指輪
俺はそのまま歩き、館の中に入り、何度か角を曲がった。
しばらく進むと、メイドが立っていた。
「こちらへ」
俺は軽く会釈すると、そのまま自分でドアを開けて中へ入った。
部屋の奥に、爺さんが座っている。
いつもの椅子。
いつもの机。
「なんの用で俺を呼んだ?」
俺がそう言うと、爺さんは少しだけ眉を動かした。
「まあいいから座れ」
俺は近くの椅子を引き、爺さんの向かいに腰を下ろした。
爺さんは、すぐには話さなかった。
机の上には、茶が置かれている。
俺の分もあった。
俺は黙ってカップに手を伸ばした。
「知っていたのか」
「何の話だ?」
俺がそう答えると、爺さんの口の端が少しだけ動いた。
「ならば話は早い」
「何が話が早いんだ?」
爺さんが、軽く手を握る。
すると、さっきまで何もなかったはずの手の中に、指輪があった。
古い指輪だ。
銀色の輪は少し黒ずみ、細かな傷がいくつも刻まれている。
そして、内側に、何か小さな文字が彫られていた。
俺は思わず目を細める。
「お前がどこに呼ばれ、どこへ行くか。それは問題ではない」
爺さんは、ゆっくり顔を上げた。
「見てもらいたい物がある」
「その見てもらいたい物があるから、俺を呼んだのか?」
「そうだ。ノア。だからお前を呼んだ」
「……そうか」
「無理ならそれでいい。何も出来ないなら、それはそれで構わん。とりあえず、これを見てくれ」
「まあ、見るだけでいいなら……」




