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79話 超えたいと思うのは自由だけども

バレー全国大会の閉会式が

開法学院の1番大きい体育館で行われていた


シンは入場した後に整列して待っている間

眠たそうに欠伸をしながら

頭に乗っている蠍ちゃんのぬいぐるみを

落とさない様にしながらユラユラと揺れていた


〔一同!礼!〕


前から2番目にいたシンは

周りに合わせ、言われた通りに礼をすると

頭に乗っていた蠍ちゃんのぬいぐるみが

弾んで転げながら

列の1番前にいたリンとアヤノの

5歩程前で止まって

フヨンフヨンとしていた


「拾ってよ!リン!」

「無茶言わないでくださいまし!」


小声でシンとリンが言い合っていると

シンの髪から小さな蛇がシュルンと出てきて

蠍ちゃんのハサミの部分に噛み付き

うんしょっ!とシン達の方へ引っ張った


シン、リン、開法学院のバレー部員が

小さな蛇を見守っていたが

全員が凍りついた様に止まる


さっきまで壇上にいた開法学院の校長

サリの祖父が

蠍ちゃんのぬいぐるみの横に立って

蠍ちゃんと小さな蛇を見下ろしていた


サリの祖父が蠍ちゃんのぬいぐるみを両手で

そっと持つと小さな蛇はピー!と鳴いて

ぬいぐるみの上に乗り抗議した


サリの祖父はうんうんと優しく頷いて

そのまま壇上に戻っていき

マイクの前に立つと

小さな蛇を乗せた蠍ちゃんのぬいぐるみを

ゆっくりと自分の頭に乗せた


体育館は笑いに包まれた

大きな笑い声が響く中で

顔を真っ赤にしたシンは俯きながら

前に立つリンとアヤノの背中を掴んで


「どうにかしてよ!主将でしょうが!」

「あの子も楽しそうですわね」

「シン!ほらほら!

