97話 真剣に戯れる
「長い前口上だったね
他で聞いたら無粋に思えちまうよ」
「ええやないの
思い詰まった煽り文句やで」
「面白いと思うんのは勝手やけど
あんまり殺気だたんとってや」
「それにしても雷降って
流石は麒麟族の天才児なの」
「アナタの旦那が教えたのかしら?」
「ちょっと待ってあげて
呆けちゃってるから」
観客席に座っている年配女性は
周りの顔馴染みからの言葉に反応せず
コートで耳の上辺りから
青白く光る角を2本出して
嬉しそうにしている孫をジッと見ていた
「誰も教えてないわ
確かに旦那が無意識にしてるのを
あの子が見てた事はあるけど」
「どうするん?
止めるんなら、ここが最後やで
ウチも旦那も止めれんかったけど‥‥
まぁ、そうなるわな」
麒麟族の年配女性が呟くように言った後で
狼族の年配女性が周りを見て
少し離れた所で
種族特性である角や羽、尻尾や紋様を出して
静かに興奮している年配男性達を見て
呆れたように呟いて尻尾を振っていた
止めようとしたけども
こうなったら見てみたいという気持ちが
それを止めてくる
麒麟族の女性は娘が降らしている
雷の雨に驚きつつ自分の娘を見ていたら
鬼族の女性と視線が合った
雷の雨がシトシトと降り
床に当たっても音も鳴らず
そこらに溜まっていく中で
娘も鬼族の子もエルフ族の子も狼族の子も
段々と集中していくのがわかる
答えがわかった上で
コートの周りにいる同世代の顔馴染みと
人族の子を見る
頭の上で白い蛇が歌うように鳴き
それに合わせるようにピョンピョンと飛んで
降っている雷を見ている人族の子が
穏やかに笑っていた
嵐の中で野原を駆け回る幼子のような
何に挑むのか
何に挑まれているのか
本当にわかっているのか
それら全てがわかって笑っているのなら
血湧き肉躍る無謀な挑戦に臨む蛮勇のような
そういう風にも見える人族の子に
誰も何も言えないまま
少しだけ勢いを増した雷の雨の中
ゆっくりと時間が進んでいった
クナがボールを頭上に軽く投げる
落ちてくるボールをトスでリンの頭上に
高く上げると雷降が止まる
ネットの向こうでは
揺れながらリンを見ているシンがいた
リンはシンから目を離さずに
垂直に飛び上がる
リンは体を捻り右腕を振りかぶると
空中で止まっていた雷や
床に溜まっていた雷が
リンの右手に集まり始める
ボールが落ちてきて
リンが何かを呟く様に口を動かして
右手に力が乗る様に体の捻りを戻していく
右手が勢いよくしなって
ボールと激突した
何かが裂ける音と弾ける音が
体育館に響き渡った
シンが勢いよく吹っ飛んでいた
空中で2回転して着地しても
勢いがついたままで止まらず
2回、3回とバック転で着地して
段々と勢いが無くなった4回目の着地時に
ゆったりと体を縮めて床を蹴る
飛んできた勢いより速く飛び出した
リンとクナはコートの後ろ辺りで
少し間を空けて並んで腰を落として構えていた
シン側のコートでは
ボールの落下地点で腰を落として
遠投をする様に体を大きく捻り
拳を構えるアヤノがいた
サリはアヤノが構えている拳を
緑色の光がでている両手で包み込んで
ボールとシンを見ていた
シンが勢いよく飛び上がった瞬間に
体育館に降って溜まっていた雷
リンが集めきれてなかった雷降の残りが
シンに合わせて床から跳ね上がる
サリが待ちきれないアヤノの拳から
両手を離すと弾かれた様に拳が飛び出し
赤と緑が綺麗な弧を描いて
遠慮なく拳をボールに叩き込んだ
シンの雷を纏った左手と
黄色い光を纏ったボールが合わさり
空中で一瞬だけ
シンの動きとボールが止まった様に見えたが
ピィーーー!と響く鳴き声が聞こえ
引き絞られた弓から矢が放たれる様に
シンの左手が振り抜かれて
ボールが撃ち込まれた
ガシャーーーン!
シンはいつもみたいにではなくて
ボールを打った場所の真下に落ちて
着地しながら、音のした方を振り返ると
2階の窓ガラスが割れていた
「あっーー!なんで!やっちゃったぁ!」
シンが走って体育館の外へ出ると
窓ガラスの破片が散乱しているものの
人の姿はなかったので安心して
体育館に戻って叫ぶ
「安全面は考慮するって言ってたのに!
