第15話 最初の施し
ミオは剣筋を見切ると、詠唱を取り消し、ひらりと後転した。
女性の剣が、大きく空を切る。
鉄でできた剣の重さに、動きがわずかに遅れていた。
ミオは着地と同時に踏み込む。
一瞬で間合いを詰め、手首に蹴りを入れた。
乾いた音とともに、剣が宙を舞う。
床に転がる鈍い音が、地下に響いた。
女性は動けない。
何が起きたのか、理解が追いついていなかった。
その前で、ミオは静かにひざまずく。
そして、手を差し出した。
その動きに合わせるように、オークたちも一斉に腰を低くする。
「私は、魔王様の令でこの地の総督になったミオ。国づくりに、協力してほしいの」
差し出された手。
けれど、女性はそれを取らなかった。
わずかに後ずさる。
「……魔族の言うことなんて、信じられません」
ミオは一瞬だけ目を伏せた。
それから、すぐに顔を上げる。
「そっか。だよね」
あっさりと、うなずいた。
少しだけ考えてから、ぽつりと言う。
「じゃあ、結果で見てもらうね」
ミオは床に落ちていた剣を拾い上げた。
そのまま近くの麻袋へと歩く。
ざくり、と袋を裂いた。
中から小麦がこぼれ落ちる。
ミオはそれを手に取り、軽く揉んだ。
さらさらとした感触を確かめる。
「うん……品質に問題はなさそう」
そう言って振り返る。
オークたちに目配せをする。
「ここにある小麦の、二割を外に出すよ」
オークたちがわずかにざわめく。
だが、誰も異を唱えない。
すぐに動き始めた。
館の外へ、小麦袋が運び出されていく。
ミオも一緒に運び始めた。
自分の体よりも大きな袋を、よいしょと抱える。
少しふらつきながらも、ちゃんと運ぶ。
その様子を、窓の隙間から誰かが見ていた。
やがて。
一人、また一人と、子供たちが外に出てくる。
恐る恐る近づき、袋に手をかける。
ミオはそれに気づいて、にこっと笑った。
「手伝ってくれるの?ありがとう!」
その一言で、空気が少しだけ変わった。
子供たちは顔を見合わせ、次第に楽しそうに袋を運び始める。
やがて、広場には小麦の山が積み上がった。
村人たちは遠巻きにそれを見ている。
まだ、近づこうとはしない。
ミオは子供たちの前にしゃがみこんだ。
目線を合わせて、優しく言う。
「これ、みんなに配ってくれる?」
子供たちはぱっと表情を明るくした。
「うん!」と元気よくうなずく。
小さな手で、小麦を抱えて走り出した。
その様子を見ながら、ミオは満足そうに立ち上がる。
女性は、その一連の光景を見ていた。
信じられないものを見るように。
魔族が。
略奪ではなく、配っている。
しかも、自分で運び。
笑っている。
視線は自然と、ミオへ向かう。
その笑顔に、なぜか目が離せなかった。
警戒とは違う感情が、胸の奥にわずかに生まれる。
――この人は、本当に魔族なのか。
そんな疑問が、初めて浮かんでいた。
↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!




