89話 勝ち負けではない
「いらっしゃいませ!
コチラの投票もお願いしまぁす!」
結果的に粉物喫茶は大盛況だった
最初は50席程であったが
途中から増えて120席となっていた
体育館の外で焼かれたタコ焼きやお好み焼きを
集まった有志達で配っていく
テーブルは常に満席状態で
その理由としては
開店前から行列になっていたお客さんの
大量オーダーが入った時に
バレー部の新部長が率いる焼き部隊が
かなり混乱した
その状況を見兼ねて
その時に客として来ていた鬼族の家族が
焼きを手伝い始め
客が多くなってきたので
材料の追加、テーブルの追加をしていく
それならと特別指導者のシャチ族が
最近狩った新鮮な海鮮物や
老舗の和菓子屋を営んでいる
年配の狼人族が持ってきた餅を
タコ焼きやお好み焼きの具材として提供した
新たに設置された巨大な鉄板を
ガンガンに熱して、鬼族3世代で
楽し気に素早く焼き上げていく
シンは出口でお客さんが
壁面に展示された出展物で
気に入ったモノを書いてくれた投票用紙を
回収ボックスの中に
入れてくれるのを見ていた
「はい!あげる!」
小さな子がシンの前にある投票ボックスの横に
タコ焼きを置いてくれる
シャー♪とかピィ〜♬と鳴いて
シンの頭から蛇達が出てきて
タコ焼きを食べると
その内の1匹がジャー!っと鳴く
「あはは!ハズレ!バイバァイ!」
ロシアンルーレットのタコ焼きで
ハズレの具を引いた蛇が悲鳴をあげるが
でも!美味い!サンクス!といった感じで
シャ!シャー♬っと鳴く
さっきからソナの蛇達がマンジュと一緒に
シンの頭から愛嬌を振り撒いて
お客さんから色々ともらっている
「ありがとうございました!
また来てねー」
シンも挨拶をしてから
自分の格好を見てみる
和装の店員姿でエプロンは付けているが
頭にはソナの蛇達がウネウネと動いて
背中あたりで括った髪は
蠍の尻尾の様に団子にして
膝下ぐらいにある髪先には
針状の髪飾りが付いてある
「どんな生き物なのよ‥‥私は」
ホールを見るとクラスメイト達や
バレー部員達が忙しなく働いていた
シンも最初は注文を取ったり
料理を運んでいたのだが
記念写真とかは、いいとしても
料理から立ち昇るタレとか鰹節の匂いに
蛇達がウネウネと動きながら
ヨダレを垂らす
マンジュは
いつ?いつになったら食べれるの?と
いった感じにピィ‥‥ピィィ‥‥と
悲しげに鳴きながら周りを見始めたので
ホールを歩いているとお客さんが笑いながら
蛇達に少しずつ料理を分けてくれた
その度に立ち止まってお礼をするし
蛇達がアッチもや!コッチやで!と引っ張り
段々と重たくなる頭で
フラフラとしていたら
「シンはコッチで立っとれ」
「そやな!ウチらがやっといたるわ」
頭に蛇達がいないので
髪がストレートになり
顔が赤くなったソナと
クスクス笑うトウカがホールを手伝い
シンは出口でお客さんから料理を貰うのと
投票用紙を回収する役となった
「アンタらの胃袋はどうなってんのよ」
お客さんやホール担当が持ってくる
色々なタコ焼きやお好み焼きを
蛇達にあげたり、自分が食べたりしながら
シンは蛇達に愚痴る
そんなこんなで
体育館内を少し暗くして
プロジェクターで上映している
開法学院バレー部の試合動画が
最近の試合ぐらいになった時に
シンの両隣に女性が立ち話しかけてきた
「久しぶりだけど覚えてる」
「クナの姉なんだけどさ」
「覚えてるわよ
クナから色々と聞かされてたし
よく似てるから、わかるわよ」
シンは動画を見ながら
クナの姉2人と話していると
ちょうど狼敬中学との試合になる
「この時ってさ
アンタは‥‥アンタらは手を抜いてたわけ?」
「途中からアンタが出てから
明らかに動きが変わったわよね」
2人は食べながら言う
シンは頭の上から催促されたので
食べやすい様に切られたお好み焼きと
タコ焼きが盛り付けられている皿を
持つと蛇達が勢いよくカブリついた
マンジュはシンが爪楊枝で刺したタコ焼きに
カブリついて飲み込むと
次!もう1個!と言うので
爪楊枝で刺したタコ焼きを顔先に持っていくと
マンジュはオグっ!と食いついて
ゆっくりと飲み込んでいく
「別に手を抜いたわけじゃないわよ」
シンがそう言ったが
2人は納得いかないといった表情をする
シンは少し笑いながら続ける
「あの時のクナは最初
他に原因はあったけど、アレが限界だったのよ
だけど‥‥成長したでしょ
短い間に圧倒されるぐらいにまで」
「アレはアンタらがいたから!」
「そうだ!アンタがいたからだ!」
大きな声を出す2人に周りが視線を向ける
ホールには
口の周りにソースや青のりを付けたクナが
シンの方を見ていた
「違うわよ
私達はクナに頼まれただけよ
目の前にいる姉達の得意分野では
絶対に敵わなかった‥‥だから
私の得意分野では憧れた姉達みたいに
強くてカッコよくありたいんだってね」
シンにそう言われた2人は
ホールのクナを見ると
頭に生えている犬耳をパタパタと動かしながら
真っ直ぐに歩いてきた
「言ったな!シン!絶対に言った!」
「なんか言ったっけ?ねぇ‥‥」
クナが怒鳴りながら
シラをきるシンに詰め寄り
姉達2人を見る
「コッチ見んな」
「アッチ向け」
クナの姉達は照れてるのがバレバレな顔で
頭にある犬耳をパタンと畳んで
横を向きながら拗ねた様に
ジュースを飲みながら呟いていた
「クナの姉って感じだわ」
「トボけんな!シン!言ったんでしょ!」
「別にいいでしょ
言わないとわかんないわよ
‥‥クナの姉なんだもんね」
「そんな事ないもん!
