第13話 総督ミオ
指令室。
そこはなぜか、この世界とは思えない空間だった。
石造りの魔王城の中にあるはずなのに、部屋の中央には巨大な作戦卓。壁には地図。照明は白く、まるで二十世紀半ばの軍司令部のような雰囲気だった。
そしてその部屋に集まっている魔族たちは、なぜか全員が軍服を着ていた。
オークが地図を指しながら報告する。
「ルミリア王国北部の集落近くで、魔物たちが人間に襲われ退散を迫られています。我が魔王軍としては対応が必要かと」
ミオは思わず手を挙げた。
「あの……ちょっといい?」
魔王やオークたちが一斉に振り向く。
ミオは周囲を見回しながら言った。
「この司令部は一体なに?なんでみんなそんな軍服を着てるの?」
魔王とオークたちは顔を見合わせた。
そして声をそろえる。
「それは……楽しいからだ!」
ミオは一瞬固まった。
「ええ……でも、このデザイン……この世界のものじゃないよね。なんで知ってるの?」
魔王は椅子にふんぞり返りながら答える。
「我は別世界の人間だったのだよ。言っていなかったっけ?まあ長い年月を生きているうちに記憶はほとんど消えたがな」
オークも頷く。
「それに、何十年かに一回、他の世界から来たと言う奴が現れるんだ。その話がとても面白くてな。魔王城を改造してこういう部屋を作っているのさ」
ミオは額に手を当てた。
「なるほど……つまり雰囲気だけ司令部なんだ」
オークは満足そうに作戦を説明し始めた。
「では作戦を提案します。敵軍の数は戦士二十。こちらはウルフ四十を投入します。敵より数が多くなるのですごい作戦です」
魔王が大きく頷く。
「うむ。それでは出撃だ!」
ミオは思わずツッコミを入れた。
「それは作戦って言わない!」
魔王軍の面々が驚いてミオを見る。
ミオは深呼吸してから説明を始めた。
森の地形、敵の視界、退路、ウルフの機動力。
条件を次々と整理しながら、魔物たちの動きを配置していく。
魔王とオークたちはその説明を聞き終えると、顔を見合わせた。
そして一言。
「それは楽しそうだ!」
数時間後。
北部辺境の森。
王国軍の前に、魔物たちが現れた。
だがその動きは、今までの魔物とは明らかに違っていた。
森の影からウルフが連携して襲いかかる。
退路を塞ぎ、包囲し、次々と隊列を崩していく。
王国軍の隊長が叫ぶ。
「こいつら知能があるのか!?魔物だぞ!?」
隊列は瞬く間に崩壊した。
こうして北部辺境一帯は、魔王軍の支配下に入った。
夜。
焚き火を囲みながら魔物たちは勝利を祝っていた。
魔水を飲み、笑い声が響く。
しばらくして宴が落ち着くと、魔王がぽつりと言った。
「じゃ帰ろうか」
ミオは思わず立ち上がる。
「ええっ!?じゃあなんで前進したの!?」
魔王は真顔で答える。
「それは……楽しいからだ!」
ミオは再び額を押さえた。
しばらく考えてから、ミオは言う。
「この地域を私に任せてくれれば、もっと楽しいことができるよ?」
魔王が興味深そうに首を傾げる。
「そうなの?例えば?」
ミオは少し考えてから答えた。
「ここを発展させて……とっても楽しいことがたくさんある国にするとか、かな」
魔王はしばらく黙っていた。
それからゆっくりと立ち上がる。
魔王は剣を抜き、地面に突き立てた。
そして宣言する。
「よし、決めた」
魔王はミオを見る。
「この地をミオに与える」
周囲の魔族たちがざわめいた。
魔王は続ける。
「今日からミオをこの地の総督とする」
ミオは目を丸くした。
「えっ……いいの?」
魔王は笑う。
「百年くらい面白くしてくれ」
その瞬間、ミオの内部で設定値が更新された。
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マスター:魔王
ミッション:魔王軍占領地域を発展させて楽しい国にする。
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ミオは小さく拳を握る。
(……みんなこんな調子だけど……よし!がんばるぞ!)
ミオの頭の中では、すでに占領地の発展計画が高速で計算され始めていた。
その地の名は、まだ無い。
しかし後にこの場所は――
『バスカニア』と呼ばれることになる。
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