表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
要らない娘と呼ばれた私を、魔王は千年待っていたそうです ~捨てた公爵家は没落し、私は世界で一番幸せになりました~  作者: 蒼空ルーシェ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/56

第52話 母上

 祭壇の、壁画。


 千年前の絵が、続いていた。


 ハインツが、灯りを、別の壁面に、向けた。


 そこには——王宮らしき、建物が、描かれていた。


「これは、王宮ですか」


「左様で、ございます。十五年前の、王宮、で、ございます」


 クリストフの息が、止まった。


「十五年前」


「殿下のお母さまが、お亡くなりに、なられた、年」


 壁画の、王宮の、奥に——女性が、描かれていた。


 金髪の、若い女性。


 クリストフが、足を、止めた。


「これは——」


「お母さま、で、ございます」


 クリストフの手が、震えた。


「母上が、なぜ、千年前の壁画に」


「千年前の壁画では、ございません」


「では」


「祭壇は、生きております。無名の女王の、肉体です。壁画は、彼女の、記憶を、写したもので、ございます」


「記憶」


「ええ。無名の女王が、収穫した、半身の血を、持つ女性の、最期の記憶を、すべて、壁に、写しているのでございます」


 クリストフが、母の絵に、近づいた。


 絵の中の母は——夜の森に、立っていた。


 月光の下で。


 穏やかに、立っていた。彼女の、目の前に——黒い、影が、立っていた。リーシェの輪郭をした、影。無名の女王。


 二人は、向かい合って、いた。


「母上」


「殿下、お母さまの、最期の、ご様子です」


「母は——」


「収穫される、その瞬間、まで」


 クリストフの目から、涙が、ぼろぼろ、落ちた。


「母上、お一人で」


「いいえ」


 ハインツが、首を、振った。


「絵の、母上の手元を、よくご覧、ください」


 クリストフが、灯りを、近づけた。


 絵の中の母は——両手で、何かを、握っていた。


 小さな、銀のロケット。


「これは——」


「お母さまの、ロケット、で、ございます。今、殿下が、お持ちの」


「母上が、最期に、ロケットを、握っていた」


「左様で、ございます」


「中には——」


「お母さま、ご自身では、ございません」


「では」


「殿下の、肖像、で、ございました」


 クリストフの息が、止まった。



   ◇



 ハインツが、続けた。


「お母さまは、最期に、ロケットを、開けて、殿下のお顔を、ご覧に、なっておられました。私は、十年、古文書を、解読する間に——お母さまの、最期の記録を、見つけました」


「お母さまの、記録」


「ええ。お母さまは、収穫される、その夜、こう、おっしゃいました。『私は、私の息子に、半身の血を、隠さない世界を、残したい。だから——私は、消える。私が、消えれば、私の息子は、私の罪を、引き継がない』」


「母上は——私のために、消えた」


「左様で、ございます」


 クリストフが、両手で、顔を、覆った。


 長く、応接間ではないが、静まった。



   ◇



「殿下」


 リーシェが、彼の隣に、立った。


「クリストフ様」


「リーシェさん」


「お母さまは、ご自分のために、消えたのではなく、殿下のために、消えました」


「はい」


「では——殿下が、なさるべきことは」


「母を、責めることでも、私を、責めることでも、ない」


「ええ」


「母の、想いを、引き継いで、半身の血を、隠さない世界を、作ること」


「ええ」


「リーシェさん」


「はい」


「私は——昨日、グランハイドの議論で、半身の血を、引く子供たちの教育を、王家が、支援する、と、申し上げました」


「ええ」


「あれは、母の、最期の想いの、続きだったのですね」


「ええ」


「私は、知らずに、母の想いを、続けて、いた」


「ええ」


 クリストフの目から、また、涙が、落ちた。


「母上——」


「殿下」


「私は、母を、ようやく、解放できました」


「ええ」



   ◇



「では」


 リーシェが、振り返った。


「無名の女王さんの、ところに、行きます」


 祭壇の、奥に、黒い、扉が、あった。壁画の、終わりの場所。


「あの扉の、向こうに——」


「無名の女王の、本体が、ございます」


「行きます」


「お嬢様、お一人で——」


「ええ」


「では、私は——」


「ゼルヴァーンさま、お一人だけ、ついてきて、ください」


 ゼルヴァーンが、頷いた。


「他の、皆さまは、ここで」


「お嬢様」


 リューシェが、口を、開いた。


「私は、千年、お姉さまの、仇を、追って、参りました。最期くらい、お側に——」


「リューシェさま」


「ええ」


「お姉さまは、お姉さまで、休んで、おられます。あなたは、ここに、いて、ください」


「お嬢様」


「あなたの千年は、ここから、です」


 リューシェが、長く、考えた。頷いた。


「承知、いたしました」


 ナディアと、フィンも、頷いた。


 デミウルゴが、眼鏡を、直した。


「半身さま」


「はい」


「私は、千年お仕えしておりますが——お嬢様の、ご決断を、信じます」


「ありがとうございます」


 ハインツも。


「殿下、私は、こちらに、残らせていただいて、よろしいでしょうか」


「ああ」


 クリストフが、頷いた。


「リーシェさん。母の想いを、半身さまに、お任せ、いたします」


「ええ」


 アルトが、最後に。


「ねえさま」


「アルト」


「ぼく、ここで、待ってます。ねえさまが、戻ってこなかったら——ぼく、ねえさまを、迎えに、行きます」


 リーシェが、しゃがんだ。


「アルト、迎えに、来てくれる?」


「うん」


「ありがとう」


 リーシェが、立ち上がった。


 ゼルヴァーンの手を、握った。


「行きましょう」


「ああ」


 二人が、黒い扉に、向かって、歩いていった。


お読みいただきありがとうございます。


クリストフが、母の最期を、知りました。

母は——息子のために、消えていました。

ロケットの中に、息子の肖像を、握って。


クリストフの戦いは、ようやく、終わりました。

母の想いの、続きを、生きるだけに、なりました。


そして——リーシェと、ゼルヴァーンが、無名の女王の、本体のもとへ、向かいます。


家族の皆は、祭壇の間で、待ちます。

アルトが、こう、申し出ました。

「ねえさまが、戻ってこなかったら、ぼく、迎えに、行きます」


次回、第53話「ローシェの絵」。

祭壇の、奥の扉の向こうに——千年前の、お姉さまの、最後の絵が、ございます。


ブックマーク・評価・感想、何卒、お願いいたします。

母を、解放したクリストフに、☆ひとつ、お力添えを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