⑥まさしくラスボスだよあんた
目の前に立っていたのはそれまでの精悍な顔つきの長身銀髪の青年ではなかった。
なんと形容したらいいのだろうか。顔は鷹のように鋭くとがったくちばしをした鳥、大きな翼の生えた背中、太い四肢はまるでライオンのような強さを感じさせる、俺が見上げるほどに大きな漆黒のソレはどうやらユキムラらしいのだ。
「これがクログライフの真の姿です。どうでしょうか」
「あはは……かっこいいですね……」
正直に言うよ。
めっちゃ怖いです!
黒い身体の所々に銀色が混じり、ただ黒いよりも風格が感じられる。
紛れもなく魔物であり、魔王だ。
俺の記憶が始まってから、こんなに大きな生き物を見るのは初めてだ。
まさしくラスボスだよあんた。
こんなのと戦うなんて想像もつかないけど、こんなのに殺される想像はたやすくできてしまう。
「じゃあー、そろそろ俺はこの辺でシズネのとこに行かないと……」
「こちらも本気を出しますから、トラジ様も本気を出してくださって構わないのですよ」
本気とか本気じゃないとかの問題じゃねぇよコレ!
こんなん相手とかどんな生物でも死ぬわ!
そんなことを考えていると、ユキムラの右前脚が宙に浮いた。
「うおっ!?」
瞬間、鋭く光る爪を立てて俺に向かって脚を振りおろしてきたのだ。
なんとなく気配を感じた俺はそれを後方に跳んで避けたが、足場が柔らかい雪のために体勢がくずれる。
鼻先をかすめる程絶妙な回避だったが、風圧で鼻がくすぐられ……いや、もげそうになった。
アレは当たったら死にます。間違いない。
「おお、さすがですね。今のは普通の猫じゃ避けられないですよ」
誉められてちょっと照れるけど、照れてる余裕がない!
「魔法も使っちゃいますよ?」
「使わないでー!」
叫びながらユキムラから距離を取る。
しかし距離なんてものはなんの意味もなかった。
ユキムラの周りに黒い球体が現れたと思ったら、寸前までいたところに球体が着弾して破裂した。
「うにゃあ!」
雪と一緒に吹っ飛ぶ。
着地と同時にさらに黒い球体が追撃してくる。
それをひとつひとつかわしながら、ユキムラへと近付く。
そして、ユキムラの足元、四肢の間へと入る。
「ここなら魔法撃てないっしょ」
「ははは、その動きはなかなかのものですね!」
しかしユキムラが足踏みをするたびに潰されそうになる。
決死の思いで足に飛びつき、ユキムラの背中へ登った。
「こ、ここなら攻撃できないハズ!」
「確かにそこは死角ですね。しかし……」
ぶぅん
飛んできたのは尻尾!?
ユキムラの尻尾が背中をすごい勢いで横切った。
それを身を低くしてなんとかかわす。
よし、かわした! 次は俺の攻撃……だ?
とりあえず思いっきりひっかいた。
…………………。
次は噛みつく。
…………………。
うん、硬い皮膚でなんも攻撃通じないね。
「うおっ!」
ユキムラの身体が大きく揺れて、俺は振り落とされる。
うぐぅ、今のところ直接的なダメージはないけど勝てる気がしない。
だって、俺には攻撃の手段がなにもないんだもん……。
よし、攻撃をよく見てかわしなんとか反撃のチャンスをうかがうか……。
……うん、無理だ。
相手の姿を再度確認した瞬間に諦めの心が飛び出してきた。その間、実に三秒。
こうなったら逃げるしかない!
どこに逃げればいい?
俺は必死の思いで周りを見渡す。
一面銀世界は確認するまでもない。
とにかくユキムラに背を向けて精一杯走り出す。
「うっ!?」
一瞬だった。一瞬だけ俺が走っている前方が光った気がした。
「トラジ様! 早く本気を出してください!」
うおあ、あいつ飛んで追いかけてきやがった!
すぐに追いつかれそうだ。とにかくさっき光ったところに走ってみるしかない!
「うおおおおお!!」
足場の悪いところだが、こちとら素早いの代名詞の猫だ!
走りながら振り返るとユキムラが口を開いてこちらを狙っている。
もしかして、ビームですか!? 口からビーム放っちゃうんですか!?
「はぁあああ!!!」
ユキムラの咆哮と共に、一直線に俺を目掛けてビームが飛んでくる。
あぁ、これは死んだな――。
シュウィイイイイイン!!
さすがにコレはトラジも絶体絶命ですね!
一体どうやって生き残るのか……。
次回はなんと勇者と魔王登場!? ですよ!




