第9話 双子はアイドルを望まない
普通な学校生活
「あー、お風呂掃除面倒くさーい。帰りたくなーい」
「あれ、未来ちゃん、部活でないの?」
とある日の平日。
高山未来は中学校の放課後の教室で机に突っ伏していた。周囲には彼女と仲の良い同級生達が何人かおり、雑談をしていた。つい数秒前は数学教師の松井あきらがイケメンかイクメンかという話をしていた。ちなみに松井は独身なのでイケメンである。
「んー、今月はどこもいかなーいというか、行けなーい。お風呂掃除当番になっちゃったんだもん」
未来の言葉に同級生達は納得した。同級生達は未来が地域にあるとある大きめのお屋敷に家族共々居候として住んでいることを知っていた。そして、そこの家主と苗字が違うため、訳ありだなと察していた。
さらに「居候というか、同居というか」と彼女が中学校入学時のクラスの自己紹介で口をもしゃもしゃさせながら言っていたのでそこについて、同級生達はあまりツッコまないようにした。
大変に性格の良い同級生達である。
「それに今日はマーちゃんもはーくんも仕事だし、ハルちゃんとそうくんは遠出の仕事だし。ユズちゃんとゆかちゃんは東京でイベント参加するーとか言って出掛けちゃったし。舞ねぇは夜の仕事から帰ってきてのようやくのお休みだから頼れないし、みっちゃんなんて生放送だから電話すらできないんだよー」
未来は机に突っ伏したまま、今朝のことを思い出す。今日、夜まで誰も頼れないと聞かされたことを。実は異母姉妹だとか周囲には言えない舞華も、一日掛けての撮影を終えて今朝未明に帰宅したので頼りづらいなーとなっていた。
「怒濤の情報。つまり、お家では誰も頼れないから自分で家事をやらなくちゃいけないと」
「まあ、皆、自分の担当家事はやっておいてくれてるから、自分の分だけやればいいだけなんだけどね」
「うーん、確か未来ちゃんって工藤さんって人のところに住んでるんだっけ」
「そうそう」
同級生の言葉に未来はうんうんと突っ伏したまま、頷く。
周囲の男子の同級生達は首痛くなんねぇのかな、とか思い始めているが口には出さない。口に出したら、「痛いに決まってるでしょ」と何言ってんのくらいの勢いで返されたことが既にあるからである。
「ちゃんと家事分担とかあるんだね」
「まあね。あ、でも、今日は明さんいるから、明さんが料理とか子守とかはやっておいてくれるんだけどねー」
明さんなー、こういうときは有り難いんだよなと未来は内心、話しながら思った。
明さん──本名、工藤明仁──は彼女にとっては家主兼同居人兼父親のような存在だった。家事は同じく同居しているアイドル達で行われているため、明仁がすることはない。が、必要に応じて、彼も家事を行うため、アイドル達にとっては感謝しかできない存在であった。
勿論、未来にとってもそれは同じであった。
「へー(棒読み)」
「っていうかさ、舞華のこの前出てた番組見た?!」
「あー、インタビュー番組だよね。見た見た。はーくんに「マナマキ」見たいからって、テレビ番組選択権奪われたからウィーホースで、だけど」
「あー、「マナマキ」流行ってるもんね」
「私は絶対、舞華だけどね」
少し離れた場所から他の同級生達が舞華達に話しかける。話題はどうやらアイドルの舞華と、二人組のアイドル「マナマキ」についてだった。
「「フラワー」いいもんねぇ。特に舞華、可愛いし、性格いいもんね。私、アイドルになったら、舞華みたいになりたーい」
「未来ちゃんもやっぱり、アイドルなりたい感じ?」
「あー、いや、私はアイドルっていうよりは教師目指してるかな」
アイドルチーム「フラワー」の舞華。
二人組のアイドル「マナマキ」のマナ。
未来は黙っていた。実はその2人が実生活で一緒に家に住んでいるということは黙っていた。それよか、実は舞華が異母姉妹であることも黙っている。言ってしまえば、スキャンダルとして姉の人生が終わってしまうから。
だからこそ、彼女は姉である舞華と同じ人生は歩まない。
「まじめー」
「真面目で結構ですー」
ワチャワチャと明るい教室。これぞ普通の学校生活みたいな光景が今、教室内では広がっていた。
「おい、高山、お前、他校の奴から呼ばれてるぞ。有名私立校の制服着ている男」
不意に未来は教室の前扉から声を掛けられる。声の主は同級生の1人「大竹杏」だった。名前は女子だが、実際は男子の同級生だった。杏は未来へ何とも言えない不満げな顔を向けながら言葉を掛ける。
杏から掛けられた言葉に未来も何とも言えない顔になった。
「え、誰」
「え、告白じゃない?!」
「風呂掃除がとかなんとかって言ってたけど」
「……んー、あ、祐にぃね」
杏の次の言葉で未来は全てを察した。風呂掃除のために迎えに有名私立中学から自分のいる中学校に来る人間は今の時期、この世界を探しても1人しかいないと。
そう、双子の異父兄妹の祐馬しか、そんな理由で来ないことを察した。
「にぃ?」
「お迎え来たから帰るねー」
周囲の疑問と沈黙と疑念を余所に未来はニッコニコの笑みになり、机の上に出していた筆記用具を通学カバンの中に投げ込んだ。
「また明日ー」
「また、あしたー……」
「「………………未来ちゃん/高山ってお兄さん/兄貴いたの?! /いたんかい!!」」
慣れた様子で荷物を持ち、そこそこなスピードで教室から出て玄関に向かった未来の耳にはそんな同級生達の叫び声はあんまり、聞こえていなかった。
「祐にぃ、お迎えありがと」
「未来、教室から叫び声聞こえてるけどいいのか」
「うーん、多分大丈夫大丈夫」
「本当に大丈夫かよ」
「大丈夫大丈夫」
「ならいいけど」
「あ、それよりも、今日、明さんと神風くん、迎えに来るって」
「は?!」
「車で来るから職員駐車場で待っとけってRoot来たよ」
「僕んところ来てない」
「どうせ合流するだろうから、そのとき言えって」
「読まれてるっ!!」
なお、明仁と神風のお迎えは祐馬の心からの叫びの2分後に到着した。
少女はアイドルを目指さない。弟もアイドルにはならない。
読んでくださりありがとうございました。お時間があれば、感想・評価などいただければと思います。




