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86話 やがて、そこに至る物語

夕陽が沈んでいく時間に

シンは1人で屋上にいた


なんとなくフェンスを掴んで

グラウンドで部活の片付けをしている光景を

見てから、暗くなってきている空を見る


「なんでなんだろう」


何年か前に

ここで自分の限界を悟った


どんなに鍛えようとも

これからは周りの成長速度が早く

対等にやりあえるのは

ここまでと思っていた


中学1年目の時は

周りの力に助けられて

欲しかった二つ名を手に入れたと思っていた


中学2年目の時に

流石に限界だと思ったから

ふるいの時にクナを見つけて

全国大会に合わせて成長を促した


決勝までクナを優先して

出場させていたのに

結局は出ていかないと勝てなかった


去年とかと比べてなんだけど

相手は強かったと思う

それでもベンチから見てる限りでは

本気を出してない様に見えて

クナだけじゃなく

リン、アヤノ、サリ、バレー部員が

ナメられている様な気がしていた


だけど、実際に出てコートに立ってみると

相手は真剣にやっていた

動画とかも見返したけど

人族に対して遠慮しているとかもなかった


なんでそうな風に見えたんだろう

なんで大した事がなかったんだろう


「私が‥‥おかしいのかな」


新学期が始まって

周りから色々と祝福された

団体競技で人族が

ここまで活躍したのは初めてだ

ましてや2年連続で

他種族の二つ名を貰った上に

合わせて1つにする事なんてと言われた


調子に乗ってしまっても良いのだろうか

謙遜しなくていいんだよって

あの兄や姉達からも素直に認められた


「だから‥‥コレも‥‥

そういう事と思っていいのかな」


シンはポケットから手紙を取り出して

夕陽に照らされた内容を読む

さっきも読んだ内容だから

変わりがないのもわかっている


「そろそろなんだし

聞いてみるだけならいいよね」


シンは読んだ手紙をポケットにしまって

寮の中に入っていった



土曜日にある進学科の午前授業が終わった後に

シンは隣街までやって来ていた

電車で4つ離れている駅で降りて

手紙で指定されていたお店に入っていく


「よく来てくれた」

「初めまして

お招き頂きありがとうございます」

「コッチへ座ってくれ」


店に入ると高校生くらいの男性が

席に座ったままでシンを手招きする

店は焼肉屋で去年オープンした所らしかった

入ってすぐの座敷に

シンは礼をしてから男性の対面へと座った


シンは制服でスカートを履いていた

なんとなくこういう場では

こうなのかなと思っての事だった


男性は店員を呼んで注文をし始めるが

シンには男性も店員も何も聞かなかった


「わかってるとは思うが

人族のメニューはない」

「わかってますので

話だけ聞いたら帰ります」

「そんな事はないだろう

ここに来たって事は入るって事なんだ」

「そういう内容ではなかったと思いますが」


シンが男性に言うと

男性は、あ〜そういう事ねと

1人で納得する

しばらく無言が続くと店員が

注文した肉やジュースを持ってくる


「こういう事は最初が肝心だ

わかるだろ?人族にしてはいい成績だし

いいヤツらとも距離が近い」

「今日はファミリーの話だったのでは?」

「そうだが?さっきから話してる

原種から誘いを受けるなんてスゴイ事だと

そう思って入りに来たんじゃないのか?」

「入りませんよ

ただ話を聞きに来ただけですが?」

「かなり頭が悪いな

そこにいる蛇並みかな」


シンは溜め息を吐いた

ここまでわかりやすく気分の悪いヤツだとは

思わなかったからだ

芝居でやっているのかなと思うくらいに

ザ!原種って態度だし

おぼっちゃまって感じだ


マンジュは目の前にある肉に

なんの興味も示していない

ただジッと鳴きもせずに

シンの頭の上で周りをキョロキョロと見ていた


「そうですか‥‥

わかりましたので失礼します」

「何がわかったんだ?言ってみろ?

