第19話 商人カイ・ハルトマン
ある晴れた朝。
ミオは、外の騒がしさで目を覚ました。
窓の外から、張りのある声が響いてくる。
「さあさあ!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
ミオは飛び起きた。
「なにこれ!?」
隣の部屋からセレナも顔を出す。
「……人の声?」
二人は顔を見合わせ、そのまま広場へ駆け出した。
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広場には、人だかりができていた。
その中心に立っていたのは、赤毛の若い男。
二十歳前後だろうか。
軽やかな口調で、次々と商品をさばいている。
「さあ!村の救世主、カイ・ハルトマンのおでましだ!」
その声に、村人たちがどっと沸く。
男――カイは、手際よく品を差し出しながら、次々と取引を成立させていく。
小麦と引き換えに、塩。
布。
簡単な道具類。
馬車に山のように積まれていた荷は、みるみる減っていった。
ミオは、目を輝かせる。
「すごい……!」
セレナも驚いたように呟く。
「こんなに人が集まるなんて……」
やがて――
馬車の荷は、すべてなくなった。
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その夜。
館の食堂。
ミオとセレナは、カイをもてなしていた。
豪華な内装とは対照的に、テーブルの上に並ぶのは質素な食事だった。
パンとチーズ。
簡単なスープ。
そして、ワイン。
セレナが申し訳なさそうに言う。
「ごめんね……小麦以外の食材が少なくて、あまり用意できなくて」
カイは気にした様子もなく、グラスを軽く持ち上げた。
「いや、十分だ。それより――」
にやっと笑う。
「あんたら、何も買わなかったな」
ミオはあっさり答える。
「うん。村のみんなに行き渡るのが先だからね」
カイは少し目を細めた。
「……なるほどな」
グラスを揺らしながら続ける。
「正直、売り切る自信はあった。でも、足りなくなるとは思わなかった」
「思ったより、みんな持ってたんだ。金や交換できる食料をな」
その言葉に、セレナが少し呆れたように言う。
「ミオが、年貢を返したの」
カイの動きが止まった。
「……は?」
ゆっくりと振り向く。
「年貢を返した?」
セレナはうなずく。
カイは思わず声を上げた。
「正気か!?」
ミオは、にこっと笑う。
「魔族に人間の食べ物はいらないからね」
あっけらかんと続ける。
「換金するくらいしか使い道ないし」
カイはしばらくミオを見つめていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……なるほどな。面白いことしてる」
ミオは立ち上がった。
「こっち来て」
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地下室。
そこには、小麦の袋が山のように積まれていた。
返却後も、なお半分近くが残っている。
ミオはその一つを軽く叩く。
「まずはね、これを売りたいの」
振り返る。
「国を動かすには、お金が必要だから」
カイは無言で袋を開けた。
中の小麦を手に取り、指でこすり、匂いを確かめる。
しばらくして、ゆっくりとうなずいた。
「……品質は悪くない」
袋を閉じる。
そして、ミオを見た。
「なあ、ミオ」
「うん?」
「お前、国なんて作ってどうするつもりだ?」
ミオは少しだけ考えてから、まっすぐ答えた。
「魔王様に言われたんだ」
にこっと笑う。
「バスカニアを、世界一楽しい国にしろって」
カイは一瞬ぽかんとした。
それから――
噴き出した。
「ははっ!なんだそれ!」
しばらく笑ってから、顔を上げる。
「……でも、いいな」
ゆっくりと、ミオの前に歩み出る。
そして――
片膝をついた。
「総督」
手を差し出す。
「その“楽しい国”、私に手伝わせていただけませんか。必ず、世界で一番楽しい、国にしてみせます」
ミオは迷わず、その手を取った。
「うん、よろしくね!」
その瞬間。
ミオの視界の奥で、静かに光が走った。
現実の風景に重なるように、淡いインターフェースが浮かび上がり、
ミッションデータが更新された。
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ミッション:仕官セレナ・クロイツ、商人カイ・ハルトマンと共にバスカニアを世界一楽しい国にする。
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笑顔で手を取り合う3人。
ミオは笑顔とともに、新しいミッションを達成するための計算を始めていた…
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