デート
それから数日後、オレは、綾瀬ミカとデートをしていた。
ミカは、勝負が終わったあと、すぐにオレのところに来ると、無表情に「約束は守るから。」とだけ言って先に帰ってしまった。
オレは、帰宅してから、メッセージアプリを使って、ミカにメッセージを送った。
(無理はしなくていいけど、もし君が良ければ、今度2人で会えないかな?)
しばらくして、ミカからの返信がオレの腕時計型の端末に届いたが、今度は、前とは違って女の子らしいものだった。
(いいよ。約束は、約束だから。それに別に無理なんてしていないよ。)
このやりとりのあと、ハヤタは、ミカとデートの約束をした。
待ち合わせは、13時に西京都水族館前にした。
ハヤタが5分前に待ち合わせ場所に着くと、既にミカが待っていた。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、まだ約束の5分前だし、私が早く来すぎただけだから。」
ミカは、小さく左右に首を振りながら答えた。
前日の夜。
ミカは、シャワーを浴びたあと、自宅のリビングで髪の毛をドライヤーで乾かしながら、母親に話しかけた。
「お母さん、私、明日は昼頃から出掛けて、晩ご飯は外で食べてくるかもしれない。」
「あら、明日もKAZ本部道場に行くの?」
「ううん、明日は練習には行かない。ちょっと別の用事があって。」
「まあ、珍しいわね。あなたがKAZ以外の用事ででかけるなんて。もしかして、彼氏でもできたの?」
母親が、少し茶化すように聞いてきた。
「そんなんじゃないわよ。この前、生意気な男とKAZの勝負をして、負けたらデートするって約束をしたから、それを守るだけよ。」
「へえ、やっぱりデートなんじゃないの。それにしても、その男の子はあなたに勝ったんだ。随分強い人なのね。有名な人?」
「別に有名なんかじゃない。……。」
ミカは、まさか自分が負けたのが、KAZを始めて二か月少しの相手だったとは言えなかった。
「まあ、あなたは、物心ついた頃からKAZを始めて、それからずっとKAZづけの毎日を送ってきたんだから、たまにはいいんじゃないの。でも、考えてみれば、あなた、男の子と二人きりでデートをするのはこれが初めてなんじゃない。今度また、お母さんにも紹介してね、その強い男の子。」
「だから、そんなんじゃないって言ってるのに……。」
ミカは、母親に抗議するかのように言った。
そのあと、ミカは、KAZの試合の動画を観るなどしていたが、目が冴えて眠れず、気がつくと、外が白み始めていた。
ミカは、何度も寝ようと試みたが、結局少しウトウトとできた程度で、午前七時にはあきらめて、ベッドから起き上がった。
窓を開けると、空には雲1つなく、昨夜の天気予報のとおり、今日は快晴になりそうだ。
ミカは、それから時間をかけて出掛ける支度をしたものの午前十一時までには支度が終わり、それからは自宅にいても落ち着かなかったため、早めに出掛けることにした。
待ち合わせの時間までは二時間近くあったので、ブックセンターで時間を潰すなどしたが、それでも待ち合わせ場所には約束の三十分前に着いていた。
(どうして、待ち遠しい時間は、なかなかやってこないのかしら。)
ハヤタは、まさかミカがそのような思いで待っていたとは気がつかず、ミカの返事を軽く受け流してしまった。
「そう。じゃあ行こうか。」
そう言うと、ハヤタは、1人で水族館のゲートに向かって歩き出した。
慌てて、ミカがあとに続いた。




