第14話 礼と魔法陣
翌日。
ミオはオークたちを連れて、占領した地域で最も大きな村へと入った。
村は静まり返っていた。
人の気配はある。だが、姿は見えない。
家々の扉は閉ざされ、視線だけが隙間からこちらをうかがっている。
その中心に、ひときわ大きな建物があった。
石造りの館。
領主の館だった。
ミオは足を止め、それを見上げる。
「これは手軽だね、接収しよう」
オークがうなずく。
「既に逃亡した可能性が高いです」
ミオはそのまま扉を押し開けた。
館の中は、もぬけの殻だった。
机も椅子もそのまま。
そして――帳簿類も手つかずのまま残されている。
ミオは一冊を手に取った。
ぱらりとページをめくる。
「魔物がこんなもの見るとは思わないもんね……」
オークが言う。
「人間にとっては重要でも、我々には無価値ですから」
ミオは何も答えない。
視線を落とし、ページを追う。
同じ名前。
繰り返される徴収。
さらに重なる罰。
そして、没収。
その積み重ねが意味するものを、ミオはすぐに理解した。
「……こんなのって……」
小さく漏れた声は、わずかに震えていた。
そのとき。
かすかな音がした。
床の奥。
地下へ続く方向からだった。
オークが即座に動く。
「残党です。排除します」
ミオは手を上げてそれを制した。
「ううん、大丈夫。私が行くよ」
ミオは一人、地下への階段を降りていく。
足音を抑えながら、ゆっくりと。
地下には、小麦袋が山のように積まれていた。
年貢として集められたものだろう。
空気はひんやりとして、わずかに湿っている。
ミオはその間を進む。
一歩ずつ。
音を立てずに。
やがて、その奥で足を止めた。
そこに、人がいた。
メイド姿の女性。
そして、その背後に隠れる子供たち。
女性は一歩前に出る。
その所作は静かで、整っていた。
おしとやかさの中に、凛とした強さがある。
澄んだ目が、ミオを真っ直ぐに射抜いた。
ミオと、目が合う。
女性が口を開く。
「帰ってください。ここはあなた方が来ていい場所ではありません」
その言葉と同時に、剣を構えた。
ミオは少し首をかしげる。
「やめようよ?無益だよ……それに、あなた戦えるの?」
女性は一瞬だけ息を整え、答える。
「……剣の心得ならあります」
ミオは小さくうなずいた。
「うん、わかった」
そう言って、ミオは一歩下がる。
そして、静かに一礼した。
その動きは、洗練されていた。
王国騎士の正式な礼。
この場には似つかわしくない、あまりにも整った所作。
女性の目がわずかに見開かれる。
その瞬間。
ミオの足元に、魔法陣が灯った。
淡い光が地下室を照らす。
女性は息を呑む。
そして、迷わなかった。
踏み込む。
一直線に、ミオへ。
詠唱を許さない距離へ。
剣が、振り下ろされる。
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