104話 慈悲と罰
生きた心地がまったくしなかった
「あの‥‥シン‥‥本当にごめんなさい」
「何度でも謝るし、なんでもする」
「嫌や!違った!嫌わないで!シン!」
シンは店のカウンターで
アヤノの祖父が焼いた肉や
アヤノの祖母が仕上げた煮物を
髪から出ているマンジュや蛇達と食べながら
座敷で正座をしているアヤノ、サリ、クナの
命乞いを背中で聞いていた
マンジュや蛇達は
メッチャ美味しいやん!と
最初は騒いでいたけど
今は無言で争うように肉を食べている
シンは恒例のタスキを掛けており
背中の見える部分には
やったね!出場停止処分!と書かれていた
「ねぇ‥‥私って悪い事したの?」
シンが箸を止めて
ゆっくりと息を吐きながら聞く
アヤノ、サリ、クナが
何も答えられずにいると
3人の後ろから楽しそうな声が響いてくる
「そうよね
コレを強くするならこうした方が?」
「違うの!テープでグルグルにするの!」
「鉄板を挟んだ方がアツいわ」
「いっその事
全部そうした方がええんとちゃう?」
「魔術を無効化するようにしないと」
「そうよね
防御されると面白くないものね」
3人の母親プラスαが
ほろ酔いで本当に楽しそうに
ハリセンを魔改造していた
「そこらへんにしとくんだね」
「えっ?いや、でも
全開で殴らないと意味ないよ」
「そんなに力を込めたら気絶するだけよ
罰を与えるなら、そう、そのぐらいでいいの」
「そうですわよね
確かに気絶させてしまったら
長く痛みを味わえませんものね」
「アツく長く」
「このぐらいなの」
「もうちょっとなの?」
「そんなもんとちゃう」
「後は試しながらやってみんと」
3人に聞こえるようにして
楽しい拷問講座が微笑ましく開かれていた
「まぁ‥‥後輩には甘いって言われてるから」
「シン!後輩!ハイ!私!後輩です!」
シンが話している最中に
クナは立ち上がってシンの背中に抱きつき
必死にアピールする
抱きつかれた衝撃で
カウンターに置いていた小皿から
タレが鉄板にこぼれてジュッと音を立てる
「そうよね
クナは後輩だもんね」
「ハイ!ハイ!後輩です!
だからシン!お願いです!許して!」
「何を言ってんの?
私はクナの先輩で、群れのボスよね」
「え‥‥うん、ボスって
初めて言ってくれた」
尻尾をパタパタと振りながら
シンに抱きついていたクナは
ボスと言うシンに戸惑ってしまい
尻尾が止まり、パタンと床に落ちる
シンの髪から出ているマンジュや蛇達は
鉄板で焦がされて蒸発していくタレを
ジッと見ていた
「別に許すも何もないわよ
私はクナの先輩でボスなのよ
それに怒ってるとかはないもの」
「本当ですか!それなら!」
クナの床に垂れていた尻尾がピンと立って
ブンブンと振られ始める様子を
アヤノとサリは残念な子を見るように見ていた
「そう‥‥なら先輩として、ボスとして
罰はしっかりと与えないとね」
「え?‥‥でも!今」
「クナは私と違って良い子だから
マンジュ達がお気に入りのタレをこぼした事の
罰も足してあげるわね」
「あの‥‥コッチを向いて欲しいです」
マンジュと蛇達がピィ!シャ!と怒りながら
クナを睨んでいる
シンは話している時に
ずっとクナを見ていなかった
「何をされるかは聞いてないけど
クナのお姉ちゃん達が任しておいてって
今日だけで済むらしいからね
バイバイ悪い子のクナちゃん」
「そんなんイヤや!
ねぇちゃん達は遠慮ないもん!
