95話 何度も望んだ夢
勉強が一区切りしたので
ヘッドホンを外し、机に置いてから
椅子の背もたれに体を預けて
シンはゆっくりと伸びをする
今日は部活は無い日で
昼からは遊ぶ予定なので
朝はゆっくりとしていた
お茶でも飲もうかなと思い
コップを持って食堂へと向かう
頭からマンジュがヒョコっと顔を出すが
寒かったのか、また髪の中に隠れていく
食堂でヤカンに入ってあるお茶を
コップに入れると一気に飲んでから
お茶をコップに入れて部屋へと戻る
何かがおかしいと思う
誰の気配も感じない事なんて
ここ最近は無かった事だ
そう思いながら
ジャージの上から着ているドテラから
携帯を取り出し、日付けを見て
あぁ〜と思いついて、わかった気がした
色々と煩わしい思いがあったんは
同級生にいた蛇族の原種が
何度も何度もしつこく言ってきた事やった
やんわりと断ってたんやけど
付き合ってるみたいな事を
周りに言いふらして
俺に冷たくしてるのは愛があるからとか
2人の時はスゴイんだとかを
影で言いまくってた
真剣に付き合いを断ったり
周りに付き合ってないと言うても
ガキみたいに茶化してきよったから
登校の時間に門の前で
本人と取り巻きをシバいた
本気でガチでシバいた
バアちゃんとジイちゃんが
相手側に謝りに行ってくれた
色々と嫌味をネチネチと言われとったって
オカンから聞かされた
泣きたくなったけど
負けたみたいで嫌やったし
バアちゃんとジイちゃんは明るい感じに
こんな事もある
これぐらいの迷惑をかけてくれた方が安心や
そう言ってくれたのもあるし
なんで私が悪いん?とも思っとった
同じ時期ぐらいに
似た様な事をしたトウカとは
時間はかかったけど仲良くなった
知らん所で色々と嫌味な事を言われとったけど
関係ないわと2人で笑い飛ばしてた
トウカが気になる子がおると言う話の時も
蜂族と麒麟族の原種の子が忠告しに来た時も
へぇ〜‥‥おもろそうな子がおるやんって
感想やったと思う
審査とか試験とかをパスして
専攻科に入った時も
そんなに気になる子がおるんやったら
ウチが見といたるわってな感じで
バアちゃんとオカンに中学校の担当を
させてもらえへんかと申し出た
バアちゃんから教えてもらってたけど
スゴイ子がいるもんやなと思った
バレーの全国大会で
原種の子が暴走して打ち込んだ球を
無傷で受け止めた上に打ち込むやなんて
人族がねぇ〜‥‥
ウチの蛇達は興奮して噛みまくっとるし
そないに麻酔かけんでも‥‥
今回は手だけの治療やで
甘噛み?なんやそれ?けったいな事するなぁ
それからやったと思う
トウカが本気で落ち込んでる時に
なんや段々と本気に惚れ込んでいきよるし
癒し?知らんがな!
ウチも段々と仕事で落ち込んどる時に
逃げる人族の子を追いかけ回すのが
楽しみの1つになってきよったし
蛇達も今日も行くんか?やったんでぇ!って
逃げるのが上手くなっていく人族
蛇達はシンの事を毎日話しよるし
シンが寝てたベットの上でウネウネしとる
そんなにええんか?‥‥‥‥ハッ!
アカン!アカンって!なんやコレ!
ウチが変態みたいやないか!
‥‥洗わなアカンやんな
洗うんやったら家に持って帰らんと
段々と部屋に物が増えてきた
保健室でシンが寝とる時に抱きしめさせて
家に持ち帰る日々が続いた
シンの匂いが付いとる物を
抱きしめて寝ると安心するっていうか
アカンと思う背徳感が癖になるっていうか
蛇達はズルい!とブーたれとったが
‥‥ええやんか、別に
シン達が問題を起こさんようになって
会える理由と機会がのうなった時に
思い蛇が生まれたんはその時やった
朝起きた時に
蛇達に囲まれて茶色い小さい蛇が
シンの匂いが残っとるシーツの上で
気持ちよくピーピー鳴いとった
なんで?嘘やろ
なんでなん?ホンマにやめてや!
