に、いらっしゃいます」
「ええ」
「では、お姉さまの布で、私が、婚礼の、お召し物を、お仕立て、いただいて——」
「お姉さまも、ご一緒に、ご列席、いただける、ことに、なります」
「ええ」
カルラが、深く、頭を、下げた。
「お姉さまも、お悦びに、なられるかと」
「お任せ、いたします」
◇
夕方。
城下から、客人が、到着した。
マリーさん。
料理番の、おばさん。短期勤務として、魔王城に、来てくれていた。
リーシェが、城門に、出迎えた。
「マリーさん」
「お嬢様」
「来てくださって、ありがとうございます」
「お嬢様、私、料理長と、もう、ずっと、お仕事、ご一緒、しております。料理長の、四本腕が、便利、で」
「ええ」
「お嬢様、ご婚礼の、お料理は——私、ぜひ、お作りしたいです」
「マリーさん」
「ええ」
「お願い、します」
「お嬢様の、お好きな、蜂蜜のパン。ご結婚式のご朝食に」
「うん」
「お料理長と、二人で、お作りいたします」
「ありがとう、マリーさん」
マリーが、リーシェを、抱きしめた。
「お嬢様、お幸せに」
「ありがとう、ございます」
◇
夜。
ノエルが、リーシェの部屋を、訪ねてきた。
「リーシェ」
「ノエルさん」
「お祝い、申し上げます」
「ありがとうございます」
「お祝いに——」
ノエルが、何かを、両手で、差し出した。
小さな、銀の、髪飾り。
花の形。
しかし、千年前の、何かと、似ていた。
「これは」
「お姉さまの、髪飾り、で、ございました」
「お姉さまの」
「ええ。千年前、私が、収穫した時、お姉さまが、お持ちでした。千年、私が、保管していた、ものです」
「ノエルさん」
「お姉さまから、預かった、つもりで、千年——お返しする、相手を、待っていました」
「ええ」
「お姉さまの、髪飾りを、あなたに、お渡し、いたします」
「ノエルさん」
「ええ」
「これは、お姉さまの、想いの、続きです」
リーシェが、両手で、髪飾りを、受け取った。
涙が、一粒、髪飾りの上に、落ちた。
「お姉さま——」
「ええ」
「婚礼の日に、これを、つけて、参ります」
「ええ」
◇
その夜。
ゼルヴァーンが、リーシェの部屋を、訪ねてきた。
「リーシェ」
「ええ」
「明後日、君と、二人だけで、出かけてもいいか」
「どちらに」
「グランハイド領」
「公爵家、ですか」
「ああ。お父上に、ご挨拶を、申し上げに」
リーシェの息が、止まった。
「お父様に」
「ああ。君を、お嫁に、いただきたい、と、申し上げる」
「ええ」
「許してくださるか、許してくださらないかは、関係なく、申し上げに、行く」
「ええ」
「ただ、君の、お父上として——お声をかけ、申し上げる、礼儀として」
リーシェの目から、涙が、ぼろぼろ、落ちた。
「ゼルヴァーンさま」
「ああ」
「お父様、お喜びに、なられると、思います」
「そうか」
「ええ。お父様が、私を、リーシェと、呼んでくださった、あの日——お父様は、私を、家族として、お見送り、なさる、お気持ちで、いらっしゃいました」
「ああ」
「明後日、ご一緒に、お伺いいたします」
「ああ」
お読みいただきありがとうございます。
婚礼の準備が、進んでおります。
カルラさんが、千年前のお姉さまのために、織られていた、もう一枚の、星織りの布で、ドレスを、お仕立て、いただきます。
ノエルが、千年、お預かりしていた、お姉さまの髪飾りを、リーシェに、お渡し、いたしました。
そして、明後日、ゼルヴァーンが、リーシェの、お父様に、ご挨拶を、申し上げに、行くことに、なりました。
次回、第65話「家族の今後」。
婚礼に、向けて——家族、それぞれの、未来が、定まります。
ブックマーク・評価・感想、何卒、お願いいたします。
お姉さまの、髪飾りに、☆ひとつ、お力添えを。
蒼空ルーシェ