離れへんもん!シンから離れっ‥へぁ?」
シンに別れを告げられ
周りから引き剥がすように体を掴まれたクナは
最後の抵抗のようにシンにしがみつくが
一瞬力が抜けた隙にシンから引き剥がされる
「スゴイでしょ
マンジュも弱いけど使えるようになったのよ」
クナの頭に噛みついていた
マンジュがどうだ!と言わんばかりに
シンの頭の上でピィ!と鳴いていた
すぐに力を取り戻し
喋り方が変わったクナは暴れるが
クナの母親を含めた数人に
掴まれて店の奥へと連れて行かれた
なんで!なんで!ねぇちゃん達が来んの!
この為だけに来てやったんや!
悪い子は良い子になる為にお仕置きや!
堪忍や!シン!お願いやから!たっギャン!
そんな声が遠ざかっていき
店の中は静かになる
アヤノとサリは油断していなかった
大半はクナと共に店の奥の家側に行ったのに
リンとポーが2人の後ろで
4本の分厚い重厚なハリセンの前に座り
静かに魔術を練っていたからだ
過程も結果も変わらない
なら、せめて酷くならないように
情に訴えかけて慈悲を引き出す様に話す
もし、慈悲を掛けて貰えない場合は‥‥
アヤノとサリはゴクっと唾を飲み込む
カッコ悪くてもいい!
あれの全力だけは絶対に嫌!
そう思って、シンを見ると
2人の方を向いて微笑んでいた
見える様になった胸側のタスキには
ルールは破るが約束は守るぜぇい!
蛇蠍ちゃん!と書かれている
「慈悲は与えたのよね
エルとヒルのおじいちゃんから聞いてない?
私の言った通りとか何とか?
あの時、一応なんだけど、条件を出したのよ
試合会場に入れる為の条件をね」
シンが喋り出した内容に
アヤノとサリは喋れなくなっていた
「後輩の事を気にせずに
私の事だけ気にする発言とかするんじゃない
そうだったとしても
鬼族の子とかエルフの子とか呼ぶって言っても
2回戦中ずっと粘るんだったら
3回戦の相手は厳しいから
許してもいいんじゃないってね」
双子の祖父は
少し甘いと思ったが
ヒントがないとイカンと思ってのぅと
呟いて酒を呑んでいた
「もしだけど、もしだったんだけど
粘らない様だったら好きにしていいって
そう聞かれたから
いいよって答えちゃったのよ
クナは後輩だったから庇ったけどさ
流石にコレは庇いきれなかったのよ」
アヤノとサリは
笑顔で怒り狂ってるシンを見て
プルプルと震え何も言えなかった
長い付き合いだからこそ
あんな事があったとしても
最大限に庇ってあげたのにさ
今また慈悲に縋ろうとしていない?と
言外で語りかけていた
「罰の内容が酷すぎると思ったけどさ
2人とも頑張ってね
私は試合を頑張ったらね
色々と初めての事だったらしいし
色んな方面に謝りまくったから
試合自体は無効にならなかったけど
公式戦2試合出場停止処分になったから
次に出れたとしても決勝なのよね
ホントにガチでムカついてんの!」
シンが言い切ると
周りからおぉ〜と声が上がる
「ちなみにリンとポーもだけど
アヤノとサリのお父さんとお母さん
おじいちゃんとおばあちゃんが
好きにしていい?って
聞いてきたメンバーだから」
カウンターの中でアヤノの祖父が
ウイの祖父にコテを渡して交代し
アヤノの祖母も双子の祖母と交代していた
「未熟ではありますが
こっからの焼きは任せてください」
「味が落ちないように
頑張らしてもらうの」
ウイの祖父と双子の祖母が挨拶すると
アヤノとサリ以外が拍手して
落ちたら文句を言わしてもらうよとか
私も手伝ってあげるから安心してとかの
声が上がる
「さってと!行こうよ!
アヤノ、サリ」
「今まで構ってあげれなかった分も含めて
タップリと可愛がってあげますわ」
アヤノとサリは
ポーとリン、2人の家族に促されて
無言で外へと出て行った
その後
1時間弱して戻ってきた3人は
座れない程に腫れ上がったお尻を気にしながら
シンに抱きついて泣きじゃくっていた