こんなんってナシやろ!
相手は女やし!友達が狙っとる子やし!
これだけはやめてくださいって
あの子達に頭まで下げられて頼まれてんで!
散々悩んで悩んだ結果
どうしようもなかった
ピーピーと泣く思い蛇も
シャーシャーと鳴いて抗議してくる蛇達も
ウチの気持ちも
ホンマにどうしようもなかった
10日程経つと
思い蛇が動かんようになった
蛇達が、こんなんないで!あんまりや!と
シャー!シャー!と言うてくるけども‥‥
わかっとるんや!
ウチかて!こんなんは嫌や!
せやけど!せやねんけど!
どないしたらいいねん!なあ!言うてみ!
怒鳴ってたら
何も言ってこんようになった
あんまり眠れん日々が続いてた
寝たら夢を見てまうから
バアちゃんやオカンに思い蛇の事を
小さい時に聞かされた時の夢
聞いた時はホンマに夢見とったんや
思い蛇を好きな人と一緒に可愛がって
ウチも笑顔で幸せになれるんやって
せやけど
現実は‥‥こんなんや‥‥
2週間が経って
思い蛇が今日か明日かもと思うぐらいに
弱りきっていた
ウチの思い蛇が
ウチの気持ちが
無くなってしまう
ホンマに堪忍なって
小さい頃に考えて決めていた
これだけは絶対に言ってやろうと思ってた事を
呟いてやると
思い蛇は少しだけ頭を上げて
またシーツに横たわった
もうすぐ朝が来る
今日は一緒にいてやれんねん
仕事があるんや
ホンマに堪忍し‥‥
アカン!寝てもうた!遅刻や!
えっ?ウチの思い蛇は?アイツらは?
まさか‥‥まさかぁ!
バアちゃんとジイちゃんとオカンに
全部バレた後に
体育館へ乗り込んで行ったら
なんで!なんで!なんで!
やっと!やっと会えたんだもん!
嫌!絶対に離れたくない!
ウチの思い蛇が涙目で必死になって
訴えてきよった
思い蛇も蛇達もシンから吸い取って‥‥
待って?何で?吸い取れるん?
夫婦で惚れ込んでる方から
伴侶に蛇を渡して
馴染んだら吸い取れるんやけど
ウチが惚れとる?もう惚れとんの?
その後は色々とあって
思い蛇が奪われそうになった時に
バアちゃんが本気で怒り狂って
ウチがシバいた事のあるヤツの所に突撃した
女に思い蛇を恵んだんだろうが
あんな物やけど、利用できん人族より
俺の方が有効活用できるやろ
こんな言葉やったと思うけど
その後の事が衝撃的すぎて
あんまし覚えてない
必死なジイちゃんがバアちゃんを
止めんのが少しでも遅れとったら
バアちゃんの拳が
あの男の顔面を捉えて
下手したらエライ事になっとったと思う
男の顔の横に振り抜いた拳をそのままに
バアちゃんが男に顔を近づけて
はぁ‥‥こんなんも反応でけへんのかい
それにしても運が良かったな
旦那が止めんかったら
そのカッコエエ顔面がのうなっとったぞ
その後は昔に嫌味言われた仕返しとばかりに
かなり暴れてた
ジイちゃんはバアちゃんに抱きついて
止めようとしてたけど
バアちゃんはガチでキレてたから
ジイちゃんを振り回しながら暴れてた
その後は楽しくやっとる気がするんやけど
シンと会うたびというか
マンジュの顔を見るたびにというか
過去の自分の行いが
恥ずかしいというか
悔しいというんやろうか
顔が赤くなるというか
シンを見たからやないで
なんかグチャグチャな感情が
ウチの中を走り回りよる
今もそうや
仕事中やからと
後で渡すからと言っていたのに
全員が一緒に渡そうと
学校の保健室まで来てくれて
シンを呼び出して
後ろでバアちゃんとオカンは笑っとるけどな
こんな事をされるような
してええような
ましてや笑っててええような
そんな資格があるんやろか
「ハイ、これ」
「え?シンがウチにくれるん?」
今日はバレンタインデーで
ウチらがシンにあげて
シンからホワイトデーにお返しをもらう
そう決めた日やから
シンは全員から貰ったチョコを
持ってたんやけど
シンは保健室に来た時から持ってた紙袋を
ウチに渡してきた
「マンジュがソナにって」
「ウチにくれるん?なんで?」
「マンジュ?隠れてないで説明したら?」
シンに言われて、シンの髪から
顔を出して、ピーーピーっと素早く鳴いて
シンの髪に潜り込んだ
「なんなのよ?説明しといてとか
はぁ‥‥まぁいいわ
最近、マンジュがハマってる群狼堂
クナの実家の和菓子よ
紙袋には色々と入ってるけど
マンジュが選んだヤツだから」
「なんでウチにくれたりするん?
