表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
要らない娘と呼ばれた私を、魔王は千年待っていたそうです ~捨てた公爵家は没落し、私は世界で一番幸せになりました~  作者: 蒼空ルーシェ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/47

第44話 クリストフ、来訪

第2部第3章「公爵家の決算」、開幕。三日後、王太子が、味方として魔王城の門をくぐります。


 白と金の馬車が、魔王城の門前に止まった。


 前回のような、軽装の単独訪問ではない。従者が十人、儀仗兵が五人。胸に王家の紋章を掲げた、公的な訪問だった。


 馬車から、クリストフが降りた。白い礼装。前に会った時よりも、目の下に、薄く隈があった。


「ゼルヴァーン陛下。半身さま」


 彼が、深く一礼した。


「お招きいただき、感謝申し上げます」


 ゼルヴァーンが頷いた。


「クリストフ殿下。よく来てくれた」


「殿下」と、リーシェも頭を下げた。「お話、お伺いします」



   ◇



 応接間。


 六人の家族と、クリストフ、ハインツが、向かい合った。


 ハインツが、自分の主の前に立つのは、独断で離反して以来、初めてのことだった。指のインクの染みた手を、膝の上で、固く握っていた。


「ハインツ」


 クリストフが、彼を見た。


「は――」


「お前、よく、ここにいてくれたな」


「殿下」


「責めるつもりはない。むしろ、感謝している」


「殿下、それは――」


「お前が、ここにいて、半身さまにお話し申し上げたから、私は今日、こうして、ここへ来られた」


 応接間の空気が、変わった。


 ハインツが、深く頭を下げた。


「殿下。ありがとうございます」


「お前は、もう、私の影ではない。家族のような、何かだ」



   ◇



「では、本題に入らせていただきます」


 クリストフが、書類をテーブルに置いた。


「停戦条約の改定議題として――グランハイド公爵家の処遇について、議論をいたしたく」


「処遇」


「具体的には、三つ。一つ、公爵家の家督継承。二つ、公爵領の統治責任。三つ、半身さまの、ご出自としての扱い」


「ご出自」


「ええ。千年に一度の半身さまを輩出した家として、グランハイド領を、特別、保護下に置く案でございます」


「保護下、というのは」


「王家の、直轄」


 応接間が、静まった。


「リーシェ」


 ゼルヴァーンが、口を開いた。


「君の意見は」


「待ってください」


 リーシェが、首を振った。


「先に、お聞きしたいことが、あります。殿下」


「はい」


「お母さまの、ことです」


 クリストフの目が、わずかに見開かれた。


「お母さま」


「ハインツさんから、お話を伺いました」


 クリストフが、隣の男を見た。


 ハインツが、深く頭を下げた。


「申し訳ございません、殿下。半身さまに、お母さまのことを、お伝えいたしました。――お母さまが収穫されたとき、ご自分の半身の血を、お認めになられたこと。最後に『私は、もう、要らない、と、言われたくない』と、おっしゃったこと」


 クリストフの呼吸が、止まった。



   ◇



 長い、沈黙。


 クリストフが、両手で顔を押さえた。


「母上――」


 声が、震えた。


「母上は、要らない、と、言われていたのですか」


「殿下」


 ハインツが、口を開いた。


「お母さまは、前国王陛下と、長年、ご不和でございました。半身の血を隠して、ご結婚なさいました。それを陛下が後にお知りになり――」


「父上が、母上を、要らない、と」


「左様でございます」


「私が、まだ八歳の時か」


「ええ」


「だから母上は、あの夜、自ら、夜の森へ出ていかれた」


「収穫を、ご自分で、迎えに行かれた。そう申し上げても、過言ではございません」


 クリストフの目から、涙が、ぼろぼろ落ちた。王太子の礼装を纏ったまま。応接間の床に、雫が染みた。


「母上は――要らない、と言われたまま、消えたのですか」


「いいえ、殿下」


 ハインツが、首を振った。


「お母さまは、最後に、お認めになりました。ご自分を。『私は、半身の血を持つ、女性です』と、ご自分のお声で」


 クリストフの、両手が、震えた。


「母上は――ご自分で、ご自分を、お認めになって、消えたのですか」


「ええ」


「私は、知らなかった。十五年、母上を、奪われた、被害者としか、思っていなかった。それが――」


「殿下」


「母上は、ご自分の最後の夜に、ご自分を、お救いになったのですね」


「左様でございます」


 クリストフが、両手で、顔を覆った。長く。



   ◇



 リーシェが、椅子から立ち上がった。


 クリストフの前に歩き、その前に、しゃがんだ。


「殿下。お母さまは、最期に、お救いになりました。だから、もう――殿下が、お母さまの代わりに、お救いになる必要は、ないんです」


 クリストフの目が、リーシェを見た。


「私が、母の代わりに」


「ええ。殿下は、お母さまを救えなかった、と思って、半身を求めておられました。でも、お母さまは、もう、お一人で、救われておられました」


 クリストフの目から、また涙が落ちた。


「私は、十五年、間違っていたのですか」


「間違っていた、のではありません」


「では」


「お母さまの想いを、引き継いで、おられました。お母さまは、最後に、ご自分の血を、認められた。半身の血を、要らない、と言わせない、と。殿下は、その想いを、十五年、ご自分で、引き継いで、こられたのです」


 クリストフが、長く、リーシェを見た。そして、頷いた。


「私は――母の、想いの、続き、だった」


「ええ」


「半身を、要らない、と、言わせない、想いの」


「ええ」


 クリストフが、目を閉じた。長く。それから、両手を、膝に下ろした。


「半身さま。ありがとうございます。これで――私は、母の前で、ようやく、母の息子に、戻れます」


 彼が、立ち上がった。


「グランハイド公爵家の処遇は、後日に、いたしましょう。今日は、母のことで、頭が、いっぱいでございます」


「もちろんです」


「明朝、もう一度、ご相談を」


「お待ちしております」



   ◇



 夜。


 クリストフは、城の客室の窓辺で、母のロケットを開いていた。中の肖像が、月光に照らされている。


「母上」


 彼が、囁いた。


「私は、母上を、救えませんでした。けれど――母上は、お一人で、お救いになって、いらしたのですね」


 月光が、肖像を、優しく照らしていた。


 クリストフが、ロケットを握った。


 今夜は、長く握らなかった。ただ、軽く握って、閉じた。そして、机の上に置いた。


 握り続ける必要は、もう、なかった。


お読みいただきありがとうございます。


クリストフが、母の最期の真相を、知りました。十五年、母の代わりに戦ってきた王太子が、今夜、母を、解放しました。そして、ロケットを長く握らずに、机の上に置きました。


彼の戦いは――もう、復讐ではなくなりました。


次回、第45話「父からの手紙」。明朝の議論を前に、グランハイド公爵から、リーシェに、十七年ぶりの、本物の手紙が届きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