100話 立つ準備運動するフラグ
今年こそはと思っていたが
また地区大会に出られなかった
悪い気がすると思いながらも
試合の日には勝ち進んでいくチームの
結果だけを携帯で知る
進学科の特別授業の間にある休憩時間に
シンは溜息を吐きながら
携帯で全国大会出場の知らせを受けた
自分がいないのに
全国大会まで進んでもらって
2年連続でMVPまでもらって
二つ名までもらっている
自分は出場に至るまで
何もしていないのに
地区大会で頑張っていた子や補欠の子に
絶対!3連覇してください!と言われた
去年の全国大会の時に
クナを含めた後輩を出す様に
モク監督に求めたが
結果はシンが出ていかないと勝てない
シンを中心に考えられたチーム
それはわかっているが‥‥
わかってはいたんだけども‥‥
4連覇をして欲しいとは思うけど
やるなら、もっとこう‥‥と思い悩むも
自分達では駄目でした
シン先輩!お願いします!と言われると
出てしまう自分がいる
別に後輩を負けさせて
しょうがなく自分が出て勝つみたいな
マッチポンプ的な事をしているわけではない
3連覇をしたくないわけでも
仮に3連覇できた後に後輩達が
4連覇できないと思っている訳でもない
水筒のお茶を飲みながら
シンがジッと携帯を見て
複雑そうな顔をしているのを
同じ進学科のエル、ヒル、ルカ、ウイは
てな事をグルグルと考えてるんだろうなと思い
シンを見ていた
「全国大会出場おめでとう」
「今年もアツくなるわね!」
ウイとルカがシンに話しかける
「何にもしてないけどね」
「それを言ったら
アヤノとサリも何もしてないの」
「クナを中心とした後輩メンバーで
突破できたの」
エルとヒルに言われて
シンが、それはそうだけどと呟く
「二つ名持ちの先輩3人が
鍛えに鍛えた後輩達なんでしょ」
「弱音を吐いて、泣きながらでも
ついてきてくれた後輩を
もっと信じてあげてもいいと思うの」
「信じてるわよ
でもさぁ‥‥それだったら」
ウイとヒルが笑いながら言うのを
シンは納得いかない様な顔で何かを言いかける
「旅をさせてあげないといけないわ
シンは卒業していなくなるんだから」
「それでも最後にカッコいい姿は
見せてあげないといけないの」
ルカは狩りに行く前の顔で
エルは絶対に見たいからやってという顔で
シンに近づいて言ってきた
「やらないとは言ってないわよ
ただまぁ‥‥そうね‥‥
期待に応えれる様に頑張ってみるわよ」
シンは笑顔で話して
開法学院バレー部員達が
全国大会出場と書かれた紙を
笑顔で奪い合う様に持っている様子が
映し出されている携帯の画面を見ていると
メッセージの通知が何件も連続で送られてきた
〔先輩!これでやれますよね!〕
〔楽しみにしています!〕
〔今年こそは!〕
〔後はMVPチケットさえ貰えれば確実です!〕
シンは段々と苦い顔をしていく
〔打倒!伝説!〕
〔先輩が新しい伝説になるんですよね〕
〔絶対に勝ってください!〕
〔ごめん!シン!
色々と話が違う方向で盛り上がって〕
〔やってくれるって信じてるわ!シン!〕
〔後の骨は美味しく齧ります!シン!〕
「なんの全国大会に勝ってきたの?」
「表彰台の対決は有名なの」
「全国大会の風物詩」
「今年はドラマが生まれそうね」
エル、ヒル、ルカ、ウイが
シンの携帯を覗き込みながら
楽しそうに言う
「私は‥‥何をやりに行くのよ
今年はバレーだけやって
勝っても負けても、サッと帰るわよ‥‥
やんないって言ってるでしょうが!
何言ってんのよ!マンジュ!」
シンが喋っている最中に
マンジュが、ピッ!ピィー!っと
勇ましく鳴いているのを
シンが否定していた
昼過ぎのどかな雰囲気の畑が続く道の先
なだらかに上り坂になって
その先に、さほど高くない山がある
ハイキングに行くには物足りない
地元の人しか近寄らないので
あまり道も整備されていない山
そんな山の中腹あたりに
木々は生えていない代わりに
胸までの高さがある草が
生い茂っている広場があった
広場の真ん中あたりでは
直径50メートルくらいの円で
草は刈られ、撤去され
キレイに整地されている場所が出来ていた
「まったく
やる気が溢れすぎてやしないかい」
草を掻き分けて
整地された場所に入ってきたポーの祖母は
後ろから来ているソナの祖父に話しかける
「ホンマにエグい事になりそうやねんわ」
2人は話しながら
草がない円の端に大きな傘が
3本立てて下にゴザが敷いてある場所へと
円の中央を見ながら歩いていく
「まったくアンタは
ホンマに情けないなぁ」
「堪忍‥‥ホンマに勘弁して‥‥
サボってたんは‥‥あやま‥‥オェェェ!」
ソナの祖母が
うずくまっているソナの母親に呆れていると
ソナの母親がゲロを吐く
2人は円の中央で空手の胴着を着ていた
ソナの母親の頭にいる蛇達は
ピィーピィーと泣いて
堪忍やぁ〜、これ以上はホンマにアカンって
確かに食べ歩きとか飲み歩きばかりしとって
全然鍛錬とかしとらんかったけども
これ以上は鬼のする事やって
ウチらまで巻き込まんとってぇ〜
お願いや!この通りやさかい!
