特訓
そして、六連休の初日、オレはミツキさんと待ち合わせをした北ブロックのモノレールの駅に、待ち合わせ時間の十分前である五時五十分に着いた。
もう既に明るくなっていて、青空が広がっている。
オレは、どんな服装で行けばよいのかを事前に聞いておくのを忘れていたため、とりあえず、上下、黒のトレーニングウエアを着てきた。
まだ朝は、少し肌寒いので、この服装でちょうど良いぐらいだ。
五分ほど待つと、ミツキさんがやって来た。
「師匠、おはようございます。」
「おはよう。じゃあ、行くわよ。付いてきて。」
オレが挨拶をすると、ミツキさんは朝が弱いのか、眠たそうな顔をして言った。
ミツキさんが向かった先は、政府の管理している総合運動施設だった。
入口のゲートで係員にIDカードを見せると、ミツキさんはオレを手招きして、一緒に施設の中に入り、いくつかある建物のうちの体育館と思われる建物に向かって歩き始めた。
オレは、歩きながら、ミツキさんに尋ねた。
「師匠、ここって政府の施設ですよね。オレなんかが使ってもいいんですか?」
「東ブロックの役所で、私が職員研修を担当しているというのをヒロから聞いていないかな。その研修で時々使わせてもらっているのよ。今回は、さすがに研修というわけにはいかないので、役所内のクラブの練習ということで使用許可を取ってあるわ。」
ミツキさんが事も無げに答えた。
体育館に着くと、その中の道場に行った。誰もいない道場は、室内とはいえ、ヒンヤリとしている。
その道場横のロッカールームで、オレはミツキさんから言われるがままに、道着に着替え、道場に出た。
そこには、いつの間にか、道着に着替えたミツキさんが立っていた。
道着の腰に巻かれた帯は、黒帯だ。
これから何の武術をするのかは分からないが、どうやらミツキさんは、その武術の有段者らしい。
「さてと、用意はできたようね。ハヤタ、これから、あなたに空手の基本を教えるわ。」
それから、外が暗くなるまで、オレはミツキさんから空手の基本をレクチャーしてもらった。
基本動作である突き、蹴り、受けにはじまり、簡単な型も教えられた。
その中でも基本中の基本である正拳突き、手刀、金的蹴り、前蹴り、横蹴り、各種の受けについては、何度も何度も反復してやるよう命じられた。
全身から汗が噴き出し、道着が汗でべちゃべちゃになる。
途中、休憩は、お昼におにぎりを二個食べた時間のみであった。
気温も初夏並みにまで上昇し、なまっていた身体にはかなりこたえた。
(こりゃ、ヒロの言っていたとおりのスパルタ式だな。)
オレは、黙々とミツキさんに言われるがままに動作を反復した。
そして、この日のレクチャーの最後は、ミツキさんとの組み手だった。
「寸止めと言って、攻撃は相手の身体の直前で止めて、絶対に相手の身体には当てないこと、いいわね。」
ミツキさんは、それだけ言うと、容赦なくオレに攻撃をしかけてきた。
相手の身体には絶対当てるなと自分から言っておきながら、オレがきちんと受けないと、ミツキさんの突きや蹴りがオレの身体に容赦なく当たり、激痛が走る。
オレは、はじめは受けるだけで精一杯であったが、そのうちに身体が自然と動くようになり、次第にミツキさんの攻撃を受けるだけではなく、ミツキさんに対して攻撃を加える余裕も出てきた。
さすがに、オレの攻撃がミツキさんの身体に当たることは一度もなかったが……。
こうして、組み手が終わったときには、オレの身体は痣だらけになっていた。しかも汗だくになっている。
ミツキさんはというと、ほとんど汗すらかいていない。おそらく、無駄な動きをしていないのだろう。
「ハヤタ、あなた、なかなかやるじゃない。ヒロから運動神経がいいとは聞いていたけど、ここまでやるとは思わなかったわ。一日で、ここまでできるようになるなんて、驚異的よ。最後の組み手なんて、私もついつい本気になってしまったわ。」
多くの痣の代償に、ミツキさんから、お褒めの言葉をいただいた。
レクチャー二日目は、同じ体育館のボクシング場で、ボクシングの基本をレクチャーしてもらった。
この日のボクシング場は、かなり暑く、むせるような汗の匂いが充満していた。
ジャブ、ストレート、フック、アッパー、各種の防禦にフットワーク。
そんなボクシング場の中で、昨日と同じように、基本動作を反復してやるよう命じられ、身体にたたき込まれた。
そして、最後は、ミツキさんとの三分間三ラウンドのスパーリングを行った。
この二日間のレクチャーで、オレは武術系の動作についての感覚が何となく身についてきたような気がしていた。
その成果もあってか、スパーリングの最終ラウンドでは、一発だけオレの右ストレートが、ヘッドギア越しにミツキさんの顔面をヒットした。
その代わりに、昨日と同様、ミツキさんの攻撃をオレは数え切れないくらい身体に受けていたが……。
「ハヤタ、あなた本当にすごいわ。人間の能力を超えているわ。まさにグレイトね!まさか、この私が素人のあなたにから一発でもくらうなんて、あり得ない。」
額から流れる汗を拭いながら、ミツキさんは、驚きが隠せない様子で唸った。
こうして、ミツキさんによるレクチャーは続き、三日目は剣道、四日目は棒術と、それまでと同じように、これらの基本を徹底的にたたき込まれた。
当然の結果として、オレの身体には、数え切れないくらいの痣と痛みが残ることとなった。