あの子が照れながら挨拶してるよ!」


笑いながらリンとアヤノは

壇上でサリの祖父の頭にある

ぬいぐるみの上でアッチコッチの方向へ

頭をペコペコと下げる小さな蛇を指差していた


「この様な事で心を乱されるとは

とある鬼族の昔馴染みから叱責されるぞ

お主ら!なっとらん!とな

なぁ!蠍ちゃんよ」


サリの祖父は頭に乗っている

胴体に大きなリボンのついた

蠍ちゃんのぬいぐるみに同意を求めると

フヨンフヨンと動いて

頷いている様に蠍ちゃんのぬいぐるみが動く


サリの祖父が話している最中は

ずっと笑い声がどこからか聞こえてきて

誰もが話の内容を覚えていない様だった


サリの祖父は話が終わるとマイクの横に

小さな蛇が乗った蠍ちゃんのぬいぐるみを

置いて壇上を後にする


そこから何人かの偉い人が壇上に立つ度に

蠍ちゃんのぬいぐるみを頭に乗せたり

持って掲げたりしながら

祝いの言葉を贈ったり

蠍ちゃんのぬいぐるみでボケて

自分でツッコミを入れて

体育館の観客や選手から笑いを取っていた

1人の選手を除いての話だったが


〔宴もタケナワではございますが

表彰式を行いたいと思います〕


そうアナウンスが流れて

開法学院の主将であるリンと

旗を持つ役目のアヤノが壇上へと上がり

それぞれ表彰状と旗をもらい

列へと戻っていった


「ちょっと!なんで回収してこないわけ!」

「自分で行ってきなさいな」

「そうだよ!アレはシンの責任でしょ!」


壇上の上では

蠍ちゃんのぬいぐるみの尻尾に巻き付けて

顔を高く上げ

キョロキョロとしている小さな蛇が

誰かと目が合う度にペコペコと頭を下げていた


3位まで表彰されて

次はMVPの発表がされるアナウンスが流れて

壇上へスーツを着た大柄の男性が向かう


薄い色が入ったメガネをかけたスキンヘッドの

大柄な年配の男性が大股で歩き

壇上の前で礼をした後にマイクの前に立って

咳払いをしてから話し出す


「俺がここに来た経緯は

もしかすると、後で色々とややこしい話を

聞く事になるかもしれない」


落ち着いた低い声で年配の男性は話す


「だが、勘違いしないで頂きたい

俺達も大会の運営も公平な判断の上で

今大会のMVPを決めた

それだけの実力を示してくれた選手を

我々が讃えた事への賛辞だと

受け止めて欲しい」


静かな空気が生まれ

壇上にいる年配の男性がマイクの横にある

蠍ちゃんのぬいぐるみと小さな蛇を

優しそうな目で見ていたが

少し睨む様な険しい表情で体育館にいる

選手達や観客を見る


「少し物騒な言い方かもしれないが

この決定や贈られる者に文句があるなら

いつでも我々が相手になってやろう

正式な段階を踏み、承認を経て

他種族へ自分の種族名を贈るという事は

それぐらいの決定だと思って欲しい」


そこまで話すと

体育館の壁面側に座っていた

スーツを着た年配女性が立って壇上へと向かう

手には2枚の賞状を持っていた


「俺はゴーゴン族で

蛇族のまとめ役である1人だ

打ち出す球が蛇の動きだったってのは

驚きと興奮を隠せなかったんやで!

上がって来いよ!シン・フジムラ!

そして、オマエさんに2年連続で

贈りたいって奴に贈ってもらうわ!」


拍手と歓声が響き渡る中で

壇上には2枚の賞状を持った年配女性

ポーの祖母が

シンの方を見ながら

ものすごい笑顔で手招きをしていた


シンは渋々ながら歩き出し

ポーの祖母の前に立つ

シンの横には蠍族の女性が

ポーの祖母の横には綺麗な蜘蛛族の女性が

それぞれマイクを持って立っていた


「去年から1文字の二つ名だったからね

まぁ、他種族名と合わせる文字が

無かったからなんだけども

蛇の種族名を貰った事によって

やっと二つ名らしくなるね」

「別々でいいじゃない

それぞれを合わす必要なんて無いわよ」


ポーの祖母とシンが喋る前に

横に立った女性が口元にマイクを寄せる


「断るなんてできると思ってんのかい?

蛇と蠍で蛇蠍ダカツって決まったんだよ!

ありがたく受け取りな!」

「それって!それの意味って!

どういう二つ名になんのよ!」

「いいじゃないか

こういうダークヒーロー的なモノに

憧れる年頃なんだろ?中2っては?」

「誰もが憧れるわけ無いわよ!

それにそんな病が発症してる様に

見えるわけ!」

「いちいちウルサイ子だねぇ

騒ごうが喚こうが受け取って貰うよ!

それこそ物騒な話だが!無理矢理にでもね!」


ポーの祖母はそう言うと

賞状を2枚丸めて両手に1つずつ持つ


「見事に避けるか

受け止めるかを出来たら

アンタの欲しい二つ名をやるよ」

「反撃は許されんの?」

「良いねぇ

じゃあ、1発でも私に入れれたらって

条件にしてやるよ」

「覚悟!」


言うが早いかシンが両手をチョップの形にし

低い姿勢からポーの祖母に素早く飛びかかった


が!


空中でシンが止まって

ポトリと床に落ちて

頭頂部を両手で押さえてしゃがみ込む


シンの背中側の少し離れた所で

ポーの祖母が頭から生えた2本の触角を

引っ込めて、シンの方を振り返った


「まだまだだね

こんな無駄な抵抗してないで

大人しく受け取りな!蛇蠍!」

「あいぃ」


ポーの祖母は丸めていた賞状を広げ

蠍ちゃんのぬいぐるみに乗っている

小さな蛇に賞状を咥えさせてから

ぬいぐるみをシンの頭の上に乗せた


「伝説の蜂光の容赦ない祝福の2撃を受け」

「伝説の蜂光のガチで大人気ない2発を受け!」

「「蛇蠍ちゃんが爆誕です!」」


マイクを持っていた綺麗な蜘蛛族の女性と

マイクを持っていた蠍族の女性が

声を合わせて叫ぶと

体育館は笑い声と拍手と歓声が響く


頭を痛そうにして

うずくまっているシンに

スキンヘッドの大柄な年配男性が

心配そうにではあるが

笑いながら声を掛けていた


「まぁ‥‥その‥‥大丈夫かいな」

「手を出す相手には

いつでも相手になるって言ってた」


シンが涙目で言うと

スキンヘッドの大柄な年配男性は

キョトンとした顔になり

途端に肩を動かしながら大きく笑った


「阿保な事言うなや!

獲物持ったアイツに真っ直ぐに挑もうなんて

普通は考える事すらせんわ!

命知らずな蛇蠍以外わな!」

「誰が阿保で命知らずよ!」


シンが叫ぶと頭に乗っている小さな蛇は

次こそは!と言った感じでピーー!と鳴く

その拍子に小さな蛇が咥えていた

折り目がついた賞状が床に2枚落ちていった



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