第16話 セレナ・クロイツ
翌日。
ミオは、村の長老に招かれていた。
簡素な造りの家。
だが、村の中で最も整えられた場所だった。
その中央に、長老が座っている。
そして、その横には――
昨日、剣を交えたあの女性の姿があった。
凛とした瞳はそのままに、静かに立っている。
ミオは一歩進み出ると、ひざまずいた。
深く、頭を下げる。
「私は、魔王様の令によりこの地の総督となったミオです。私たちのことを、受け入れてもらえないでしょうか」
室内が静まる。
長老はしばらくミオを見つめていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「この村一帯はな、王国の中でも特に貧しい土地でな……」
かすれた声だった。
だが、その一言には重みがあった。
「税は重く、収穫は少ない。飢えることも、珍しくはなかった」
ミオは顔を上げずに聞いている。
長老は続ける。
「そんなわしらに、あんたは食べ物を分け与えた」
少しだけ、間があく。
「わしらはな、施されたものは必ず返すと……神に誓って生きてきた」
長老の視線が、ミオへと向けられる。
「貴方が何者かは分からん。だが……この恩は、決して忘れん」
その言葉とともに、長老は隣へ目を向けた。
「セレナ」
呼ばれた女性が、一歩前に出る。
長老は静かに言った。
「君は、この方に恩を返しなさい。村を代表してな」
セレナはわずかに目を伏せた。
そして、ミオの前へと進む。
ゆっくりと、ひざまずく。
一瞬だけ、視線が交わる。
あのときと同じ瞳。
だが、その奥にあるものは、少しだけ違っていた。
セレナは手を差し出す。
「……セレナ・クロイツと申します」
声は落ち着いていた。
けれど、ほんのわずかに迷いが混じっている。
「正直に申し上げます。私は、まだあなたを信じきれてはいません」
室内の空気が張り詰める。
だが、セレナは言葉を止めなかった。
「ですが……この村は、あなたに救われました」
一度、息を整える。
「ゆえに、神の名に誓い……あなたにお仕えします」
差し出された手。
それは、昨日とは違う意味を持っていた。
ミオはそれを見つめる。
そして、迷わずその手を取った。
「うん。よろしくね、セレナ」
少しだけ、笑った。
その笑顔に、セレナの目がわずかに揺れる。
まだ疑いは消えていない。
それでも――
その手は、もう離れなかった。
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