⑦ヘボ勇者とボケ魔王とただの猫
なにかの音と共に突如白い光に包まれた。
ビームが直撃して死んだのかな……。
そうか、これが死後の世界ってやつなのか……。
こんなに白い世界なんだな……。
「あっれー、おかしいな。なんでこの空間に猫が迷い込んでんだ?」
今までに聞いたことのない声。そうか、天国の住人なんだな。
「てめぇの結界ってこんな猫でも通すようなやわなものだったのか? ヘボ勇者」
「なぁに言ってんだよボケ魔王! かれこれ数年経ってると思うけど、こんなイレギュラーは初めてだろうが」
「てめぇの減らず口は本当に腹が立つな勇者よ!」
うーん、なんか意味わからん会話が聞こえる。
あ、俺目閉じてるじゃん。だから音しか聞こえなかったのか。
ゆっくりと目を開くと、そこは……うん、変だった。
どう変かってのを言葉で説明するのはとても難しい。
まず、足場がない。というか浮いてるよ俺。四方八方が薄い赤に染まった不思議な空間だった。
その空間には二人の男が座っていた。勇者と呼ばれた方は黒髪に若干のあどけなさの残る顔立ちの青年。立派な剣とマントを羽織っている。もう一方の魔王と呼ばれた方は綺麗なロングの白髪に鋭い眼光の青年。白いローブを身に纏っている。ここまでは、まぁがんばれば理解できなくもない。
異質だったのは彼らが真剣な眼差しで行っていることそのものだった。
男と男が向き会う。その間にあるのは……将棋盤?
意味わかんねーし。
よくよく見ると周りにはオセロとかチェスとかトランプとか色々なゲームが散らばっていた。
え、天国ってヒマだからゲームして過ごすわけ?
「えっと、俺の番だっけ?」
黒髪の男が言う。
「バカかてめぇは。俺の番に決まってるだろうが」
言葉と同時に白髪の男が駒を動かした。
「なぁ、それよりあの猫どうすんだよ」
「知るか、ほっとけ」
「それもそうだな」
いやいやいやいやちょっと無視だけは勘弁してよ!
「あのー」
「「あ?」」
すげーガラ悪い!
今ゲームやってんだから邪魔すんじゃねーよオーラが半端ないんだけど!
宙に浮いている俺だったが、手足を動かしてみると普通に歩けた。
透明な地面があるのかな。
そうしてゲームに夢中になってる二人の元へ近付き、将棋の盤面を覗く。
「あ、そこの歩を取れば勝てるよ」
「お、マジか?」
白髪の男が俺のアドバイスの通りに駒を動かした。
「え、ちょっと待って。なに? お前、コイツの言葉がわかんの?」
どうやら黒髪の男には俺の言葉が通じていないらしい。
「そりゃわかるだろ。俺魔物だし。っていうか魔王だし」
「はぁ? お前今なんかアドバイスされてただろ。おいおいおいおい不正じゃねぇかよ!」
「不正じゃねぇよヘボ勇者。俺にしか聞こえないんだからしょうがねぇじゃん。日頃の行いの差だな」
「日頃のおこな……普通魔王がそれ言うか? つーか猫、俺にも教えろよ」
言われるがままに盤面に手で指示を出す。
「おお、確かに良い手だな」
「勇者のクセに卑怯なことしてんじゃねーよ」
「うるせーな」
魔王とか勇者とかってどっかで聞き覚えがあるような……。
それよりもさー、あのさー、コイツらさー……
将棋弱すぎ!
っていうかゲームの才能無さすぎ!
「なんでゲームしてんの?」
率直な疑問を問いかける。
すると白髪の――魔王の方が口を開いた。
「普通に戦っても勝負つかなかったからゲームで勝負つけようって話になってから何戦したっけな」
魔王の言葉に俺がなんの質問をしたか悟った勇者も口を開く。
「あー、何戦したっけかな。とりあえず勝ち負けで連勝した方の勝ちってことで……」
「ふむふむ」
「「今のところ互角なんだよ」」
お前らよくハモるなぁ。
本当は仲いいんじゃねえの?
二人は顔を見合わせて嫌な顔をする。
「で、かれこれ数年もこんな空間に?」
「これはこのヘボ勇者の作りだした魔法の空間だ。異次元で空腹にもならないし便意も感じない。おまけに歳を取らないらしい」
「そういうこった。この俺が作りだした究極の異次元空間だ。だが、時は普通に過ぎて行くのが難点だな」
難点っていうか空腹にならないとか歳取らないとか、そんな魔法ってアリなわけ?