ウチはあんな‥‥酷い事したのに」
「だってさ、マンジュ?」
シンに言われたマンジュは
シンの前髪の間から尻尾だけを出して
シンの額をペチペチと叩く
「だからもう!ちゃんと今日やるって
そう言ってたでしょ?マンジュ!
マンジュってば」
「ええよ、うん
これだけでも嬉しいから
ありがとう」
ソナのお礼を聞いて
シンがため息を吐いて
あのさぁ〜と半眼になる
「名前くらい呼んだってバチは当たんないわよ
ソナが付けた名前なんでしょ」
「え‥‥いや
シンが饅頭に似とるって」
「そんな安直に付ける訳ないでしょうが
マンジュが呼んで欲しい名前があるけど
そのまま呼ばれたら
絶対にバレるから、それはイヤだから
なんかわからないように理由つけてって
そう頼まれたから言ってただけよ」
全員が注目している中で
ウチはどんな顔で
シンの頭から顔を出して
拗ねたようにコッチを見とる子を
白い蛇を見てたんやろ
「呼んであげたんでしょ?
マンジュは、それが自分の名前だって
理解してたみたいよ
名前は、なんて呼んで欲しいって聞いたら
ソナが呼んでくれないけど
やっぱりコレが良いって言うのよね」
シンの頭へ両手を水をすくうように差し出すと
躊躇いがちに白い蛇が乗ってくれて
コッチをジッと見てきとる
マンジュシャカ
小さい時に決めてた名前
あの日、言うのは最後って決めて呟いた
ウチの大切な思い蛇に付けた大事な名前を
呼んでやる
手の上で尻尾を高速でフリフリしながら
コッチを見て、ピィー!ピィー!ピッ!と
嬉しそうに小踊りしとる
ウチは思い蛇を見て泣き崩れてもうた
「やっぱそうよね‥‥
そうこんとアカンわ‥‥ええねぇホンマに」
「なになに?オカンはわかっとったん?」
「ウチやのうて旦那が言うとった
シンちゃんにしては
名前の由来が単純すぎるから
何かをわかりやすくしとるんちゃうかってね」
「へぇ〜、オトンもシンちゃんに
お熱なんやねぇ〜」
「そらそうやろ?
ウチの拳を避けよる子やで
旦那は動画見て、酒を吹いとったからな」
「文化祭の後夜祭やったっけ?
ウチも信じられんかったわ
アレってどないなん?本気?」
「まぁ‥‥最後あたり?
2発目からムキになっとったような気も」
「ほぼ全部やん!
そりゃあ、オトンも酒吹くわ!」
「最近は畑仕事の前に
キツい目の鍛錬を再開しとるんやけど‥‥
アンタちょっと相手してくれへん?」
「いやぁ〜‥‥それにしても我が娘ながら
ブサイクな顔しとるわぁ
動画撮ってこよっと」
ソナの祖母がしてきた提案を
冷や汗をかきながらソナの母親は誤魔化し
シンに巻き付くように抱きついて
鼻水を垂らして号泣してるソナに
携帯を向けて歩き出した
「にしても乙女の勘は当たるもんやね
白い彼岸花‥‥なんやドキドキするわぁ」
ソナの母親が笑いながら
動画を撮っているのをソナが反抗して
ギャーギャー言ってるのを微笑ましく見ながら
ソナの祖母と頭の蛇達は
煎餅を齧り、お茶を飲んでいた




