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要らない娘と呼ばれた私を、魔王は千年待っていたそうです ~捨てた公爵家は没落し、私は世界で一番幸せになりました~  作者: 蒼空ルーシェ


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第63話 婚礼の話

 翌朝。


 大食堂に、八人が、揃った。


 誰も、まだ、昨日の、月の庭園のことを、口に、出していなかった。


 しかし、空気が、明らかに、違った。


「皆さま」


 リーシェが、口を、開いた。


「お話、申し上げます」


 家族の、目が、彼女に、集まった。


「ゼルヴァーンさまと、私は——婚礼を、挙げる、ことに、なりました」


 大食堂が、しんと、静まった。


 誰も、驚いた顔を、しなかった。


「分かっていらっしゃった、ご様子ですね」


「千年お仕えしておりますが——」


「数えるな」


「ただいま——」


「やめろ」


「お祝いの、記録でございます」


 大食堂に、笑い声が、満ちた。


 ナディアが、立ち上がって、リーシェを、抱きしめた。


 アルトが、リーシェの腰に、しがみついた。


「ねえさまっ」


「うん」


「ぼく、嬉しいですっ」


「うん」


「ぼく、ねえさまの、結婚式で、何か、お役目、ありますかっ」


「アルト」


「うん」


「もちろん、あなたが、私を、ゼルヴァーンさまに、お渡し、するお役目です」


「えっ、ぼく?」


「ええ。あなたが、私の、いちばん、近い、家族、です」


 アルトの目が、見開かれた。それから、涙が、ぼろぼろ、落ちた。


「ぼく、ねえさまの、お父さまの、代わり、で、いいんですかっ」


「ええ。私の、家族の、代表、として」


「やります、ぼく——」


「ありがとう、アルト」



   ◇



 ノエルが、口を、開いた。


「リーシェ」


「ノエルさん」


「私も——お役目を、いただいて、よろしいですか」


「もちろんです」


「私、千年、結婚式というものを、見たことが、ありません」


「ええ」


「学んで、おりますので——」


「ノエルさん、あなたは、私の——遠い、親戚ですよね」


「ええ」


「ご親戚として、ご列席を」


「親戚として」


「ええ。家族の、お姉さまの一人、として」


「ありがとうございます」


 ノエルの目から、涙が、落ちた。


「私、千年、結婚式に、招かれることなど、なかったから——」


「これから、毎年、お祭りに、ご招待します」


「ええ」



   ◇



 デミウルゴが、眼鏡を、直した。


「陛下」


「何だ」


「婚礼の、ご準備に、つきましては」


「お前に任せる」


「畏れ多い、ことで」


「お前ほど、千年の、僕のことを、知っている者は、いない。お前に、任せたい」


「は」


「ローシェの時に、できなかった、婚礼を——」


 デミウルゴの目が、揺れた。


「陛下」


「うん」


「ローシェさまの、お席を、用意しても、よろしいでしょうか」


「ローシェの、席」


「ええ。世界の循環の、中で、お見えに、なって、いらっしゃるなら——」


 ゼルヴァーンが、長く、考えた。


「リーシェ、君は」


「ええ、用意しましょう」


「ああ」


「お姉さまも、ご列席いただきましょう。世界の、お花の中で」


 デミウルゴが、深く、頭を、下げた。


「ありがとう、ございます」



   ◇



 午後。


 リーシェが、月の庭園に、出ていた。


 一人で。


 月の庭園の、咲き乱れる花の前で。


 彼女は、しゃがんで、土に、手のひらを、置いた。


「お姉さま」


「ええ」


「お母さま」


「ええ」


「私、結婚、します」


「ええ」


 返事は、なかった。


 しかし、風が、吹いた。花が、いっせいに、揺れた。


 月の庭園の、すべての花が、頷くように——揺れた。


 お姉さまと、お母さまの、お祝いの、声、だった。


「ありがとうございます、お姉さま、お母さま」


 リーシェの目から、涙が、ぼろぼろ、落ちた。土に、染みた。


 その場所から——もう一つ、白い花が、咲いた。


 三輪目の白い花。


 婚礼の、印、だった。



   ◇



 夜。


 応接間。


 婚礼の準備の、最初の会議。


 ゼルヴァーンが、リーシェの隣に、座っていた。


「ゼルヴァーンさま」


「ああ」


「お招きするのは、誰、ですか」


「家族と——クリストフ、と、人間の貴族、何人か。あとは、魔族の領主、と——」


「マリーさんも、お招き、しますね」


「ああ。庭師のロッドさんと、洗濯係のエミルも」


「ええ」


「公爵家からも——」


「お父様、ご兄弟」


「ああ」


「お招きしましょう」


「許す、と、いうことか」


「いいえ。許す、ではないです。ただ、家族として——お招きするだけ、です」


「ああ」


「公爵家での、決算が、ついたから——お招きできる、ように、なりました」


「ああ」


「では、お招き、状を、お書きしましょう」



   ◇



 夜更け。


 月の庭園。


 ゼルヴァーンと、リーシェが、二人だけで、立っていた。


「リーシェ」


「ええ」


「婚礼の日が——本当に、来るんだな」


「ええ」


「君を、千年待った、僕が——千年遅れの、婚礼を、挙げる」


「ええ」


「リーシェ」


「はい」


「ありがとう」


「お礼は、もう、いいです」


「あ、すまない」


「ふふ」


「リーシェ」


「ええ」


「君は、世界で、いちばん、幸せな半身、だと、申していたな」


「ええ」


「今も、そう、思っているか」


「ええ」


「では、婚礼の日には、世界で、いちばん、幸せな、花嫁、で」


「あなたが、いちばん、幸せな、魔王、ですよ」


「ああ」


 ゼルヴァーンが、リーシェの肩に、頭を、預けた。


 千年の魔王が、半身の肩に、頭を、預けた。


 千年で、初めての、姿勢、だった。


「リーシェ」


「ええ」


「重くないか」


「重くないです」


「本当か」


「重くないです」


「本当に?」


「重い」


「ひどい」


「冗談です」


「冗談に、聞こえません」


 二人が、笑った。


 月の庭園に、笑い声が、響いた。


 三輪の白い花が、月光の下で、揺れていた。



 第2部第5章「もう一度の朝」 了。

お読みいただきありがとうございます。

第2部第5章「もう一度の朝」、ここまでです。


リーシェが、家族に、婚礼の、お知らせを、いたしました。

アルトが、お父さまの代わりに、お嫁に、お渡し、する、お役目に。

ノエルが、ご親戚として、ご列席。

デミウルゴが、お姉さまの席を、用意する、こと、に、なりました。


そして——月の庭園の、お花が、お姉さまと、お母さまの、お祝いの声を、お返事、いたしました。


次回、第64話「婚礼の準備」。

第2部第6章「次の千年」、開幕。

婚礼の日が、近づいて、まいります。


ブックマーク・評価・感想、何卒、お願いいたします。

三輪目の、白い花に、☆ひとつ、お力添えを。


花は嵐でも咲きます。

許された影の場所にも、咲きました。


蒼空ルーシェ

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