96話 対等になった事
「ホントにやる気なの?」
「そう言いましたわ」
シンがピョンピョンと飛んで
頭にいるマンジュが嬉しそうにしていた
春休みが始まり
リンとポーが高校へと進学するので
軽いお祝いをしようという話になった
テキトーな話題の時に
リンとポーに欲しい物を聞いたら
ポーはシンと1週間2人きりが良いと言って
色々な方法の長い相談の結果
1日だけシンを独占することになって
ハシャギまくるポーとマンジュと一緒に
シンは遊園地や買い物に出掛けた
リンはというと
しばらく待って欲しいと言って
出してきた案というのが
結界無しのバレーで全力勝負だった
「は?絶対に無理よ」
屋上でお弁当を広げて食べてる時に
シンはそう言って驚いていた
何言ってんのと言った感じで
シンが同意を得る為に周りを見回すと
「やって欲しいの!」
「見たいの!」
「アッツいわ!」
「やるんか?」
「やるでしょ」
「そうね」
「やるんやろうね」
ウキウキしながら話す
エル、ヒル、ルカ、ソナ
カヤ、ウイ、トウカを
シンは半眼で睨みながら
「私をなんだと思ってんのよ
できる訳ないでしょうが
人族の子ってのを忘れてんの」
「ちゃんと許可とか取ったの?」
「バッチリですわ」
「聞きなさいよ」
シンが抗議するが
ポーとリンが話を進めていく
「リンが打ちこむって事は
シンが打ち返してもいいよね」
「私がタイミングを調整するわ」
「じゃあ、リンのボールを上げた後に
シンのボールを受け止めます!」
「なんで私が無事な前提で
話が進めてんのよ」
アヤノ、サリ、クナが
ウズウズして話してるのを
シンが呆れながら抗議すると
アヤノが目を光らせながらシンに抱きつく
「絶対に嫌よ!」
「ヤダ!やりたい!したい!やって!
お願い!今世と来世合わせて最後のお願い!」
「何十回使ってんよ!ソレ!
結界無しよ!吹っ飛んで終わりよ!」
腰あたり抱きついて
おねだりを始めるアヤノに抵抗して
シンは逃げ出そうとしていたが
次々に抱きつかれて観念する
「やってくれるんでしょう?シン」
「ウッサイ!どうなっても知らないわよ!」
リンにシンが叫ぶと
晴れた日の学校の屋上で
原種達の歓声が上がった
開法学院の体育館で
顔見知りの原種達が観客席にいた
「アッツい事になりそうだな!」
「本気でやるって言うが
オメエんとこの嬢ちゃんは
どんな感じなんや?」
「さてね‥‥
色々と緊張してるみたいだけど
妻が認めるくらいにはなっているよ」
「そらまた大変な事になりそうじゃのぅ」
「こんな事は初めてだがな」
「ああ‥‥なかなかお目にかかれねぇな」
「まったくスゴイ事をやるもんだな」
年配男性の原種達が待ちきれない様子で
コートを見ながら話しているが
狼族の年配男性は黙って
コートにいる孫世代や
何か起きた時の為に備えて
コートの外側にいる子世代を
ジッと見ていた
「そういやぁよ
オメエさんは止めに行ったんだってな」
「ったく!ウルセェんだよ!」
狼族の年配男性は聞かれた事に
イラだったように答える
狼族の年配男性の周りにいた年配男性達は
一瞬だけ静かになるが
ドッと笑い出す
「いやぁ〜いいね
懐かしいというか
その方がしっくりくるよ」
「そうじゃのぅ
今は紳士ぶっとるが
昔はそんな感じだったしのぅ」
「別に変って訳じゃないが
その方がオメエさんらしぃわ」
「安心したぜ!まだアツイじゃねぇか!」
「何があったかは知らんがな」
「まぁ、心配してやるな」
「それを言うならだな」
「アッチよりも‥‥
向こうの方が心配だな」
笑いながら話していた年配男性達が
少し離れた観客席の方に目を向けると
彼らの娘達に混じって座っている人族の女性が
コートでピョンピョンと飛ぶシンを
祈るように見ていた
「アレを見ちまうとよ
なんかよ‥‥なぁ、わかんだろうがよ?」
狼族の年配男性が周りに問いかける
「じゃあ、なんで無理矢理にでも止めんかった」
エルフ族の年配男性に問い返されて
狼族の年配男性は難しい顔をした
「ワシはアッチい秘蔵の酒を出すぜ!」
「妻が怒るかもしれないけど
アテは任してくれるかい」
「ひとっ飛びして
面白い物を買ってきてやらぁ」
「ワシは、そうじゃのぅ
引退の時に貰った酒を出そうかのぅ
アレは珍しいモンだから
お主らは飲んだ事はないじゃろう」
「朝に採れた自慢の野菜と果物だな」
「ワシも野菜には自信があるからな」
狼族の年配男性の肩を叩きながら
周りの年配男性が自慢の逸品を賭け始める
「わぁったよ!
デザートは任せておけや!
唸らせてやっからよ!」
狼族の年配男性が叫ぶように言うと
鬼族の年配男性が少しだけ考え込んでから
「覚悟しておけ
他の場所で食う気を無くすような
そんなモンを用意してやる」
歓声を上げて喜ぶ年配男性達を
少し離れた所で
呆れたように見ていた年配女性達も
何かを思いついたように
電話をかけたりしていた
落ち着いて
しっかりとコントロールする事を意識して
限界点は決めてきた
そこは超えない
相手は人族の子なんだから
リンは1週間ぶりに話したシンと
ネットを挟んだコートで背を向けながら
自分に言い聞かせていた
あの屋上で決まってから1週間
いや、決まる前から
祖父母や父母に相談していた
祖父と父は安全面は任せておきなさい
顔馴染み達が喜んでやってくれると
言っていた
祖母と母からは
力のコントロールを徹底的に教えてもらった
何度も何度も同じ事を繰り返して
力の強弱を同じ位置で止める
これ以上は使用してはいけない
これ以下は相手に失礼だという加減
どう言い繕っても、シンは人族の子だ
魔術に対しても、単純な力に対しても
抵抗するだけの技術も知識も身体も
持ち合わせていない
リンは自分に言い聞かせてから
落ち着いて、息を吸って、吐いて
息を止めた時に歓声が上がる
頭に衝撃がきた
何が?とリンは思っていると
目の前をボールが跳ねていた
アレが頭に当たったのかと理解して
誰が?と思い、周りを見渡すと
ネットの向こうで
シンが仁王立ちしていた
「耳障りな音鳴らすんじゃないわよ!
やるんだったら人相手でやりなさい!!
私が叩き潰してやるわよ!
こんなんだったっけぇ?リンちゃぁん」
リンは呆気に取られながら
周りは静かにしながら
シンの言葉を聞いていた
「続きは、アンタが取れないようなボールを
打てばいいのかしら?だったよね
今のアンタで、ホントに私をやれんの?
言っとくけどね!
本気でやんないならやめるわよ!
何を心配してんのか知らないけど」
シンはリンを指差しながら
今から起こる事が楽しみでしょうがない
そんな顔で叫ぶ
私の二つ名は伊達じゃないのよ!
シンの声が響いた後の体育館に
光る雨が降り始めた