お姉ちゃん達は言わなくても
絶対にわかってくれてたもん!
だって!お姉ちゃん達なんだもん!」
「アンタらはまだ食べんの?
マンジュは丸くなっても知らないわよ」
「聞いてってば!」
クナがシンの両肩を持って揺らしながら
姉達はカッコいいんだと語るのだが
シンは蛇達に催促されるがままに
料理を渡していた
昔は色々な事をした
姉達の後ろをくっついて歩いて
姉達がする事を真似て
姉達の凄さを実感して
なんか誇らしかった
バレーの全国大会で
人族が率いている群れが負けた
その試合を家族で見ていた
これならできる!
姉達がやっているのでは敵わないけど
バレーなら!人族がここまでやれるなら!
私なら優勝できるし!姉達に追いつける!
そんな感じで始めて
レギュラーになって、勝ち進んで
トントン拍子に‥‥簡単じゃない!
やっぱりそうだったんだ!
人族が活躍できるって事は
そういう事だったんじゃない!
全国大会で3位になって、祝ってもらった
その次の日、とあるサイトの動画で知った
人族があり得ない事をしていた
原種の思いっきりを受け止めて
原種の思いっきりを弾き返していた
コートにいる全員が動けていなかった
なんで?去年に限界を知って
折れて負けて諦めて
他の人族みたいに辞めたんじゃないの
去年の動画もあったので見返してみた
ほら!周りがやる気も気力もない試合
覚えて‥‥相手が開法学院じゃない?
全国大会1回戦の動画?
そんな時からなの?
全国大会に出てくる様な群れ‥‥チームだもん
強豪だよ‥‥それをこんな状態で?
毎試合をフルセットやってんのに
1日に3試合も‥‥
相手には対策されて
味方には見放されて
牙は折られて、爪は抜け落ちたのに
それでも噛みついて、追い縋って
しがみついてでも勝って
開法学院としたんだ
開法学院との試合を途中で棄権した時の
タオルを被っている小さな人族
シン・フジムラを画面越しで見ていた
最初に見た時とは違って見えた
バレーを始めて、彼女のモノマネをして
シン・フジムラの群れがなれなかった
全国3位になった
シン・フジムラは3位になれなかった
その後に群れを変えて全国で優勝をしている
私の方が上なんだ!
挑んで負かしてやる!
私も群れさえ変えれば
全国で優勝するくらい簡単なんだ!と
思って挑んで負けて懐いちゃいました!
今はシンが大好きです!
勉強も教えてくれるし
朝のランニングも付き合ってくれるし
ご飯もアーンしてくれるし
抱きついたら、頭を撫でてくれるし
バレーでも姉達に勝てる様にしてくれた
私が
失敗しても
諦めても
駄目だったとしても
シンは
教えてくれて
見せてくれて
見守ってくれる
TSを起こして
ファミリーを作るって話を聞いた時は
絶対に入りたい!シンと離れたくない!って
何度も何度も先輩達に言ったら
呆れながらだったけど群れに加えてくれた
できないなんて思わないし
できるなんて油断はしない
だって!シンが教えたんだよ!
噛みついて!追い縋って!しがみついて!
押し倒して!抑えつけて!逃がさないで!
絶対に!勝つんだって!
「シン!いい匂い!大好き!」
「ハイハイ‥‥人が多い所ではやんないの
迷惑がかかるでしょって!
口に付いたソースが服に付くでしょうが!」
クナがシンの後ろから抱きついて
顔を首元に埋めてグリグリとしている
「クナ!お姉ちゃんには!」
「そうよ!コッチに来なさい!」
「後で!今はシンで忙しいの!」
クナの姉達はシンにしがみついているクナを
引き剥がして連れて行こうとする
「行ってきたら?
いつも話してたお姉ちゃん達なんでしょ」
「シンが言うなら‥‥
シンは後でギュッするから!」
シンがハイハイと答えると
クナはシンから離れた
次の瞬間にクナの姉達は
勢いよくクナを抱きしめる
「クナはお姉ちゃんが大好きなんでしょ!」
「私よね!クナは私が大好きだもんね!」
「ヤダ!やめて!お姉ちゃん達の匂いは
もういいから!シンの匂いがぁぁぁ!」
「上書き!浮気モノの妹には
お姉ちゃんの匂いを擦り付けるし!」
「群れから離れた時は寂しかったんだからね!
ウリウリウリウリ!上書きぃ!」
「イヤイヤイヤ!シンの匂いが!」
姉妹のやり取りを見た
お客さんからは笑いと拍手が起きていた
「まぁ‥‥姉達には敵わんよねぇ
けどまぁ‥‥めんどくさいけど
ああいうのは嬉しいもんね」
カヤがクナの叫びを聞きながら
ニヤニヤしていると
後ろから2つの影に襲われて
ギニャァァァア!と叫び声をあげた後に
姉達2人に体を擦り付けられていた




