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85話 特効薬ではなく予防接種だった

ベットに横になりながら

天井を見て息をゆっくりと吐く


「だいぶ落ち着いてきたかな」


1週間もこんな事をしてる

もう夏休みが終わってしまう

自覚はしているから

もうコントロールも出来ている


母親と祖母の姿を見ていたから

こんな思い‥‥こんな想いなんて

違う!落ち着いて深呼吸!

この気持ちは大切なんだから

こんななんて言うのは駄目なんだから


「厄介な事になった」


サリはそう思いながらタメ息を吐く



小さい頃は母親に混乱した

なんでこんなに態度が違うのか

学校で泣いて縋ったら

抱きしめられて泣かれた


祖父母は母親に怒り

私には丁寧に説明された

幼なかったからなのか

甘えては駄目だと、そういう風に理解した


バレーをして3連覇して

つまらないというか、何か足らなかった

次の大会でシンと会ってから

忙しくなって退屈でなくなった


祖父母と母親がシンのファンになって

母親が案の定やらかした

その光景を落ち着いて見ていた

身内とはいえ

距離を置いて見ていると

楽しく見られていた


はずなのに!


なんでなんだろう

なんで今なんだろう

普通にシンに抱きついたりとか

ご飯食べたりとか

一緒にお風呂に入ったりとか

寝る時も一緒にとかもしていたのに


2連覇した時の決勝だった

違う‥‥違うなぁ‥‥たぶん

いや?どれなんだっけ



タブレットで壁紙にしている

シンの浴衣姿の写真を見る

変なタスキをして花火をして

なんか言っているように指をさして

コッチに向かって笑顔をくれている

私の為に笑ってくれてい‥‥


深呼吸!深呼吸よ!私!

落ち着いて!落ち着くのよ!


タブレットで写真を何枚か見る

シンが姉達に泣かされているのとか

母親にキスされそうになって嫌がってるのとか

コッチを向いて不思議そうにしてるのとか

満面の笑みで私を見てくれて

私に向かってサインを‥‥


違うってんでしょ!写真なの!

コレは写真なんだから!落ち着いて!

可愛いだけでそれ以外にはないから!


なんでよ!

急になんでくるのよ!

ありえないでしょうが!

祖母や母親から聞いてたけど厄介すぎる!

駄目だと思えば思う程に爆発しそう!


みんなでシンの事をTSしようと決めた時も

その後の学校でも

バレーやってる時でも

ご飯食べてた時も普通だったのに

普通っていうのは‥‥何言ってんのか

わからなくなってきた


タブレットの写真を何枚も見ていると

ギャル姿のシンが

ウィンクしている写真が出てきた所で

フリックしていた指を止める


胸が熱くなり涙が出てくる

我慢しないといけない

今まで通りに抱きついたり

一緒にいて普通にしないといけないのに


絶対に止まらない

止まれなくなる

そしたら母親みたいになってしまう

あんなの引かれるって!絶対に!


シンだから大丈夫って

シンなんだからイケるって

根拠のない事を言わないでよ!

私は嫌よ!無理よ!

絶対に駄目なんだから!

こんな私なんて無理無理無理!

わかってよ!なんでわかってくれないのよ!


絶対に嫌われる

でもなぁ‥‥でもシンだしなぁ‥‥


こんな事がずっとループしてる

今まで生きてきた中で

初めてこんなに頭を使ってるような気がする


勉強は魔術の事ぐらいしかしてなかったし

感覚でする事も多いから

考えてこなかったかもしれない


シンの事だけだけど

1週間シンの事だけ考えてきたけど

答えが出ていない

それなのに

やらなきゃいけない事はわかっている


もうすぐ新学期が始まるし

部活でも顔を合わせなきゃならない

私の気持ちに整理をつけるだけでいい


後は私だけの問題‥‥


〔離れの居間にいるんだけど来れる?〕


タブレットにメッセージが表示される

溜め息をつきながら起き上がって

ジャージを着て部屋を出る

その時に携帯で今行くとメッセージを送る


本邸から出て離れに向かって

トボトボと俯きながら歩く

みんな心配してくれている

シンだって何度もメッセージをくれたり

電話もしてくれている


会いたい


この気持ちは駄目だ

違うモノなんだ

みんなが思う気持ちとは別モノなんだ

理解しているから

この気持ちは解体しないといけないけど

今までシンに対して持っていた気持ちと

なんか複雑に絡み合って処理しきれない


なんかコッチが駄目みたいに話すけど

シンも悪くない?だってさ‥‥

アヤノばっかり受け止めてさ

私は?私はないのはなんで?


