81話 手元に届き始めた話
「じゃあ‥‥いくわよ!」
全員が見守る中で
赤い顔で酔っているシンの母親は
緊張しつつも笑顔で気合いを入れる
「右手に蛇ちゃん!」
シンの母親が右手を横に持っていくと
酔っている双子の母親がエイッ!と
右手に蛇ちゃんのぬいぐるみを置く
「左手に蠍ちゃん!」
シンの母親が左手を横に持っていくと
酔っ払っているアヤノの母親がセイヤ!と
左手に蠍ちゃんのぬいぐるみを置く
「ダークヒーロー合体!」
シンの母親が両手をゆっくりと合わす時に
酔っているルカの母親と
フラフラなサリの母親が
蛇と蠍のぬいぐるみを素早く合体させて
シンの母親の両手の上に置くと
シンの母親がクワっと目を開いて叫ぶ
「敵にはチョ〜ウザく!
味方にはアマッチョロい!
嫌わないでね!ホントはチュかれたいの!
チョ〜蛇蠍合体!ダッカツちゃん!」
「なんで2回も合体してんよ!」
シンは止めようとしたが
リン、アヤノ、エル、ソナ、ウイに
抱きしめられた上に
クナに足をポーに手を押さえつけられ
自分の母親がする事を止められなかった
ルカ、トウカ、カヤは
母親達を動画で撮っているし
サリ、ヒルは
ベロベロに酔っ払っているリンの母親を
止めきれずに蛇蠍合体で遊んでいる母親達と
衝突して倒れ込み、ワチャワチャとしていた
「ちょっと!アンタら!
これ以上騒ぐと強制的に寝かすかんな!」
「待て待て!どうやって寝かすねん」
スキンヘッドで真っ赤になった大柄な男
ソナの祖父が
保健室の主であるソナの祖母に
ツッコミを入れる
ソナの祖母は酔って前後左右にユラユラと
ストレートの綺麗な髪を揺らしていた
いつも頭にいる蛇達は美味しい料理と
酒の飲み過ぎで酔っ払って駄目になり
店の軒下で真っ直ぐに伸びて並んで寝ていた
「アイツらは相変わらず酒は大好きだが
とことんまで弱いのぅ」
双子の祖父はそう言って皆と笑い合った
ちなみにソナの母親は早々に酔い潰れて
幸せそうに居間で蛇達と寝こけていた
「やっと静かになったわね」
アヤノの祖母がカウンターの鉄板を
掃除しながら店内を見る
孫世代はお風呂へ行かして
酔い潰れた脱落者を居間に放り込んだ後に
店には落ち着いた雰囲気が戻る
「久しぶりと言った所かのぅ
孫が関係しとるとはいえ
まさかここまでのメンツが集まるとはのぅ」
「まぁ‥‥色々とあるとはいえ
その格好を見るからに
認めてやったと思っていいわけだな」
酒を飲みながら双子の祖父とサリの祖父が
同じ方向を見ながら言う
見られているトウカの祖父母は
甚平と浴衣を着ていた
「ソイツの顔を立ててやったんだ」
「あら?照れてんの?
嬉しそうに着てたくせに」
トウカの祖父はカウンターに座っている
トウカの祖母にバラされて
笑い声の中で拗ねた様に横を向く
「蜘蛛の糸が濡れたら見える様にって
一句付けて贈った事があるヤツが
いまさら何を照れてやがる」
「そうだ!アレが決め手で
嫁さんを射止めたって
嬉しそうにしてたくせによ!」
「まぁ‥‥旧暦の日付けで間違えて‥‥
このぐらいの時期に贈ったんだよね」
「あんときゃあ傑作だったな!
言われたら真っ赤になって
やり直した方がいいかなってよ!」
「ウルセェ!だから嫌やったんや!
テメェらなんかと呑むなんざ!」
色々と言われてトウカの祖父は叫んでから
酒を勢いよく呑む
「そう言うなや
それでも来たちゅう事は
そういう事なんやろ」
「フン!そっちはええとしてな
まぁ‥‥色々あったとはいえ
思い蛇が獲られそうになったんは
イケスカんのぉ」
「それに関しては申し開きもないわ
だいぶやっといたし‥‥
今回の一騎打ちがあったから
もう手は出さんやろ」
「それよ!アレは大人気なかったんとちゃうか」
ソナの祖父が頭を下げて言うと
トウカの祖父がポーの祖母を見て言った
「それこそフンってヤツさ
大人しく受けとりゃいいものを
他種族名をあんな場で渋るなんざ
聞いたこともないね」
「別によ!渋っとりゃせんかっただろが!
だだオマエさんがやりたかっただけ!
そんな風に見えたぜ!」
「まぁ‥‥あんだけやりゃあ
シンちゃんに手を出そうってヤツは
いなくなるだろさ」
「そうだな!でよ!どうだった!」
「久しぶりに掛け声かけられて
馬鹿正直に真っ直ぐに来るもんだから
本気でやってやらないとね
それこそ無粋ってもんさ」
「そうだ!気持ちよかったぜ!
獲物を持ったオマエさんに無手で挑むなんざ
俺らの世代にはいねぇよ!絶対にな!」
ポーの祖母とルカの祖父がニヤつきながら話す
「後はオマエの嫁さんにもだな
思い蛇を奪われそうになった事も
だいぶとやったって聞いたがな」
「嫁に挑む阿保がいると思うか?
