99話 あったな‥‥を振り返る場所
土曜日の昼から夕方の間
少し暇な時間帯を狙って来る客がいる
目立つ要素があり、顔見知り程度ではある
そんな常連客が来る時は
カウンターに立つようにしていた
「しょうがないじゃない
諦めなさいよ」
ショーケースの中をジッと見つめて
尻尾をフリフリとしているマンジュが
シンの頭の上でピィーピィーと鳴いていた
ショーケースの中で
1番目立つ場所に置いてあったであろう商品が
無くなっており、それをマンジュが見て
食べたかったなぁと未練がましく鳴いては
カウンターにいる店員を見ていた
マンジュが
甘いの食べたいなぁとか
今日は運動を頑張ったからとか
色々とシンに言ってくる時は
だいたい群狼堂のお菓子が欲しい時で
シンが無視すると頭の上でウネウネする
シンが母親からマンジュ用に
お小遣いを貰っているのを知った時から
よくおねだりするようになり
週に1度だけという約束を
食べたいからお願いと言って
何度も守らなかった
シンは甘いなぁと思いつつも
自分が過去に目的があったとはいえ
お菓子を我慢していたのを思い出し
マンジュ用のお小遣い内で好きにさせていた
「すいません
コッチの商品って、もうないんですか?」
シンがカウンターにいる男性店員に聞くと
「そうですね
5分少々待って頂ければ
補充分が出来上がると思います」
店員さんの言葉にマンジュが喜んで
3個!3個欲しい!と、ピィーピィーと鳴く
「すいません
3個買う事って、できますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「後、コレもお願いします」
「はい、承知しました」
シンは店員さんに紙を渡してから
店内の商品をマンジュに催促されながら
色々と選んでいった
そんな様子を見てから
男性店員が、ガラス越しの工房を見ると
お菓子を作る妻と
大きな和菓子を箱に詰める娘達と目が合う
男性店員
クナの父親は笑顔で頷いてから
店内の方を向くと
「今日はドラ焼きをやめとくって約束でしょ
好物なのは知ってるって
次の時は買っていいから」
頭の上でピィー!ピィー!と鳴く白い蛇を
宥める人族の子がいた
クナを甘やかして育てた覚えはある
それでも健やかに育ってくれた
家族から‥‥群れから離れる時に
頑張ってやってこい!と言って送り出したが
すぐに帰ってきて
人族の子にシツケられたと聞いて
ボスと一緒の‥‥シンと一緒の寮に入りたいと
お願いされた
スゴイと何度も説明された
イマイチよくわからなかったが
クナは姉達に認められて
所属する開法学院バレー部が2連覇をした
確かに嬉しかった‥‥娘が育っていくのは
寂しくもあるが嬉しかったんだ
妻には
また泣いてんの?
クナが出て行った時も号泣してたのに?
そんなにシンちゃんに取られたのが悔しいの?
違うと言いたいが
妻には喧嘩の類では良い思い出が無い
言葉にしろ、腕っぷしにしろだ
脱線したので本線に戻る
和菓子職人としての師匠である義父と義母
クナの祖父と祖母から
人族の子が来たら優遇してやってくれと
場合によっては俺らが出向くと
「えらく待たせちまったな」
「待ってもうて悪いなぁ
シンちゃん、マンジュちゃん」
店舗と工房をつなぐ扉から
エプロンや帽子を纏い
和菓子職人の格好をしたクナの祖父母が
銀色のトレーを持って現れた
マンジュは尻尾を高速でフリフリして
ピィー!ピィーー!と喜んでいる
「いえ、時間通りですし
出来立ての和菓子に
マンジュも喜んでるから」
シンは店内で選んだ和菓子と
出来立ての新作饅頭の数を半分ずつに分けて
2つの箱に入れてもらう
会計を済ますと
マンジュは、どっちがイイかなぁ?