色々と考えたけど

結局はリンと同じ事で点を取って

それでも2連覇を決めた時に

ゾクっとするような笑顔で

私が上げたボールが1番良く変化するって

えへへ‥‥やった


クッソォ〜


そんな事を思ってると

離れに着いたので、サリは中に入っていく


「誰もいないの?返事く‥‥」


居間に入りながら声をかけて

その光景に声が出せなくなっていた


カーペットの上にデカい蠍が

うつ伏せに寝そべっていた


大きいテーブルは横にどけられて

敷いてあるカーペットに

デカい蠍が不貞腐れたように

鋏をちょっと動かしながら

尻尾はフヨンフヨンと動いている


息が早くなり

動悸もおかしいくらいには激しくなる

サリは胸を少し抑えて

1歩踏み出すと

デカい蠍がカサカサと動き出して

ソファの方へと移動する


サリはデカい蠍に飛びかかり

ソファに押し付けるように背中から抱きしめた


「やめっ!サリ!私よ!」

「わからないわけないでしょ!

ちょっと大人しくして!」


蠍の着ぐるみパジャマを着たシンを

後ろから抱きしめて

顔を首元に埋めてサリは深呼吸をする


その後にシンを素早くひっくり返して


「う‥‥ぎゃうわぁぁぁああぎぃぃ」


サリはシンのお腹に顔を埋めて

大声を上げて泣き始めた


「あぁぁもう!ウッサイわね‥‥」


シンが言うと居間の奥から全員が

色々な着ぐるみパジャマを着て出てくる


「いっじょょぉー推すぅぅ!

じぇぇたぁぁあい!おしゅーー!」

「ハイハイ!わかったわよ!

わかんないけど‥‥わかったってば!」


シンは蠍の鋏になっている手で

サリの顔をカプっと挟んだ



「お誕生日おめでとうかしらね」

「まぁ‥‥誕生したんでしょうけどね」


サリの祖母と母親は離れの2階で

サリの産声を聞いて

お茶をしながら、そう言った


「我慢なんて性に合わない事

するもんじゃないわよ」

「それにしても

シンちゃんは苦手意識がありそうだから

サリちゃんは我慢していたのに」

「あら?受けとめるのは得意な子なんだから

こういう荒々しいのも軽いもんでしょ」

「バレーの話ではそうかもしれないけど

‥‥まぁ‥‥いっか」


サリの祖母が笑いながら言うのを

サリの母親が呆れたように聞いていると

2人の携帯にメッセージが届く


「すごく可愛いわね」

「ああぁぁ‥‥もう‥‥可愛い

行ってこようかしら!」

「それはもうちょっとしてからね

アナタも見ます?すごく可愛らしいわよ」


サリの祖母に

携帯の画面を向けられたサリの祖父は

映し出された画面を見て

少し考えてから


「なんか悪の怪人の集まりみたいだな」

「あら?ダークヒーローよ

間違えたら失礼なんですからね」

「これでは見分けがつかんだろ」


まるで悪の幹部の様に3人は笑い合った



その日

新学期が始まる1日前の夜に

蠍ちゃんファンクラブ兼

蛇蠍ちゃんファンクラブの公式サイトに

動画が2本上げられた


動画の最初には

開法学院の学院長と教頭が

転載禁止等の説明とお願いをした後で

全員が種族の着ぐるみパジャマを着て

踊るショート動画と

メイキング動画の2本だった


踊る動画では頭に小さい蛇乗せて

蠍の着ぐるみパジャマを着て

一生懸命に踊っていた蛇蠍ちゃんだったが

メイキング動画では不貞腐れていた


〔なんで!今から?

無理に決まってんでしょ!〕

〔一生のお願い!〕

〔お姉ちゃん達も一生のお願い!〕

〔アンタらの一生って何回あんのよ!

どれだけ聞いたと思ってんのよ!〕

〔手はコッチ〕

〔次はコッチなの〕

〔それやとアカンから〕

〔ちょっとだけだって〕

〔だから!やんないって言ってんでしょうが!〕

〔ゴネてないでやりなさいな〕

〔ほらぁ!違うって!〕

〔ここがこうやって〕

〔じゃあやるよー〕

〔聞きなさいよ!〕


そうやって完成されたダンス動画の最後では

蛇蠍ちゃんが振り付けを間違えて

白い蠍の着ぐるみパジャマを着た姉達と

もつれあってコケていた


余談ではあるが

メイキング動画には時折ではあるが

女性の叫び声の様なモノが入っていたのだが

公式からは心霊の類ではない事が

後々に発表されていた


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