アレでもかなりマシな方やで
オマエら夫婦がおってくれてホンマに助かった
誰も止めてくれんかったと思うたら
‥‥寒気が走るわ!」
「相手が悪かったと言うしかないな
まぁ‥‥止めなかったとしても
なんとかなってたかもしれんしな」
クナの祖父が思い出しながら言うと
ソナの祖父は頭をペシペシと叩きながら笑う
「で?どうだい?
お眼鏡には適ったと見ていいかな?」
「俺は文句は無いぞ!
和菓子が好きっていうのもいい!」
「思い蛇を渡しとる‥‥いや
思い蛇が懐いとる時点で文句はあらへん」
リンの祖父が問いかけると
クナの祖父、ソナの祖父は頷きながら
酒の杯を掲げる
「なんだ?オマエはどうした?」
「ホントに起きるんやろうな
コレでアカンかったとなってもうたら」
「オマエと同じようなモノを渡しとるんだ
引くに引けない思いも汲んでやれ」
「‥‥わかっとるわ
オマエらと縁が出来たら覚えとけよ!」
サリの祖父が
拗ねる様にしているトウカの祖父を促すと
トウカの祖父も酒の杯を掲げる
「ホントにいい夜だよ」
リンの祖父がそう言うと
掲げられた杯が合わさった後
中身が呑み干されて笑いが起こった
カウンター席で座敷の方で
行われている会話を聞いていたアヤノの祖母が
トウカの祖母に言う
「綺麗だよ
光に濡れる
隠れ月でしたっけね」
「そうそう
それを添えた浴衣を貰ったんよ」
「暦さえ間違えてなければ完璧だったのに」
「そういうんも良かったんよ
メチャクチャ嬉しかったんやから」
トウカの祖母がキッパリと言い切ると
カウンター席にいる皆が笑う
「アナタ達が着ているのは
シンちゃん達が着てるのと違って
赴きがあるわね」
「外で花火してる時にわかったの
綺麗な朧月が出てたわよ」
サリの母親と双子の祖母が
トウカの祖母が着ている浴衣を見ながら
さっき見た光景を思い出していた
「朧月というより移し月かね
必ず奪ってやると意気込んでるモノというより
身近なモノって感じだね」
「シンちゃんのは
奪ったんで!っていうよりも
私達のモノっていう意思表示かしらね」
「正式に蛇が囲ったんだよ
水辺ならともかく
陸でやり合おうとは私でも思わないよ」
「そうねぇ
ホントに若い頃は何回泣かされた事か
普段は何もないのに
尾の先っぽだけでも踏んだら
冗談も通じなかったものね」
ルカの祖母とクナの祖母は
昔を思い出して身震いする
リンの祖母がカウンターの中から
少なくなっているお酒を注ぎ
小鉢に入った煮物を何個か並べる
「それにしても
あのタレはやりすぎじゃないかしら?」
「シンちゃんは美味しそうに食べてたわね
あの可愛い蛇ちゃんなんかツチノコみたいに
お腹が膨らむまで食べてたし」
「測ったんでしょ?」
「美味しく食べてたって事はそういう事よ」
リンの祖母がジト目でアヤノの祖母を見ながら
さっき出していた料理の話をする
「まぁ‥‥こうなってしまったら
後はいつなるかって事になるわね」
「シンちゃんの年齢的に結構厳しそうね」
「これだけの原種に
狙われる事自体が稀すぎるのよね
色々と準備しておかないと」
「色々と初めてなんだろうけども
来年の今頃までは待って欲しいわね」
サリの祖母とウイの祖母は
廊下の先にある棚を見て話す
棚に飾ってある蠍ちゃんを模したサボテンや
ぬいぐるみ、写真を見ていたクナの祖母が
カウンターの席に座りながら話し出す
「クナが本気になってるし
来年はシンちゃんがいなくても
イケると思うけどね」
「そうは言っても見たいって気持ちがあるの」
「そうなったら
来年もアレをやるの?」
クナの祖母の素朴な疑問に
全員がポーの祖母を見る
「来年は賞状じゃなく
竹刀を持って相手してやるさ」
ポーの祖母が触角を出しながら酒を呑むと
全員がおーっと歓声を上げて
笑いながら酒を呑む
月に一度
昔を知っている者なら
丁寧な挨拶を忘れない原種達が集う店がある
予約はなかなか取れないが
幸運にも予約を取れたら
訪れた事がある客より
オススメされる事があるらしい
店を訪れたら料理を楽しむだけではなく
店内に飾ってある棚も見る事
過去に何度か訪れた客達は首を傾げる
確かに棚はあったが
おそらくは何も無かったはずだと
しかし最近では
その棚が2つに増えており
人族がレギュラーとして出て
初めて全国大会2連覇をした写真や
二つ名のぬいぐるみ、観葉植物が良い感じに
飾られているのだと言う
そういった中でも
訪れた年配客の間では
手元がブレてハッキリとは写っていないが
満面の笑みで人族の子を叩いている
伝説の蜂光の写真が飾られているのを見て
手元がブレるって
まだまだ現役だったとは
本当にお元気ですね
同じ世代で誇らしいやら
恐ろしいやらと呟いていた




