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二回目のデート

 それから一週間後、オレは、綾瀬ミカと二回目のデートをしていた。


 オレたちは、先週と同じように水族館の前で待ち合わせてから、水族館横の公園を少し散歩し、そのあと西ブロックに移動し、大型のショッピングセンターの入った複合施設に向かった。


 この日は、朝から少し曇っていたが、雨が降りそうな気配はなかった。

 ただ、少し蒸し暑く、空調の効いた複合施設に入ると、少しにじみ出していた汗が一気に引いた。

 オレはヒロと初めてナンパをしたときに入った少しレトロ調の落ち着いた雰囲気のカフェにミカを誘った。


 店に入ると、今日もちょうどいい音量のクラシック音楽が流れていた。

 オレとミカは、四人がけのソファー席を贅沢に使うことにして、向かい合って座った。


 水やおしぼりを運んできたウェイター型のアーマロイドに対し、オレはコーヒーを注文し、ミカはミルクティーを注文した。

 アーマロイドは、注文の確認をすることもなく、厨房の方へと戻って行った。

 これを見送りながら、ミカが聞いてきた。


「いい雰囲気のお店ね。よく来るの?」


「いや。何度か友だちと来たことがあるくらいだよ。あまり西ブロックに来る用事なんてないから。」

 初めてのナンパで使った店であることや、その後も何度かナンパで使ったことがあるなどといったことは、口が裂けてもミカには言えない。


「そうよね。西ブロックは、女子校の集中エリアだもんね。でも、ナンパ目当ての男子校の子がいつも沢山来ているって聞くよ。私は、KAZの練習が忙しくて、ほとんどこういうところには出入りしないけどね。」


 オレは、ミカのその言葉を聞きながら、この店はもちろんのこと、そもそも西ブロックに来たことを少し後悔し始めていた。

 オレは、ヒロと違って、洒落たお店を探すなどという芸当が得意ではないため、ついつい女の子たちに評判が良く、勝手を知ったこの店に来てしまったのだが、考えてみれば、西ブロックに来ること自体が相当にやばいことだった。


 そして、その予感は的中した。


 オレがミカと話していると、店の入口から女の子の二人連れが入ってきた。そして、そのうちの一人は、オレがヒロとの初めてのナンパでお友だちになったサキちゃんだった。

 こういう事態になることをおそれていたオレは、店に客が入ったくるたび、つい入口の方に目をやっていた。そのため、入ってきたサキちゃんと、まともに目が合ってしまった。


 サキちゃんは、オレを認めると、嬉しそうにオレたちが座っている席に歩み寄り、声をかけてきた。

「ハヤタくん、久しぶり!今日は女の子と一緒なのね。」


 オレは、できるだけ冷静を装いながら、淡々とした口調で答えた。

「やあ、久しぶり。今日は、お友達と一緒に買い物?」


「そうなのよ。これは友だちのヨーコ。ほら、ヨーコ、これが話していたハヤタくんだよ。」

 サキちゃんは、わざわざ連れの女の子をオレに紹介した。


 こうなれば、オレもミカを紹介しないわけにはいかない。紹介しないと、かえって不自然になってしまう。

「ヨーコちゃん、はじめまして。姫野ハヤタです。そして、こちらは、KAZの高校生チャンピオンの綾瀬ミカさん。」

 オレは、とっさに一番無難な紹介の仕方を選んだ。


「はじめまして。」

 ミカは、見るからに、ぶすっとした表情をしながらも、最低限の挨拶だけはしてくれた。


 さて、どうしたものか。ここで変に会話を始めてしまうと収拾がつかなくおそれがある。

(沈黙は金。)