なんでこんなんになってんのよ!がっ!」
シンが言い切った瞬間に
アヤノとクナの突撃を避けられずに
マトモに食らって3人は転げる
「シン!やっぱりシンだ!」
「シンです!流石!シンです!」
「やめて!わかったから!来んな!
これ以上はぁぁぁ!潰れる!縮むから!」
転げ回っている所に
カヤ、ポー、エル、ヒル、ルカが
突撃をして抱きしめ
サリ、ウイ、ソナ、トウカが
シン目掛けてダイブした
リンは床部分にある焦げ目と
後ろの壁にある焦げ目
そして、割れたガラスを見上げると
観客席に座っている年配男性達から
堪えきれない笑い声が響き始めていた
リンは息を吐いてから
ゆっくりとシンに歩いて近づいて行く
「完敗!完敗よ!シン!
ケンカ売られたのも初めて
ここまで完敗したのも初めてですわ」
モミクチャにされてるシンは
何か答えようとするが
あっそうっとだけ言う
「ですので!1日デートをして‥しなさい!
初めてを奪った責任だから!
コレは絶対なんですのよ!」
「は?何言ってんのよ!
言っていいのは1個だけでしょ!」
「そうなの!なら!コッチは2日なの!」
「双子で4日なの!」
「そんなんズルいわ!ウチは10日や!」
「狩りに行こう!シン!
海の上で!ずっとデート!」
「家でデートは?ウチの事を
出迎えてくれんのと添い寝でええから」
「責任って言ったら私も!
シンじゃないとゼッタイ駄目だもん!」
「それなら私もね!」
「シンは最高です!
散歩に旅行!いっぱいしてくれるんだもんね!」
「逃飛行の旅もいいわね!シン!」
「シンと色んな服を買いに行って
美味しいモノとか食べに行きたいもん!」
シンはリンに言い返す前に
被せる様に次々と言われるのを
半眼になって呆れて聞いていた
「なんで私だけが祝わなきゃなんないのよ!」
シンの叫びは
さらなる要求に押しつぶされていく
そんな中で
シン達にサリの祖母が携帯を操作しながら
近づいて行った
「はぁい!そこまで!
シンちゃんはスゴイ事をしたんだから
後片付けも、しっかりしないとね」
携帯を見せながら
サリの祖母は和かに言う
シンは一瞬固まるが叫んで言い返した
「だって!色々と考えてくれるって
だから、思っ切りやったのに!
じゃあ!もうやんないわよ!」
「こんな事にならない様に
ちゃんとコントロールしなさい」
開法学院の教頭である
サリの祖母が持つ携帯の画面には
理事長室が映し出されていた
室内は何かが飛び込んで暴れた様に
物が散乱しており
カメラの中央に映る大きい机の上には
暴れた犯人のバレーボールが乗っていた
「ちゃんと片付けが出来たら
反省文は無しになるうえに
美味しいご褒美が待ってるから
みんなで頑張ってやってきなさい」
「ったく、しょうがないね
掃除道具と割れ物を入れる物を
持ってきてあげるさね」
「ほな、ウチも手伝っとこうかな
シンちゃんが嫌や!って暴れだしたら
相手してあげなアカンし」
何か凄みを出しながら
ポーの祖母とソナの祖母が
手伝いを申し出てくるし
頭の上ではマンジュが
食べたい!美味しいの!食べる!と言った感じに
ピッ!ピィー!ピィ!と叫ぶ様に鳴きながら
尻尾をシンの頭にペシペシしている
シンは抱きつかれて
だんご状になっている所から
溜息を吐きながら出てきて
観念した様に言った
「わかったわよ
しょうがないわ‥‥なんで?」
「シンちゃん!それはアッツいけどな!
経験上!後でサムイ事になっちまうぜ!」
「ルカ!何度言わせんだい!
こういう獲物は油断を誘ってくるって!
油断して目を離すんじゃないよ」
「ぐっ‥‥私の味方はいないの!」
ルカの祖父母に両肩を掴まれながら
シンは足掻く様に言うと
正面から笑顔のシンの母親が
ゆっくりと近づいて来た
「イヤ!なんで!来ないで!」
「シンちゃん?遊んだ後はどうするの?
ママに教えて欲しいなぁ」
「見てたでしょ!聞いてたんでしょ!
私が悪いわけ」
「だからと言ってもね
自分でした事なんだものね
責任は取らないといけないでしょ?」
「いや‥‥だって‥‥」
「お姉ちゃん達に遠慮なく遊ばれたい?」
「わかった‥‥わかりました!」
「ママは?」
「わかりました!ママ!」
シンが拗ねた様に叫ぶと
笑い声と歓声が上がって
それぞれが思い思いの方へと歩き出した