ファミリーに入るのは決定なんだ

それ以外の事の何が理解できたんだ」


シンは答えを返さずに

立ち上がって靴を履くと

男性店員が前に立って行く手を阻む


「コッチとしてはよ

アヤノってヤツがファミリーに入ってくれれば

いいんだよなぁ

お前は仲がいいんだろ

一緒に入ってくれればいいんだ」

「私はオマケじゃないんで失礼します」

「オマケは他にいっぱいいるからな

お前はオマケでも無く、包装紙ってヤツだな

色々と包んで俺に貰われたらいい」

「うわ‥‥気持ち悪」


そこまで言うとシンは違和感を感じた


目の前の店員が肩を掴んで

座敷に押し戻そうとしたので

姿勢を低くして避けると

入り口まで歩いて行く

店員が追い縋って手を肩に置いて来たので

手首を掴んで肩から無理矢理引き剥がした


やってて違和感しかなかった

店員は角が出ているので

ここにいる全員が鬼族なんだろう

あの失礼な男性も会った瞬間にわかった

こんな事がなんでわかるんだろうか

なんで鬼族相手に

なんでこんな事ができるんだろう


「もういいですよね」


出入り口の自動ドアの前に立ち

店内を振り返りながらそう言って

頭を下げてから

店を出て行こうとしたら


「ハァ〜イ!シンちゃん!

元気してるかなぁ」


満面の笑みでアヤノの母親が立っていた

その後ろにはアヤノの父親が腕組みをしている


「え?あれ?なんで?」

「ほらほら!寮に早く帰らないと

夕食に間に合わないわよ」


シンは頭はポンポンとされて店から出される

さっきの店員に肩を掴まれた時には

本当に何も思わなかったのに

今は冷や汗が全身から出る様な感覚に襲われる


「シンちゃん

明日は空いてるか?」

「はい‥‥空いてます」

「なら、昼時にウチに来なさい」


アヤノの父親が優しく言ってきたので

シンは無言で頷いてた

頭の上ではマンジュが小躍りしながら

やったー!美味しいヤツだ!と言って

ピッ♪ピッ♬と鳴いていた


シンは店から遠ざかる時に

こういう事は保護者を通すって

礼儀も知らんのか!クソガキ共が!とか

聞こえた様な気がしたけども

シンは足早に駅に向かった


電車が来ていたので

素早く乗り込んで席に座ると電車が出発する

ガラガラな車内でシンは溜め息を吐く


私って包装紙とか

そういう風に見られてたんだ

私がファミリーに誘われるって事は

向こうから見て原種達が付いてくるかもって

そういうメリットがあるから誘われるんだ


恋愛とかそういうものに憧れてたのになぁ

もっとこう甘いというか

寝ても覚めても想い想われるみたいな

ドキドキしてキラキラな世界があると思って


冷や汗が出てきた

電車の連結部分のドアが開いた時に

殺気というか

絶対に許さない

許すはずがないといった気迫を纏った

そんな集団が両方から入って来た


シンは立ちあがろうとしたが

足がすくんで立ち上がれない

逃げ場は無いけど逃げたい

でも逃げたらもっと酷い目に遭う


無言でシンを取り囲む様に

その集団は席に座ったり立っていた


周りにいる乗客からは

あら〜若いわね〜とか

あの子が何かしたのねとか

ほら!悪いことをしたらああなるのよとかを

クスクスと笑いながら言っていた


「どうしたの?奇遇じゃ‥‥なんでソレを」


シンは気軽に声を掛けようとしたが

目の前に立つアヤノが

手紙を持っていたのを見て言葉が詰まる

シンの頭にいたマンジュは

アヤノの隣にいるリンの手の上で

コレでタレ付きのお肉だよね!と言う様に

ピィ〜〜♬と鳴いていた


「シン?」

「はい」

「こういうのはどうなるんだっけ?」

「いや‥‥ほらね」

「後で決めよっか?電車で騒ぐと

色々な所から怒られるから」

「穏便なのを希望します」

「却下」

「はい」


後に駅4つ分の時間で思いついた言い訳は

全て聞いてもらえず


「もうファミリーなんてコリゴリよ!

誰が入るもんですか!」


最後にはシンが叫んで半泣きになったので

全員から慰められた後


「それはそれ、コレはコレよね」

「だから!なんの意味があんのよ!コレに!」

「私達の満足と魔除け」


シンは新作の蛇の着ぐるみパジャマを着て

小さな蠍の着ぐるみパジャマを着たマンジュを

頭に乗せながら

全員と抱き合っている写真を

順番に撮られていた



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