つまり、ここは天国ではないらしい。
「チートじゃん」
「チートじゃんヘボ勇者って言われてんぞ」
「ヘボ勇者ってとこは付け足しただろお前。っていうかコレが勇者クオリティってやつなわけよ」
「よく言うぜ……」
これだけの魔法が使えるなら魔王なんて倒せるんじゃないの? と素直に思う。
だが、じゃあ戦いで決着がつかなかった理由はなにか? という問いに対して、簡単に答えが出る。
「ま、俺にはヘボ勇者なんかの魔法は効かないけどな」
そういうことなのだろう。
勇者も勇者なら魔王も魔王。
お互いにバケモノ同士ってわけだ。
ただし――
「んの割にはあんたらゲーム弱いよね……」
俺のこの一言がいけなかった。
怒った魔王が勇者に告げ口し、怒った勇者と魔王が俺の前に立ちあがる。
「つーかさ、お前なんなわけ?」
勇者の問いに、
「わからん」
「わからんって」
素直に返答。
「じゃあさ、なんで魔力感じないわけ?」
さらに勇者の問いに、
「全くわからん」
「全くわからんって」
素直に返答。
「つかどうやってこの空間に入ったわけ?」
自分の魔法が破られた苛立ちを隠さずに勇者が問い、
「さっぱり全然わからん」
「さっぱり全然わからんって」
事実を返す。
「わからんわからんじゃなんもわかんねー……つーかいちいち魔王に通訳してもらうのめんどくせぇなおい!」
「しょうがねぇだろうが。ヘボ勇者には魔物の言語は理解できねぇんだから。バカだから」
「バカだからじゃないですー。人間だから魔物の言葉なんて理解できなくて当然なんですー。いや、待てよ」
勇者が俺の目の前に座り込み、俺の顔を覗きこんだ。
「なんでお前は俺の言葉がわかるのに、人間の言葉を喋れないんだ?」
「確かに」
魔王も疑問に思ったのか、俺の顔を覗いてきた。
「博士から変な石もらったからですがなにか」
「あー、博士ってジルのことか」
「誰だよジルって」
「ヘボ勇者はロリコンだから知らない方がいい」
「俺はロリコンじゃねえよ! お前と一緒にすんじゃねぇボケ魔王!」
もうお前らがロリコンとかどうでもいいからさー。
「つまり、ジルって奴のおかげで人間の言語は理解できるが、喋るまでには至らなかったということでいいんだな?」
「うん、そう」
俺はどうせ通じないだろうと思い、言葉と一緒に首を縦に振った。
「それで、俺たち魔王と勇者になんの用だ? まさかてめぇ、それすらわからんって答える気じゃねぇだろうな」
「わから……特に用はないですけど」
魔王からものすごい殺気を感じたので言い直す。
「逆に聞くけど、なんであんたらはこんな空間にいるわけ?」
俺の問いに対して魔王が簡潔に答えた。
「誰も巻き込まれないようにするために決まってんだろうが」
「あー、なんでこの空間にって話? そうそう、俺と魔王が戦えば他の人間や魔物にも影響や被害が出る。しかもこの空クジラ自体が落ちるほどのことがあったら困るしな」
そんな壮大なバトルがこの空間で繰り広げられたわけ?
しかも決着つかないってどういう……。
「よし、わかった。猫、お前はこれから俺たちと勝負をしろ」
突然の勇者の提案に俺は何言ってんだコイツという顔を返すが、猫の表情を読み取れるほどの洞察力はないらしい。
「ふん、ヘボ勇者にしてはオモシロイ提案だな。さっき言った言葉、覚えてんだろ?」
すごくすごく単純なことだった。
あんたらゲーム弱いよね、の言葉に全てが世界最強と思ってる二人のプライド的に許せなかったのだろう。
とんでもない負けず嫌い二人なのだ。
「俺たちはお前を三秒で灰にすることができる」
うん、勇者の言葉じゃないよね今の。
「その通り。だがそれはしない」
嫌な笑みを浮かべた魔王が頷き、俺を見下す。
「「ゲームで勝負だ!」」
いや、あんたら以心伝心しすぎでしょ。
数年間同じ空間にいて、明らかに仲良くなっちゃってんじゃん!
しかもゲームでって……絶対俺が勝っちゃうよ?
絶対どのゲームやらせても弱いって。だって明らかにゲーム音痴だもん。
「まずは肩慣らしだな……チェスで勝負だ!」
勇者がわせわせと俺の前にチェスを持ってき、駒を並べ始めた。
この空間、ありとあらゆるゲームがあるらしい。とにかくその辺に散らばっている。
「俺はチェスなら魔王よりも強いからな!」
「全然怖くない脅しじゃねーか。ドングリの背比べにも程があるわ」
さっきの将棋を見る限り、どう考えたってチェスも弱い。
「その次は俺とババ抜きだからな!」
ま、魔王……。




