試合直前
オレがアヤと話しをしていると、ヒロがこちらをチラチラと見てきた。
それが紹介をしろという合図だと気づいたオレは、ヒロにアヤを紹介した。
「こちらは、小早川アヤ。オレの中学時代からの友だち。
そして、こちらは松村ヒロ。オレと同じ高校の友だち。」
「はじめまして。松村ヒロです。ヒロって呼んでください。」
いつもの調子でヒロが話し始めたところで、エレベーターは七階に着き、オレとヒロはアヤと一緒にエレベータから降りて、A競技室に向かった。
「アヤちゃんは、KAZはやっていないんですか?」
ヒロは、ちゃっかりと初対面のアヤに対し、もう「ちゃん」付けで話しかけている。
「私は、中学からずっと陸上をやっていて、KAZはやっていないんです。その代わりに、私の兄は小さい頃から、KAZ一筋ですから。
ハヤタ、私のお兄ちゃんは強いわよ。それにしても、ハヤタ、あなたKAZなんてやっていたっけ?」
「いや、少し訳あって、三ヶ月くらい前に始めたばかりなんだ。」
「驚いたわ。前からハヤタが運動神経が良いのは知っていたけど、始めてたったの三ヶ月でこの大会に参加しているなんて。しかも、私のお兄ちゃんと対戦って、いったいどうなっているの?」
「まあ、色々とあってね。詳しいことは、また時間のある時に話すよ。」
A競技室前に着いたので、オレは、いったん話を終わらせた。
「じゃあ、またあとで。」
競技室に入ると、オレは、アヤにそう声をかけ、アヤとヒロを観覧席に残して、向かって左側にある競技スペースに向かった。
オレは、そこで用意してきた上下黒色の競技用スーツに着替え、持ってきた黒革製のケースから取り出したゴーグルとヘッドセットを装着した。
準々決勝から登場するシード選手は、オレを含めて四名で、対戦相手であるアヤの兄は、今回はシードされていなかった。
そのため、アヤの兄の方が挑戦者サイドである向かって右側の競技スペースを使うことになる。
オレは、準備をしながら、アヤの兄である「小早川ケン」について事前に頭に入れていたデータを整理していた。
小早川ケンは、大学二回生で二十歳。
アヤの兄だけあって、美形のイケメンだ。
身長は一七五センチメートルと一七八センチメートルのオレよりも少し低いが、筋肉質でオレよりも一回り図体がでかい。
アヤも言っていたように、小学校に入る前からKAZをやっていたようで、これまでに多くの大会で好成績をおさめており、現在、国内の大学生の部ではトップにランクされている。
それでも本大会でシードされなかったのは、世界大会での成績がベスト八止まりだったからであろう。
これに対して、綾瀬ミカは、高校生の部とはいえ、世界チャンピオンなので、本来ならシードされることになっていた。今は、オレがそのシードの立場を引き継いでしまっているわけだが……。
動画で何試合かを観た限りでは、小早川ケンはそれほど動きが速いわけではない。
しかし、かなりの技巧派で、かつパワーを感じる。
得意な武器は棒で、棒術はかなり巧みだ。
まず防御が固い。
また、攻撃では、現実の動きを数倍速の速さに変換できるスキルによってスピード不足を補い、持ち前のパワーを攻撃が相手にヒットする瞬間にその打撃力を倍増させるスキルによって増強させている。
綾瀬ミカと対戦したときとは違って、今回は、短期間に十名分の研究をしなければならなかったため、どうしても一人一人にかけられる時間が限られていた。
したがって、各人については、こういったざっくりとした分析しかできていなかった。
そして、最低限決めることができていたのは、対戦するときに使用する武器ぐらいであった。
本来なら、相手が誰であれ、この前のミカとの対戦で使用して使い勝手が多少は分かった剣を選びたいところであったが、小早川ケンが相手の場合には、どう考えても、それでは巧みな棒術をかいくぐって攻撃することはできそうになかった。
そこで、小早川ケンと対戦する場合には、自分も同じように棒を使用することに決めていた。
持ち前のスピードで棒術による固い防御を破らないことには勝機は訪れないが、棒よりも短い剣では、それは難しいように思われた。
さりとて、長さは変わらずとも、その動きをさばくのが難しい槍では、自分のスピードを生かすことができない。
そこで、同じ棒で相手のスピードを上回る攻撃をしかける以外に勝つことはできないと考えたわけだ。
そうこうしているうちに、試合開始時刻が間近に迫っていた。




