第18話 商会を作ろう!
領主の館。
窓から差し込む光の中、机の上には帳簿と地図が広げられていた。
ミオは一冊の帳簿を閉じて、小さく息を吐く。
「……ねえ、セレナ」
「うん?」
「この村、思ったより余裕ないね」
セレナは静かに頷いた。
「うん。食料はあるけど……それだけ」
少しだけ言葉を選ぶ。
「塩や布、道具類はほとんど入ってきてないの」
ミオは首をかしげる。
「前はどうしてたの?」
「行商の人たちが来てた」
「じゃあ、今は?」
セレナは一瞬、言葉に詰まる。
それから、はっきりと言った。
「来ないの」
ミオはぱちぱちと瞬きをした。
「来ない?」
「うん。ここが魔族の領地になったって広まってるから」
少しだけ目を伏せる。
「怖くて、近づけないんだと思う」
ミオは黙って地図を見る。
村の印。
その周りには、広い空白。
「……そっか」
小さく呟いた。
「物が来ないんだね」
セレナはうなずく。
「このままだと、いずれ困ることになると思う」
ミオは少しだけ考え込んだ。
それから、顔を上げる。
「じゃあさ」
「うん?」
「来てもらえばいいよね?」
セレナは苦笑する。
「それができたら、苦労しないよ」
ミオは真剣な顔で続けた。
「ううん、できるよ」
「どうやって?」
ミオは指を立てた。
「まず、“ここは危なくないよ”って伝える」
さらにもう一本。
「それと、“来たら得するよ”って伝える」
セレナは少し驚いた顔をする。
「……なるほど」
ミオはにこっと笑う。
「だから、伝えよう!」
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数日後。
バスカニアの空に、黒い影が並んでいた。
ガーゴイルたち。
魔王軍の飛行魔族が整列している。
その手には、紙の束。
ミオは満足そうに頷いた。
「うん、いい感じ!」
セレナは少し不安そうに見上げる。
「本当に、これで伝わるの?」
ミオは元気よく答える。
「うん!届かなきゃ意味ないもん!」
そして、ガーゴイルたちに向き直る。
「人が多いところに落としてね!」
ガーゴイルたちは無言で飛び立った。
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ルミリア王国、各地。
空から、ひらひらと紙が舞い落ちる。
人々は戸惑いながら、それを手に取った。
そこに書かれていたのは――
『最初に大金持ちになるのは誰か』
『バスカニア商会、参加者募集』
大胆で、どこか楽しげな言葉だった。
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それから数週間。
何度も、何度もビラは撒かれた。
遠くの町へ、さらに遠くへ。
けれど――
広場に、商人の姿はなかった。
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ミオとセレナは、今日も同じ場所に立っている。
静かな屋台の前。
セレナがぽつりと呟く。
「……やっぱり、難しいのかもしれない」
ミオは少しだけ空を見上げた。
それから、いつもの調子で言う。
「うーん……でも、来ると思うよ」
「どうして?」
ミオはにこっと笑った。
「だって、気になるでしょ?」
少しだけ得意げに言う。
「“最初に大金持ちになるのは誰か”だよ?」
セレナは思わず笑ってしまう。
「……確かに」
ミオは屋台に腰かけた。
足をぶらぶらさせながら、のんびりと待つ。
「来るよ。絶対」
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