神犬と黄金勾玉
2話
紗奈は、キジが落ちたあたりまで行って耳を澄ませた。
もがく羽の音が痛々しい。ノスリの音だ。
「なんだってこんなことになるんだ?」
絡んだツルを丁寧にナイフで切りながら足から外した。
自由になったノスリは、体をブルっと震わせて上目遣いに紗奈を見た。
「あー、もう分かったよ。仕方ないなー。違うの獲るか?さっきのキジはきっと元気になるよ。君は腹が減ってるってか?」
紗奈はノスリを指さして言った。
食べ物に時間をかけてはいられない,進まなくては。
紗奈はもっと慎重にしかも機敏に動いた。
ノスリを袋に入れて担ぐと谷に降り、カエルや岩魚を捕まえてノスリに食べさせた。
自分の分の魚と皮袋に水もたっぷり入れて準備を整え
それから遠吠えが聞こえた方向にある山頂に向かって登り始めた。
いくつ山を越えたら辿り着くのか。
紗奈には、まだ方角しか分からない。
紗奈は、ソレルや踊り子草をちぎって食べながら、前に進んだ。
陽が高く,紗奈は汗を拭った。
やっと1つの山頂まで登ると開けた景色を見た。
山は連なっていたが、岩の多い山頂もあるし,木に覆われた所もある。紗奈が登った山は一際高い山だったらしく辺りが一望できた。
ここなら夜も月に照らされて良く見えるはず。
しばらくはここで待ってみよう。
きっと何か掴める。
夜になるまでに野芥子やナズナを摘んで、
いつも袋に入れている小さな鍋で茹でておいた。
谷で獲った魚を焼いて空腹を満たした。
ノスリはまだ寝ているようだ。
ほっといて狩りに出よう。
腹が減っては戦ができぬからな。
紗奈は弓と矢を持って立ち上がった。
ノスリが目を覚ますと遠くに紗奈が狩りから帰ってくるのが見えた。切られてスケスケになった羽はすっかり整い、上空から迎えに行って肉をねだる。
紗奈は「もう飛べるじゃん!治るの早くねぇ?」と口を尖らせながらも、
ノスリに獲物を分けて食べさせた。
「さて,作戦を練っておかないとな。」
紗奈が起こした火に薪を足しながら考え込むのを見てから、ノスリは空高く舞い上がった。
どこか遠くに遊びに行ったのか。
紗奈の上を旋回して戻ると
「あのー,ぼくも考えるよ。」
随分と間が空いてから言った。
「なんだよ,遅いな。今晩、遠吠えが聞こえたら場所を見極めないとな。甲斐犬に気付かれないように偵察してきてくれるか?」
「そうしようと思ってたよ。紗奈の世話になるばかりじゃ悪いもん。」
「おー!そんな気持ちがあるんか?よしよし。」
紗奈は遠慮なくノスリの首をグイグイ撫でた。
夜になるまでに木で眠れるように、ツルで縛って枝を重ねておこう。
向かい側の山の稜線が夕焼けで金色に光ってる。
紗奈はこれからくる甲斐犬との出会いをこの景色と重ねて想像していた。
ノスリは練習するかのように音もなく飛び立って、遠くの山に消えていった。
(紗奈は今晩,木の上で休むとすれば安心だ。
昨日の月明かりを考えると今日も明るいはず。
影を落とさないようにしないと甲斐犬に気付かれるな。まずいぞ。
ここは頼んで影をなくしてもらうか。)
ノスリは雲の中にすっぽり入って誰かと会話している。
「そうそう、1 刻だけでいいです。お願いします。」
そう言ってノスリは雲から出て急降下した。
点のように小さく映る紗奈にはノスリが遊んでいるようにしか見えなかった。
3話に続く




