144.もう二度と
「ははは」
「これは素晴らしい。」
どこからともなく聞こえてくる嘲笑う声。
声だけでこちらが不愉快になる。
「誰?」
陽葵は低い声でそう言った。
「まさか、」
「ズグーラが喋りだした?」
夢描が、ズグーラから離れるように後ろへと下がったが
「そんなことがあるはずないですわよ」
「ズグーラは、戦闘能力は他のA級魔獣に比べても」
「すごいものですが」
「知識的には他と変わらずでしたから」
「喋ることなんてありませんでしたわよ」
恋歌が、いつもの事ながら丁寧に教えてくれた。
「でも、前透が特殊な魔獣もいるとか言ってただろ?」
「確かにそうですわね」
「じ、じゃあ」
「ズグーラが喋ったのかな」
「そんなことってあるの?」
流星がそう言ってズグーラへ近づいた。
「危ないよ」
りかが、止めたが流星はそのままズグーラに近づいた。
「なんだ」
「ズグーラ今も倒れて意識無さそうだよ」
その言葉でホッとした。
もしズグーラが本当に起きていて言葉を喋っていたら流星はどう対処する気だったのか
と怒りそうになったが
陽葵が前に出てきて言った。
「流星!」
「もう少し責任感のある行動をしないと!」
陽葵が珍しく怒った。
「ごめん」
「ほんとうかどうか自分の目で見たくなっちゃって」
流星は、たまに周りが見えなくなってしまう所が弱点だと言えるだろう。
「でも、ズグーラじゃないんだったら」
「一体あの声はなに?」
夢描が、ズレまくった話を戻した。
「そうだよね」
陽葵は、そのことを思い出したように言った。
「一体この狭い空間のどこにいるの?」
そういえばおかしい
私たちが話している間妙に静かだった。
まるでこちらをずっと観察しているような
あるいはその時をずっと待っていたような。
ビュッ
グサッ
「え、」
さっき司がズグーラを倒した時のような
肉を突き刺す音がした。
ただ今度は
刺した人も刺された人も違った。
「陽葵!」
司の今まで聞いた事のない焦った声だけが鮮明に聞こえた。
「えっ?」
目の前で心臓に半透明な槍が突き刺さり
血を流し
目が半開きになっている陽葵と
目が合っているはずのに
頭の処理ができない。
「えっ?」
その場にいる誰もが立ち止まってしまった。
治癒魔法をかけなければ行けないのに
陽葵の容態を確認しなければいけないのに。
何も考えられない。
次攻撃されるのが自分かもしれないという恐怖感さえ感じられない。
初めての経験。
もう二度としたくない経験。
ただ、その時確かに感じたものがある。
これは、魔獣の攻撃ではない。
人間の攻撃である。
そして、その攻撃には迷いがない。
―誰かを殺すという迷いが一切ない
それどころか、殺意さえ感じられない。
陽葵を狙った訳じゃない。
誰でもよかったという感情が槍を通じて嫌という程伝わる。
だからこそ、
余計に私たちは悔しかった。
陽葵をそんな理不尽なものか、助けられなかったことに
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次回も、少しだけこの世界に付き合ってもらえたら嬉しいです。




