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小早川アヤ

 アヤもすぐにオレに気づき、話しかけてきた。

「ハヤタ、久しぶり。元気してた?」


「ああ。それで、どうしてお前がここにいるんだよ。」

 オレは、アヤが格闘技に興味があるとは知らなかったので、聞いてみた。


「何言っているの。ハヤタの対戦相手は、私のお兄ちゃんだよ。覚えてないの。」

 アヤが、少しあきれたように言った。


(どこかで聞いた覚えがあると思ったら、アヤの兄さんだったのか。)

 そういえば前に、アヤから、アヤの兄が何か格闘技をしているようなことを聞いた覚えがあったが、オレは全く興味がなかったので、覚えていないなかった。

 それに、オレは、アヤの兄には一度も会ったことがない。



 オレがアヤと出会ったのは、中学二年の新学期が始まる前だった。

 オレは、中学一年の春休みに、育ての親の元から実の母親である『ユイ』さんの住居への引っ越しで、西京都の北にある第二ブロックから、南にある第四ブロックに移ったのに伴い、中学校も転校することになった。


 引っ越す前に転校手続きは済ませてあったようだが、中学二年生の新学期が始まる三日前に、オレは学校に来るよう呼び出しを受けた。


 新しく通うことになる中学は、新しい住居からは歩いて十分ほどの距離にあった。

 まだ、新しい中学の制服が届いていなかったので、オレは前の中学の制服を着て、学校に向かった。


 学校に着くと、春休みなので人は少ないだろうと思っていたが、野球、サッカーをはじめとした様々な運動部員がグランドを行き交い、体育館や校舎の中からも、人の声や楽器の音などが聞こえてきた。


 オレが事務室のあると思われる校舎の方に向かって歩いていたとき、突然左斜め前方から走ってきた女子生徒が体当たりをしてきた。

 オレは、グランドでシュート練習をしていたサッカー部員らを見ながら歩いていたため、その女子生徒に気付くのが遅れ、避けきれずにその女子生徒ともども転倒してしまった。


「痛てて-。ごめんなさい!大丈夫?」

 その女子生徒は、第一声、大きな声で素直に謝ってきた。


 オレとしては、文句の一つも言いたかったが、素直に謝られると、そういうわけにもいかなかった。

「オレは大丈夫。そっちこそ大丈夫か?」

 オレは、少し格好をつけて答えるしかなかった。


 そのあとオレは、約束の時間に事務室に到着した。

 事務室では、転校後の各種手続きを専用の端末を使って行った。

 そして、手続きを済ませたオレは、さっさと帰宅することにした。


 事務室を出ると、そこには先ほどオレに体当たりしてきた女子生徒が立っていた。


「さっきは、ごめんね。本当に大丈夫だった?」

 その女子生徒が、すまなさそうな顔をして聞いてきた。


「もしかしたら、わざわざそのために、待っててくれたの?」

 オレが聞くと、その女子生徒は小さく頷いた。


「ありがとう、大丈夫だよ。オレは、二年からこの学校に転校してきた姫野ハヤタ。君は?」

 オレは、わざわざ心配して待ってくれていた女の子に対して無碍な態度を取るわけにもいかず、とりあえず自己紹介をした。


「私は、二年B組の小早川アヤ。アヤでいいよ。それで、姫野くんは何組?」


「オレも、ハヤタでいいよ。オレもB組。」


「じゃあ、私たちクラスメイトだね。これからも、よろしく。」


 アヤは、オレより少し小柄だが、筋肉質な引き締まった体型をしていた。

 短めのショートカットで、少し日焼けした顔に大きな目が印象的だ。

 ボーイッシュということばがぴったりと当てはまる。

 もし男子だとしたら、その整った顔立ちはかなりの美少年に分類されるだろう。


「こちらこそ、よろしく。」


「私は、陸上部に入っていて、これから練習なんだ。ハヤタは、部活はしないの?」


「まだ、転校してきたばかりだから、これからゆっくりと考えるよ。」


 この出会いがきっかけで、オレはアヤと仲良くなった。

 といっても、顔を合わせば話しをするぐらいで、付き合うとかそういったことはなかった。


 中学三年に進学しても、アヤとは同じクラスになったので、オレにとってアヤは、クラスメイトの中でも比較的よく話しをする仲の良い友だちといったところだった。


 そして、それはアヤにしても同じことだと思っていた。


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