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白の向こう側にある世界  作者: 吉田 みゆな
29/30

選ばされるもの

「……来てるな」


誠が低く呟く。


「ああ」


頭の奥がざわつく。


さっきよりも強い。


近い。


「……圭太」


「分かってる」


もう逃げられない。


「……行く」


そう言った瞬間。


視界が歪む。



気づけば――


白だった。


「……」


だが、違う。


「……増えてる」


白の中に、“色”が混ざっている。


ぼんやりとした影。


断片。


景色の欠片。


「……」


これは――


「記憶か」


その時。


「来たんだね」


声がする。


振り向く。


「……高梨」


そこにいた。


「前より深いところだよ」

静かに言う。


「……ああ」


俺は周囲を見る。


「……増えてるな」


「うん」

頷く。


「思い出した分だけ、ここは変わる」


「……」


つまり――


「現実も変わるってことか」


「そう」


はっきりと言われる。


「……くそ」


分かってはいた。


だが、改めて言われると重い。



「……なあ」


俺は高梨を見る。


「止める方法はないのか」


「あるよ」


「……!」


思わず一歩踏み出す。


「……教えろ」


「簡単」


高梨は言う。


「思い出さなければいい」


「……」


予想通りの答え。


「……それ以外は」


「ない」


即答だった。


「……」


歯を食いしばる。



『……けい……た……』


また声が響く。


今度ははっきりと。


「……あいつか」


白の奥。


「……行くの?」


高梨が聞く。


「……」


答えは決まっている。


「……行く」


「……そう」


少しだけ目を伏せる。



「でもね」


高梨が言う。


「次は“選ぶことになる”」


「……?」


「もうランダムじゃない」


「……どういう意味だ」


「今までは“勝手に消えてた”」


一歩近づく。


「でも次からは違う」


「……」


嫌な予感がする。


「“何を残すか”を選ぶことになる」


「……っ」


言葉が詰まる。


「……ふざけんな」


思わず吐き捨てる。


「そんなの選べるかよ」


「選びたくなくても選ばされる」


淡々と言う。


「それがこの段階」


「……」


拳を握る。



『……けい……た……』


また呼ばれる。


今度は、はっきりとした方向がある。


「……」


足が動く。


「……圭太」


高梨が呼ぶ。


「……なんだ」


「後悔しないでね」


「……」


答えない。



白の奥へ進む。


「……」


色が増えていく。


草原。


空。


風。


「……」


前に見た景色。


「……ここか」


その時。


「圭太」


声がした。


振り向く。


「……!」


そこにいた。


あの少女。


「……」


言葉が出ない。


「やっと来てくれたね」


微笑む。


「……お前は誰だ」


やっと絞り出す。


「私は――」


少しだけ間を置いて、


「……あなたが一番最初に忘れた人」


「……っ」


心臓が強く鳴る。


「……最初……?」


「うん」


頷く。


「全部の始まり」


「……」


意味が分からない。


だが――


「……知ってる気がする」


頭の奥が痛む。


「……」


少女が手を差し出す。


「思い出して」


「……」


その手を見る。


触れれば分かる。


確信がある。


「……」


だが同時に。


高梨の言葉がよぎる。



“何を残すかを選ぶことになる”



「……」


息が重い。


「……触れたら」


小さく呟く。


「……誰か消えるんだな」


「……」


少女は何も言わない。


ただ見ている。


「……」


後ろを見る。


白。


その向こうに――


現実がある。


誠がいる。


ギルドがある。


「……くそ」


頭を抱える。


「……なんでだよ」


こんなの。


「……選べるかよ」



「圭太」


少女が静かに言う。


「私はね」


少しだけ笑う。


「ずっとここにいた」


「……」


「誰にも思い出されずに」


「……」


胸が痛む。


「……」


「でもね」


一歩近づく。


「あなたが来てくれた」


「……」


「それだけで嬉しいよ」


その言葉が――


重い。



「……」


俺は目を閉じる。


考える。


「……」


答えは出ない。


だが――


「……」


目を開ける。


「……悪いな」


小さく言う。


「……まだ、選べねえ」


少女の目が少しだけ揺れる。


「……そう」


「……」


「じゃあ」


少しだけ距離を取る。


「また来てね」


「……」


その笑顔が、逆に苦しい。



その瞬間。


視界が崩れる。



「……っ!」


目を開ける。


ハーデルの街。


「……圭太!」


誠が肩を掴む。


「大丈夫か!?」


「……ああ」


息を整える。


「……会ったのか?」


「ああ」


短く答える。


「……どうだった」


「……」


少しだけ間を置いて、


「……最悪だ」


そう答えた。


「……だろうな」


誠は苦笑する。



「……なあ」


誠が言う。


「選べってやつか」


「……ああ」


「……どうすんだよ」


「……」


答えは出ていない。


「……分からねえ」


正直に言う。


「でも」


拳を握る。


「……逃げるわけにもいかねえ」


「……だな」


誠も頷く。



街の喧騒が戻る。


だが――


「……」


もう元には戻らない。


「……始まってるな」


小さく呟く。


今度は“偶然”じゃない。


次は――


「……俺が選ぶ番だ」


白の向こう側にある世界は、


ついに俺に“決断”を迫ってきていた。

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