コッチかな?アッチかなぁ?今日はコッチ!と
悩みながら決めた和菓子が入った箱に
シュルンと入っていく
「いつも通り
帰り道は片方の箱に入って」
「マンジュちゃんは
夢中になって食べとるから
大丈夫そう?」
クナの祖父母に言われて
シンが頷くと工房からクナの姉達が
平べったい大きめの箱を袋に入れて持ってくる
「早く持って帰りなよ」
「ばあちゃんとじいちゃんの力作だから」
シンはクナの姉達に袋を渡され
肘にかけて持つと
和菓子が入った箱と
マンジュが入ってる箱を持つ
「ありがとうございました」
「早く行ってやんな」
「後で感想、よろしゅうな」
シンはクナの祖父母に礼をして店を後にする
「どうだ?いいヤツだろ?」
「色々とスゴイ子やけど
ああいう事も出来るええ子やで」
クナの祖父母が快活に笑って言うのを
クナの姉達、母親、父親は
呆れる様に見ていた
「まぁ‥‥師匠達の素が出るくらいには」
「オカンもオトンも
最近、言葉遣いが戻っとるで
ウチは慣れとるけど、娘達が戸惑っとるわ」
「ばあちゃんの言葉が
お母さんの怒ってる時と」
「パニックってる時と同じになってる」
「うるさいわ!」
妻と娘達がギャンギャンと言い合うのを横目に
クナの父親は
和菓子職人の師匠である義父と義母と苦笑する
「クナは良い群れと出会えましたかね」
クナの父親がシンの出て行ったドアを見ながら
呟く様に聞くと
クナの祖父母は快活に笑い出す
「結果や評価なんてもんは
後でどうとでも言えるが」
「今のウチらが付けるとしたら
満開の花丸満点やな!」
クナの父親は笑い出す
「それはまた
見どころ満載ですね」
「なんや?また泣いとんかいな?
ホンマにオトンと似とるなぁ」
「ウルセェ!俺はそんなに泣いてねぇ!」
「旦那と似た人を選んだんはアンタやろ?
ホンマにパパっ子やねんから」
「そんなんとちゃうわ!」
「オカンはパパっ子や!」
「ウチらはちゃうけどな!」
「なんや!アンタら!マネすんな!」
「クナもシンちゃんと
2人っきりになったら使とるらしいで!」
「そうや!シンちゃんはオトンと似て
ホンマは、ごっつ強いけど、優しいんやで!」
「ウルサイわ!
コレやから調子に乗らしたらアカンねん!」
ギャンギャンと賑やかに騒ぎながら
夕方に来店する人の為に準備を進めていった
シンは窓際に置いてある
小さなサボテンの様子を見てから
カバンを持って部屋を出ていく時に
机の上で壁にかかったコルクボードを
ジッと見ているマンジュに声をかける
声をかけられたマンジュは、ピッ!と鳴いて
シンの後ろ髪にシュルっと入り込む
ドアがゆっくりと閉まり
鍵のかかる音がすると
住人がいなくなった部屋の中は静寂に包まれる
この部屋が使われ始めた2年程前は
生活用品と壁にコルクボードが1つだけだった
今は
ベットに積み重ねる様に置いてある
蠍、蛇、蜂のぬいぐるみが3体
窓際には小さな観葉植物が4鉢
壁には6個のコルクボードが吊り下がっており
机には写真立てが2個置いてあった
先日まで
壁にあるコルクボードは5個で
写真が飛び出して壁にまで貼られていたのだが
色々と整理されて
6個目のコルクボードが
机の前の1番良い場所に現れた
6個目のコルクボードの上部には
笑顔の白い蛇の絵が描いてあり
口部分から出ている吹き出しに
マンジュシャカの専用ボード
と書かれてあった
そんなボードに貼られている写真は
白い蛇が縁日でタコ焼きを食べている姿や
食べ過ぎで丸くなって寝ている姿の
色々な写真がボードの端の方に貼られて
ボードの真ん中には
少し大きい写真が綺麗に貼られていた
真ん中にある写真の背景には
驚いた顔をして、ある一点を見つめながら
誕生日を祝う飾り付けをしている女性達
写真中央の大きなドラ焼きに
火の付いていないローソクの立てる場所を
探そうとして、ある一点を見つめて
驚いた顔をしている女性達
全員が驚いているのに
1人だけ半眼で呆れた様にある一点を見つめて
ホラ、やったっとばかりに見ている人族の子
写真自体は
小さな白い蛇の誕生日を祝うモノ
準備をしている最中に好物の匂いに
釣られて寄ってきた白い蛇に見つかったのか
ケーキ代わりの大きなドラ焼きを
前にして我慢できなかったのか
全員の注目を浴びながら
小さな白い蛇が幸せそうな顔をして
ドラ焼きの上から齧り付いていた
何も無かった箱に
詰めていく物で箱の名前が決まる様に
お気に入りばかりを
積み重ねた物を何個も集める様に
忘れてしまった物が
積もり積もって思い出に変わる様に
音も無い賑やかな雰囲気が
積み重なっていく部屋は
やがて戻ってくるであろう住人の
今までの1番達を静寂の中に飾っていた




