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第8話 殺人鬼は幼馴染みのアイドル推し

殺人鬼と幼児


 唐突だが、殺人鬼が21世紀の島国、日本にはいるのだろうか。


 答えはNo。


 殺人鬼と明確に言われるような人間は現存していないだろう。


 だが、表の世界の人間が知らないところで人を殺しまくっている人間がいたとすれば、その人間はどこかでは殺人鬼と称されるかもしれない。


「……美月(みつき)、今日も変わらず歌が上手いな」


 そう、例えばこの青年。


 とあるテレビ局の地下4階の地下室にて、過去に何件もの強姦(ごうかん)事件を起こし、未だに逮捕されていないテレビ局員をサラッと殺したこの青年。サラッと殺したうえで遺体をこの世から消し去るために違法な遺体処理業者と違法な特殊清掃業者に使い捨てスマホで連絡を取っているこの青年。


「親友がこんなオレでごめんな」


 彼は現在、両者からの返答待ちのため、ワイヤレスイヤホンを片耳にのみ装着し、アイドルチーム「ツキヨミ」が出演している生放送音楽番組をスマホで見ていた。


「でも、今日もやる気出るな。あと7件くらいはいけそう」


 そう、この青年。殺人鬼である。裏社会では殺人鬼「ゆう」で名前が通るほどに有名な殺人鬼であり、アイドル「美月」の大ファンで一番の厄介(やっかい)オタクであり、美月の幼馴染みであった。


「みつき、あそこにいるぞ」


「え、」


「あわないのか」


 ゆうの足下から聞こえる高めの少年声。絶対、声変わりしてないくらい高い声でゆうの(ひざ)くらいの高さから聞こえてきた声にゆうは下を見た。隣を見ても誰もいないので幽霊の声だと思ったが声がした方向を確認したら、それは下だった。あまりにも低い場所であった。


「いつの、まに」


「いまさっき」


 そこでは幼児が水筒(すいとう)を肩から掛けて、ゆうを見上げていた。背中には流行(りゅうこう)の可愛らしいクマのキャラクターが描かれた幼児用のリュックサックが背負われていた。灰色の髪に吸い込まれそうなほどに黒い瞳。そう、アイドルシェアホーム工藤家に居候しているアイドル志望幼児「神風」である。


 ゆうは咄嗟に側に放置していた遺体の方に視線をチラリと向けた。今回は運良く、小型のブルーシートを掛けてあった。数分前の自分に感謝した。


「みつきのこと、おしてるんだろ。あわないのか」


 神風はゆうの驚きなど構わず、問う。興味本位で問う。何も考えてないくらいの速度で言葉を、疑問を口にしていた。実は神風が「()()」の意味が一切、分かっていないなんて、ゆうは知らなかった。それは当然のことだが。


「……オレが会いに行ったって美月が困るだけだから会わないよ」


「そうか? みつきはわらいそうだけど」


「笑いそうって、ああ、喜ぶって意味か。っていうか、どこから来たの、君。保護者はいずこよ」


「あきひとあそこにいる。みつきのさつえい? をみにきたって。おれもいっしょにきた」


「う~ん、放任主義。ほら、戻りなさいな、幼児」


 ゆうは神風の指が指した先をチラリと見る。指が指された先はエレベーター付近の自動販売機の前で、そこでは10代後半くらいに見える青年がアイドル「美月」とともに話をしていた。撮影終わりに休みながら休んでいるんだな、とゆうは直感的に思った。そして、足下にいた幼児が殺人鬼にと離れたところで会話していることに一切気付いてないな、と察した。


「みつきのこと、すき?」


「……好きだよ。何か悪いかよ」


 突然、姿を現した幼児の問いはゆうの精神にクリティカルヒットダメージを何発も与えていた。


 握手会にもチェキ会にも行かないアイドルファン


 推しているのにそれを言わないファン


 自分が好きだということに躊躇(ためら)いを感じてしまうファン


 それを自覚させられる問いは殺人鬼にクリティカルヒットダメージを何発も与えた。幼児にとってはただただ気になったことを口にしただけでも、それはとんでもない攻撃力を持ってしまっていた。


「べつに。でも、みつきはすきだっていわれたほうがわらうとおもう」


「どうしてそう思うの?」


「やっかいふぁん? おおいっていってたから。すきっていってくれるやついないんだろ」


 神風の言葉にゆうの身体にはピシャーーンッ!! と特大級の(かみなり)が落ちた。厄介ファンがファンを明言しないファンだからではない。厄介ファン=殺人鬼という自覚と自分がファンを明言していないという事実を2つ突きつけられたからである、幼児によって。


「あきひとよんでる。おれもういく」


「え、」


 そして、神風は言いたいことを言ったからか、ゆうへ向かっていた興味がなくなったのか、戸籍上の血の繋がらない父親である工藤明仁と明仁とともにいる美月のもとに向かい始める。


「あ、」


「あ?」


「みつき、ゆうくんもみてくれたらいいな、っていってた」


 そして、何かを思い出し、振り返り、ゆうの目を真っ直ぐに見て、幼児らしくない無表情な顔で言った。美月が呟いていたとある言葉を。


「え、ちょ、それ」


「じゃ」


「ちょっとぉ?!」


 ゆうの叫びは(むな)しく、テレビ局地下室の部屋に響いた。







「みつき、あきひと」


「あれ、神風くんってえ?! 今までそこにいなかったっけ?! どうして、奥から歩いて来てるの?!」


「……気配を消して歩くな。今度から行くときは言ってからにしろ」


「あい」


「よし」


「あ、みつき」


「ん?」


「おまえのこと、すきなやついたからすきっていえっていってきた」


「え、え、え、えええええ?! ちょっと、何してるの、神風くん!!」


「おれ、なにかした?」


「……何も悪いことはしてないな。よくやった、神風」


「明仁さんんんんんん!!! 神風くんんんんん!!」

殺人鬼は推し兼友人兼アイドルの女性を愛している。


読んでくださり、ありがとうございます。お時間あれば、感想・評価などつけていただければと思います。

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