 オレは、ここは余計なことは言わずに黙っていることにした。

 すると、これが功を奏した。


 少しの沈黙のあと、サキちゃんがその場の空気を読んで、気を利かせてくれた。

「じゃあ、私たちは、邪魔をしたら悪いから、あっちに行くね。」

 サキちゃんは、連れのヨーコちゃんと一緒に、カウンター席の方に戻り、カウンター席の中央辺りに二人並んで座った。


 オレは、これで最悪の事態だけは避けられたと、ほんの少しだけ安心した。しかし、その考えは、甘かったようだ。

 そのあとも無言のままだったミカが口を開いた。

「私、帰る。」


「ちょっと、待ってよ。何か誤解してるんじゃない?さっきの子は、単なる友だちだよ。」


「別に誤解なんかしてないわよ。サキちゃんがハヤタくんの彼女だったとしても私には何の関係もないですから。」


「だから、違うって言ってるじやないか。」


「何が違うのよ。」


「本当に、誤解だって。サキちゃんは、何人かいる女友だちのうちの一人だから。」


「あら、何人かって、女友だちが何人もいらっしゃるってこと?」

 ミカが嫌みったらしく言ったのを聞いて、オレはしまったと思ったが、時既に遅しだった。こうなったら、正直に話すほかない。


「ああ、九人ぐらいはいるかな。」

 オレは、できるだけミカを刺激しないように、淡々と答えた。


「九人も!へえっ、オモテになるのね。それじゃあ、私なんかと付き合う必要ないじゃないの。」

 ミカは、完全に頭にきている様子で、これ以上は聞く耳を持ってくれそうになかった。


 それでも、オレは、あきらめずに話しを続けた。

「きみだって、KAZ仲間の中には、男の子もいるだろう。それと同じだよ。」


「残念でした。私のKAZ仲間は女の子だけです。そもそも、私に勝てる男の子は周りにはいないので、誰も近寄ってきません。」


 オレは、言葉に詰まってしまった。

 確かに、高校生チャンピオンのうえに、美人なミカに、そう簡単に言い寄ってくる男はいないだろう。オレみたいな男を除けば……。



 気がつくと、サキちゃんたちはいなくなっていた。

 オレとミカが言い合っているのをみて、これに巻き込まれないように退散したのだろう。


 ヒロには悪いが、オレはヒロを悪者にして、なんとかこの場をしのぎにかかった。

「見てみなよ。サキちゃんたちはもう帰っちゃったよ。もし、サキちゃんがオレの彼女だとしたら、オレときみが二人っきりでいるのを見て、何も言わずに帰ってしまうなんてことないんじゃないか。」


「……。」


 ミカが、何も言い返してこなかったので、オレは続けた。

「そもそも、さっき話した女友だちは、みんなヒロのために作ったようなものなんだ。」


「ヒロって?」


 ミカが、話しに乗ってきてくれたので、これ幸いと、オレは話しを続けた。

「ほら、ミカも、前に一度会ったことがあるだろう。オレの師匠である松村ミツキさんの弟。ヒロは、オレが高校に入ってからの友だちで、現在、彼女を募集しているんだよ。」


「友だちの彼女募集と、ハヤタくんの女友だちと何の関係があるのよ。」


 ミカの質問はもっともであったが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 オレは、多少強引であることは承知のうえで、作り話を始めた。

「ヒロは引っ込み思案で、女の子と話すのが苦手なんだよ。それなのに、彼女を作るためにナンパをしたいっていうから、オレが仕方なく手伝ってるってわけ。」


 ミカは、まだ怒ったままで、しかも怪訝そうな顔つきで聞いているが、オレはかまわず、話しを続けた。

「それで、ナンパしたときに知り合った女の子とは友だちになるので、自然と女友だちが増えただけ。誰とも付き合ったりはしていない。だって、そもそも彼女を募集しているのはヒロであって、オレは特に募集はしていないから。」


 心の中でヒロに手を合わせて誤りながら、オレは、苦しい作り話を続けた。

「もし、オレが付き合う相手を探してナンパをしているなら、きみにだってあんな勝負を挑んだりせずに、素直にナンパしているさ。」


「じゃあ、私は、ハヤタくんにとって何なの?女友だちの一人?それとも、ほかの女友だちとは何か違うの?」

 ミカが、ストレートに聞いてきた。


「違うよ。ほかの女友だちとは全然違うんだ。上手く表現できないんだけど、これだけは分かって欲しい。」

 ここで、ミカのことだけが『好き』だと言えば話しが早いことは分かっていたが、オレは、不用意に『好き』という言葉を使いたくはなかった。


 何故かミカに対する気持ちについては、嘘をつきたくはなかったのだ。

 まだ、ミカのことを『好き』なのかどうなのか、オレは自分自身でも分からないでいる……。

 こうした、オレの苦悩がミカに通じたからかなのかどうかは分からないが、ミカは、少しだけ表情を和らげた。


「ハヤタくんのことを完全に信じたわけではないけど、今日はこのへんで許しておいてあげるわ。」


「ありがとう。嬉しいよ。」


「その代わりと言ってはなんだけど、私がハヤタくんにとって、ほかの女友だちとは全然違うというのであれば、その証拠を見せて。一つだけ、私のリクエストを聞いてくれる?」


「リクエストって?オレは、何をすればいいの?」

 少し嫌な予感がしたが、聞かないわけにはいかなかった。


「簡単なことよ。来月あるKAZの大会に参加して、私のために闘って。」

 ミカは、ちっとも簡単ではないことをリクエストしてきた。


 しかし、オレには、このミカのリクエストを断るという選択肢はないようだった。

 オレは、もう二度とKAZをすることはないと思っていたのだが、ミカのリクエストに応じて、大会に参加する覚悟を決めた。


「分かった。エントリーすればいいんだね。」


「そうよ。じゃあエントリー手続きは私がしておくから。」

 ミカが嬉しそうな表情で言った。


「それじゃあ、許してもらったついでに、このあと一緒に晩ご飯を食べに行ってくれるかな?」


「そうね。なんか急にお腹すいてきちゃった。」

 オレが、食事に誘うと、ミカは完全に笑顔を取り戻して、これに応じてくれた。


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