と、ペコペコして同情を誘っていた
その内の1匹は
ポーの祖母の足にしがみついて
シャー!ピィー!と泣きながら
助けて!鬼や!悪魔や!あんなん無理や!と
叫んで助けを求めていた
ポーの祖母は足元の蛇を見ずに
大きな傘の下で
ソナの祖母の蛇達がお茶を飲むのをやめて
体を伸ばしたり、縮めたりと
準備運動を始めるのを見ていた
「蛇達は無しで、娘を圧倒かい‥‥
娘が不甲斐ないのはお互い様かね」
「そうやねぇ
着いたばっかで申し訳ないけど
準備運動やったら、やれそう?」
「誰にモノ言ってんだい?
ここまで歩いて来ただけで充分さね」
「まぁた常在なんちゃらかいな
変わらんねぇ、アンタも」
「抜かすんじゃないよ」
話しながらポーの祖母は担いできた長い布袋を
地面に立てて、袋を開け竹刀を2本取り出す
ソナの祖父は苦しんでいる娘に
肩を貸して、大きな傘の下に連れて行った
「アカン‥‥オトン‥‥もうアカン
先立つ不幸を許したってや‥‥堪忍やで」
「アホか‥‥ふざける体力残っとるやないか
もうちょい、なんとかならんかったんかい?」
「かなり頑張った‥‥
褒めてもええぐらい頑張ったけど‥‥
今のオカンは‥‥かなりエグい」
「そないか
まぁ、よぉ頑張ったわ」
ソナの祖父と母親が傘の下に着くと
入れ替わりで蛇達がソナの祖母の方へ
シュルシュルとゆっくり向かい出す
「昔はよく泣かしてやったもんさね」
「泣かした回数は
ウチの方が1桁は多いしな」
「若いのは見た目だけかい?
中身はポンコツでロートルとはね」
「久しぶりに
グシャグシャにしたろうと思ったら
もうシワシワのパサパサやったなぁ」
「泣き叫ぶんじゃないよ
コッチは帰ったら、悪ガキ共相手に
まだ仕事が残ってんさね
慰める時間なんて、ありゃしないからね」
「クソ重いアンタを運ぶのは
ホンマに、しんどそうやなぁ
歩いて帰ってや‥‥頼んだで」
笑顔で段々と剣呑になっていく2人を
傘の下で座りながら見ていたソナの母親は
顔を引き攣らせながら、ソナの祖父に聞く
「あんなん言うとるけど
ホンマは仲ええんやんな?な?」
「まぁ‥‥同じ場所に勤めとるぐらいやからな
それなりにしとったみたいやで」
「それなりって?なんなん?
この前も楽しそうに呑んだりしとったやん」
「俺は種族代表とかの集まりとかあったから
そんな事ないんけど
シンちゃん絡みで呑んだんが初めてらしいわ
なんや話したらええヤツやったわって
言うとったな」
「アカン!ごっつ最近の話や!」
ソナの母親が嘆くと
辺りの空気が乾燥していき涼しくなる
その原因を知らなければ
爽やかな山の空気と思えたかもしれないと
ソナの母親と頭にいる蛇達は
あはははっと乾いた笑いを飛ばす
「開法学院の蘭蛇
宗鳳学院の蜂光は
そこそこ有名やったなぁ」
「えっ?オカンの二つ名って‥‥ラン?
ランって、花の蘭?ええやん」
「胡蝶蘭の花言葉で
幸福が飛んでくるっていうのを
幸福をゲンコツに変えて言われとってな」
「ゲンコツが?飛んできよんの?」
「歩く蛇からゲンコツが飛んでくるとか
蛇足が過ぎるって言われとったわ」
「あははは‥‥‥
ソイツら、どうなったん?」
「今から見れるヤツを喰らって‥‥
七転八倒を五、六回しとったな」
ソナの祖父と母親が話している最中に
良い風が柔らかく吹いたと思ったら
ニブイ音と共に2人が何度も交錯する
「アカンわ‥‥あんなん避けられんし
かといって、受けたら腕か足ごと
のうなってまう‥‥なぁ、オトン」
「聞くな、知らぬ存ぜぬや」
「いや、ちゃうて
前に蛇蠍‥‥シンちゃんに
素手で挑むアホとか言うてたヤツやけど」
「オマエは、アレが素手に見えるんか?
シンちゃんは格闘技経験ゼロの人族やぞ」
ソナの母親は
相手を口汚く言い合い、楽しそうに笑って
ぶつかる度に金属音が鳴らしている2人を見て
「そうやな‥‥ウチがアホやったわ」
ソナの母親は脱力して
テキトーに呟いた
「おはようございます」
日課のランニングをする為に
寮の前で掃除をしているポーの祖母に
シンが挨拶をする
「ああ、おはよう
今日も早いね」
「え!どうしたんです?それ」
振り返って挨拶してきたポーの祖母の顔を見て
驚いた様にシンが言うと
左頬と右の額に大きなガーゼを貼り付けた
ポーの祖母が眠そうな顔で
「大きな蛇と遊んでたら
ちょいと受け損ってね‥‥ふわぁ〜
‥‥錆びついてなくて安心したよ」
「はぁ‥‥お大事に」
シンは快活に笑うポーの祖母に
そう言ってランニングに行った
学校で会ったソナの祖母は
額と首辺りにガーゼを貼っており
喋るのが辛そうだったので
頭の蛇達が教えてくれた
デッカい蜂に刺されたんよねぇ
油断はしとらんかったのに
錆びついてないもんよね
治りが遅いだけやから‥‥お互いに
明日には普通になっとるから
心配ありがとねー
シャーシャーと言われて
シンは、はぁ‥‥お大事にと返していた
ただ、2人の前から去る時に
同じ様な寒気がしたので振り返ると
良い笑顔でシンに手を振っていたので
シンは気のせいかと思って
次の瞬間には忘れていた




