選ばされるもの
「……来てるな」
誠が低く呟く。
「ああ」
頭の奥がざわつく。
さっきよりも強い。
近い。
「……圭太」
「分かってる」
もう逃げられない。
「……行く」
そう言った瞬間。
視界が歪む。
⸻
気づけば――
白だった。
「……」
だが、違う。
「……増えてる」
白の中に、“色”が混ざっている。
ぼんやりとした影。
断片。
景色の欠片。
「……」
これは――
「記憶か」
その時。
「来たんだね」
声がする。
振り向く。
「……高梨」
そこにいた。
「前より深いところだよ」
静かに言う。
「……ああ」
俺は周囲を見る。
「……増えてるな」
「うん」
頷く。
「思い出した分だけ、ここは変わる」
「……」
つまり――
「現実も変わるってことか」
「そう」
はっきりと言われる。
「……くそ」
分かってはいた。
だが、改めて言われると重い。
⸻
「……なあ」
俺は高梨を見る。
「止める方法はないのか」
「あるよ」
「……!」
思わず一歩踏み出す。
「……教えろ」
「簡単」
高梨は言う。
「思い出さなければいい」
「……」
予想通りの答え。
「……それ以外は」
「ない」
即答だった。
「……」
歯を食いしばる。
⸻
『……けい……た……』
また声が響く。
今度ははっきりと。
「……あいつか」
白の奥。
「……行くの?」
高梨が聞く。
「……」
答えは決まっている。
「……行く」
「……そう」
少しだけ目を伏せる。
⸻
「でもね」
高梨が言う。
「次は“選ぶことになる”」
「……?」
「もうランダムじゃない」
「……どういう意味だ」
「今までは“勝手に消えてた”」
一歩近づく。
「でも次からは違う」
「……」
嫌な予感がする。
「“何を残すか”を選ぶことになる」
「……っ」
言葉が詰まる。
「……ふざけんな」
思わず吐き捨てる。
「そんなの選べるかよ」
「選びたくなくても選ばされる」
淡々と言う。
「それがこの段階」
「……」
拳を握る。
⸻
『……けい……た……』
また呼ばれる。
今度は、はっきりとした方向がある。
「……」
足が動く。
「……圭太」
高梨が呼ぶ。
「……なんだ」
「後悔しないでね」
「……」
答えない。
⸻
白の奥へ進む。
「……」
色が増えていく。
草原。
空。
風。
「……」
前に見た景色。
「……ここか」
その時。
「圭太」
声がした。
振り向く。
「……!」
そこにいた。
あの少女。
「……」
言葉が出ない。
「やっと来てくれたね」
微笑む。
「……お前は誰だ」
やっと絞り出す。
「私は――」
少しだけ間を置いて、
「……あなたが一番最初に忘れた人」
「……っ」
心臓が強く鳴る。
「……最初……?」
「うん」
頷く。
「全部の始まり」
「……」
意味が分からない。
だが――
「……知ってる気がする」
頭の奥が痛む。
「……」
少女が手を差し出す。
「思い出して」
「……」
その手を見る。
触れれば分かる。
確信がある。
「……」
だが同時に。
高梨の言葉がよぎる。
⸻
“何を残すかを選ぶことになる”
⸻
「……」
息が重い。
「……触れたら」
小さく呟く。
「……誰か消えるんだな」
「……」
少女は何も言わない。
ただ見ている。
「……」
後ろを見る。
白。
その向こうに――
現実がある。
誠がいる。
ギルドがある。
「……くそ」
頭を抱える。
「……なんでだよ」
こんなの。
「……選べるかよ」
⸻
「圭太」
少女が静かに言う。
「私はね」
少しだけ笑う。
「ずっとここにいた」
「……」
「誰にも思い出されずに」
「……」
胸が痛む。
「……」
「でもね」
一歩近づく。
「あなたが来てくれた」
「……」
「それだけで嬉しいよ」
その言葉が――
重い。
⸻
「……」
俺は目を閉じる。
考える。
「……」
答えは出ない。
だが――
「……」
目を開ける。
「……悪いな」
小さく言う。
「……まだ、選べねえ」
少女の目が少しだけ揺れる。
「……そう」
「……」
「じゃあ」
少しだけ距離を取る。
「また来てね」
「……」
その笑顔が、逆に苦しい。
⸻
その瞬間。
視界が崩れる。
⸻
「……っ!」
目を開ける。
ハーデルの街。
「……圭太!」
誠が肩を掴む。
「大丈夫か!?」
「……ああ」
息を整える。
「……会ったのか?」
「ああ」
短く答える。
「……どうだった」
「……」
少しだけ間を置いて、
「……最悪だ」
そう答えた。
「……だろうな」
誠は苦笑する。
⸻
「……なあ」
誠が言う。
「選べってやつか」
「……ああ」
「……どうすんだよ」
「……」
答えは出ていない。
「……分からねえ」
正直に言う。
「でも」
拳を握る。
「……逃げるわけにもいかねえ」
「……だな」
誠も頷く。
⸻
街の喧騒が戻る。
だが――
「……」
もう元には戻らない。
「……始まってるな」
小さく呟く。
今度は“偶然”じゃない。
次は――
「……俺が選ぶ番だ」
白の向こう側にある世界は、
ついに俺に“決断”を迫ってきていた。




