旅の始まり
天界では、大騒ぎの出来事が起きていた。
天つ上神が人の世に降りた時、地球に届く太陽の熱を冷ます呪文を書いた札を間違って持ってきてしまった。
それで、考えたあげく札を黄金の勾玉に隠し、
神獣で守り神の甲斐犬の首に掛けたのだった。
これで天に帰るまでは安心!と、たかをくくっていたのだが・・・
あろうことか、その後、甲斐犬ごといなくなってしまったという。
このままだとやがて地球は焼けただれ生き物が住めないところになってしまう。
勾玉は神々の目には映らず、人間に勾玉を探させなければさらない。
世の初めからおわす神々であられる、三柱神は、慌て者の天つ上神を諌めたが、即刻、黄金の勾玉を探さねば時間がない!
人間の一生は神々の一週間ほどである。
三柱神は誰にそれを託すか決めようと集まった。
神産巣日神が、口火を切って、こう仰せになった。
「おてんばで、おのこのようじゃが、知恵に長け,の山を駆け巡る紗奈はどうじゃ?
人間の姿で産まれてからは,まだ13年じゃが。」
と提案した。
天御中主神と高御産巣日神も賛成し、
天つ上神に罰として人間となり、紗奈に命を伝えることとした。
人間の上皇になった天つ上神。さっそく遣いを出して、紗奈を呼んだ。
突然、宮殿に召された紗奈は、驚ききつつも、なんかこう言うこと前にもあったみたいな
微かな記憶があった。
命を受けた紗奈は、黄金色の勾玉を首に掛けた甲斐犬を探しに旅立った。
途中、幼いノスリが人間の手で羽を切られて、飛べなくなっているのを見た。
「鷹のくせに弱っちいな。」
膝の上に乗せて、ラベンダーで痛みを取ってからメリッサのクリームを塗った。
紗奈が、持っていたうさぎの肉を分けて一緒に食べた。
ノスリは、少し元気が出た様子。
さて、また,旅の続きに行こう。
すると・・・
ノスリが、「置いてっちゃダメ」と小さな声で言った。
小さな声に聞き返す紗奈。
「えっ?なんて言ったの?」
「置いてっちゃ ダメ!」
「ダメって!あー,分かった!このままだとキツネにやられるしな。
この袋に入りな!担いでいくよ。飛べるようになったら行くんだぞ!」
ノスリは、紗奈の担ぐ袋に入る時、目は天に向かって青く光っていた。しかし,紗奈は食事後の火消しをしていて気付かなかった。
森から森へ谷を渡り,辺りは夕日に照らされた。
「何か聞こえる!」紗奈は耳を澄ませた。
遠吠えだ。
「おい!聞こえたか?」
「・・・」
「なんだ!寝てるのか。」
紗奈は、もう一度耳を澄ませた。
遠吠えがかなり遠くから,それも風下から。
2つくらい向こうの嶺から聞こえるのが分かった。
甲斐犬は、紗奈の場所からずっと向こうの山にいるのだ。
闇雲に進まないで、星を見てからにしよう。
今日は、ここでゆっくり休むぞ!
紗奈は火を起こした。
太陽がすっかり隠れる頃、ノスリは袋からヨチヨチ出てきて,紗奈に肉をねだった。
「まだ自分で獲れないか?しょうがないな。」
紗奈は、肉を分けた。ノスリは紗奈の手から肉を奪うように食べた。
紗奈の手にはケガひとつさせなかった。
紗奈はノスリの首をそっと撫でた。
南に木星が双子座に挟まれている。
南西にオリオンと金星
北に大熊、小熊か
輝く星空を確認した紗奈は、腹も満ちて火の温もりに包まれ眠り込んだ。
すっかり夜も更けた頃、隣の竹林を掘るボクッ!ガサッ!バキバキっという音。
多くの群れが走る音。何かから追われている!
紗奈は、疲れて熟睡中。
ノスリは、紗奈の足元から立ち上がった。
目は青く輝き、音のする方を照らすように見た。
イノシシが竹の根を食べる音。キツネに追われ,逃げ惑う鹿たち。
「紗奈!起きて!ここにいたら踏まれる!
木の上に行こう!キツネも届かない!紗奈!起きて!」
ノスリは紗奈の腕をくちばしに挟んで捻った。
「いっっ!いってー!何するんだよ!」
一気に目を覚ます紗奈。
お構いなしにノスリは言った。
「早く!木の上へ!」
紗奈は、ただ事ではない音とノスリの訴えに反応して木に登った。
木登りは得意だ。
下を鹿の群れが走り抜け、子鹿が1頭キツネに捕まったのだった。
紗奈はため息をついた。
子鹿の命。キツネだけではなく、こうして生きて行かなばならない自分やノスリ。
今日は狩りをして何か食料をゲットしないと。
紗奈は木の上で休んでから、まだ薄明かりの竹林に向かった。
霧に包まれる竹林。掘られて裂かれた竹が濡れている。
ちょうどうまく裂けている竹を選んで、石で作ったサバイバルナイフで切った。
弓と矢を3本。
「これでいい。」
紗奈は木の上で待っているノスリを下で呼んだ。「ヒューー!」
ノスリは傷んだ羽を広げて落ちてきた。
しっかり受け止めた紗奈。
「まだか。」
ノスリを袋に入れて担いだ。
「キジかヤマドリ狙うぞ!お前も追い出すことくらいできるだろ?」
ケケーーーン!ケケーーーン!
あっちで鳴いた!
紗奈はキジの方に向かった。
少し離れたところで、袋からノスリを出して伏せた。ノスリは注意深く薮を進んで一気に羽を広げてジャンプした。
幼いとはいえ鷹はキジにとって怖い。
ケケーーーン!飛び出した。
1発で仕留めないと!
弓を構えた紗奈は、素早く矢を放った。
急所は外れたが矢は当たった。
キジは、落ちた近くに潜んでいるはず。
紗奈は、「私が動くとキジは、もっと隠れようとするだろう。お前が近づけ。血の匂いがするだろう?」
ノスリは血の匂いでお腹がぺこぺこなのを感じた。「捕らなくちゃ!」
「あっ!いたいた!あんなところに隠れてる!」
生い茂ったつる草の中にうずくまっているキジ。肉の匂い。
「やるしかない!」
ノスリは飛びつこうとした。
しかし、つる草がノスリの足に絡みついて宙吊りになってしまった。
待っても帰らないノスリ。
紗奈はいささか心配になってきた。
任せるのは早かったか。
紗奈は竹林に戻って素早くもう1本矢を作った。
生竹は長持ちしない。
早く次を探さないと。
ノスリはどこに行ったんだ?
2話に続く




