第7話 工藤神風は存在しない
当主と刑事
「ちーっす、工藤さん、お久し振りでーす。体調はいかがですか~」
「おはよう、愛弥。頗る元気だよ」
「なら、良かった~」
「……愛弥、まだ、見つからないか?」
「おっと、もう本題ですか? はいはい、じゃあ、その質問に答えさせていただくと、まだ、ですね~」
「まだか」
「一応、前歴者データとかも見てますけど、神風くんらしき子の文言はまったくと言っていいほど、見ないですね~」
某日、工藤家。
本日の工藤家は明仁、美月、神風の3人が在宅である。それ以外のメンバーは全員、仕事で外出している。家事は各々、済ませたうえで仕事に行っているので、在宅中のメンバーが行う家事はほぼない。しいていえば、美月の掃除くらいである。
「そっちはどうですかね、進捗ありました?」
明仁は居室の庭に面している方の襖を開け放った状態で読書をしていた。庭では掃除を終えた美月が神風にダンスを教えているため、明仁は読書の合間合間に2人の様子を見ては口を出していた。
何と言っても、美月は現役アイドルであり、明仁もアイドルを生業にしていた時期がある。ダンス練習には持ってこいのメンツである。それも美月はそこまで厳しくないので、のんびり練習と化している。現在はお腹のアイソレーションでお腹の出し引き練習をしている。見栄えは一切ない。
「こっちもICPOやら自衛隊やら探偵やらにも聞いてみたが、収穫はないな」
「ICPO……ICPO? なんでICPOが? ってか、自衛隊も?」
「国際刑事警察機構が一番情報を持ってるだろ。自衛隊は一応だな」
「いや、そうじゃなくて、僕が聞きたかったのは神風くん本人から日常生活内で何か、言及あったかってことなんですけど!!」
そして、そんな工藤家に姿を現す1人の男。年の頃は颯と変わらなさそうな20代半ばほどの軽薄そうな見た目。スーツを着崩し、『警察官』あるまじき金髪。なお、この男は金髪ではあるが、純正の日本人であることを明記しておく。そして、金髪が完全地毛であることも明記しておく。
「なるほど」
「なるほど、じゃねぇです!!」
そんな警察官「大竹愛弥」のツッコミは屋敷中には響かなくても、明仁の居室内には響いた。
「──――つまり、未だに「神風」という名前の幼児の戸籍情報も、目撃情報も、届けも、地球上のどこにもないわけだな」
愛弥のツッコミから数分後、明仁と愛弥は明仁の居室で情報交換を行っていた。居室の襖を締め切り、ダンス練習をしている神風と美月には大切な話をするから、入ってこないことと言い付けをしたうえでの情報交換だった。
内容は「神風という存在について」。
神風と美月は見るなと言われたら、それが本気の「見るな」であれば見ない良い子達なので今回はきちんとダンス練習をしている。
「今は工藤神風って名前の幼児を作ってるんで、神風くんは存在している扱いになってますけど、根本のどこで生まれて、とかは分からないままですねぇ。まず、そんなにさらっと戸籍作っちゃった工藤さんの方が僕、怖いんですけど~」
愛弥は髪先をクルクルとイジりながら明仁に対して、薄ら笑みを向ける。愛弥はある意味、怖いもの知らずだ。小学校時代からの友人であった颯との会話から「工藤明仁」という人物が古くから、政財界で力を持っていた「工藤家」の人間であるとか、普通は知れないし、知ろうとは思わない。
だが、この男は知ろうと思ったし、知っちゃったのである。
「政財界の権力今も衰え知らず」
「うっわ、分かりやすい答え。流石、幼少期から全部別名義で仕事してただけありますね~」
数分前の明仁のICPOと自衛隊発言についてはそういや、この人の家そっちにも繋がりあったな、という愛弥の記憶能力の良さで全て綺麗に片付けられた。
「元々、そういう家だからな、この家は」
「まあ、確かにねぇ」
「そういう力を自分の将来のために使った俺は珍しい方だろうよ」
「でも、それでも今回、神風くんの戸籍を一応作れたわけで。違法でも合法でもいいことしたんじゃないですか~」
目の前で本を読み進めながら、自身と話す明仁の本を愛弥はツンツンと突く。そうすれば、明仁が集中力を切らし、自身の方に意識を向けると分かっているから。
「違法なら取り締まれよ、警察官」
「違法かどうか判断できないため、見張ってまーす」
「よく口が回る25歳児だ」
「そっちこそ、よくお口が回ります童顔41歳ですこと」
愛弥はそう言ってから、気付く。というか、思い出した。確か、童顔って言うとこの人機嫌悪くしなかったっけ、と。
愛弥の記憶は正確だった。明仁は童顔という言葉を愛弥が口にした瞬間、顔を歪めた。本を閉じ、本を右手で持つと思いっ切り振りかぶり、愛弥の頭めがけて叩き付けた。その間、2秒もない。
「……話を戻す。お前はこのまま、神風に向けて調べてくれ」
「へいへい、分かりましたよーだ。あー、いって」
何事もなかったかのように話を続ける明仁に殴られた愛弥は滅茶苦茶、嫌そうな顔をしてしまった。しかし、口では何も言い返さなかった。言い返したら、多分、言い負かされるなと思ったからである。
「まあ、そうなりますよねぇ。まあ、そりゃそうだ。情報なしの幼児。本人は家族を見返すためにアイドルを志望。でも、家族は分からず、苗字も分からず、名前のみ。戸籍情報等もなし。そりゃ、警察が調べるしかないね~」
「神風も家族についての話はほぼしない。3、4歳なら家族とのそれ以前の記憶がないのは当然だが、ここに来る直前までの記憶がないのは不自然だ。忘れさせられているのか、忘れているのか。どちらかは分からないが、いずれ、思い出すときは来る」
「でしょうね」
ま、そのいずれがいつかなんて分かんないけど、という言葉は呑み込んだ。仮にも愛弥は警察官で、仮にも刑事で、仮にも組織犯罪対策課勤めである。余計なことを口にして問題を起こす方が面倒だと彼は職場での経験から察した。
「俺はそれまで、神風が何故、アイドルを目指すか、その理由と生活内で家族情報に繋がる言動がないか、注意して見ておく」
「何かあったら、情報くだせぇ、当主様」
「当主言うな、エセ刑事が」
「いや、エセではねぇですから!!」
最後の最後に明仁からの暴言で口調が崩れたのはいつものことである。
「ってか、神風くん、アイドルなれそうなんですかねぇ」
「愛されキャラにはなれそうだが、アイドルは今のところ無理だな」
「ああ、身体が硬いし、ダンスがヘニャンへニャンしてるってこの前、颯が言ってたやつ」
「ヘニャンへニャンって。へにゃへにゃじゃないのか」
「まあ、それはどっちでも良いじゃないですか~」
「それはそうだが。まず、3、4歳児ってあんなに身体硬いか? へにゃへにゃもまあ、許容範囲外だが、まだなくないと思うこともできるけれども」
「いや、3、4歳ってあんなに身体硬くないですよ。この前、迷子の4歳児に会ったけど長座めっさ、できてましたよ」
「だよな」
「この間、長座してた神風くん、顔が下向いて両手真っ直ぐ伸びるから最新の前ならえみたいかと思いましたけど」
「……最っ、新の、っっっ、まえ、くっ、ならえっっ、ふっ」
最新の前ならえを見た人間が全員、笑い落ちていたことは周知の事実である。
神風は存在しない。でも、工藤神風は存在している。
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