⑤雪村の男の名前が出てこない
「にゃぼっ!」
変な声と共に雪の中から這い出る。
うわぁ、ラッキーだな俺。
雪崩に巻き込まれたのに無傷で生きてるんだけど。
「ツイてるなー」
「まったくですね」
「うおあ!」
いきなり俺以外の声がしたから超びびった。
この低くてイケメンボイスは最近聞いた声だ。
顔を上げると案の定、村で会った黒いローブの男だった。この精悍な顔つきと銀髪は見間違いじゃない。
えっと、たしか雪の村で会った――
「ゆき……むら……の?」
「おおトラジ様、僕のことを覚えていてくれたんですね」
「えっと……ゆきむら……」
なんだっけ名前……。ぜんっぜん出てこない。
「ユキムラ? それは僕のことですか?」
「え、あ、うん。あそこで会ったんだよな」
「もしかしてニックネームを付けてくれたのですか!?」
はい? なにを言ってんのコイツ。
「そう、僕の名前はユマスティック・キエッリーム・ラークス。略すと確かにユキムラになります」
「そ、そうだね! そうそう、ユキムラ! いいニックネームだろ?」
「いやぁ、嬉しいですよ! 僕は魔王代行ということもあってユマ様とか魔王代行様とか魔王様とか堅苦しい呼び方ばかりされていましたので」
「うんうん、そう思って考えておいたんだよね」
やべー、すげぇポジティブにとらえられちゃったけど、本当は雪の村で会った人ってことしか覚えてなくて……なんて言えねぇよ!
マジメなタイプだけどコイツちょっとおかしいな。
「ちなみにユキムラはどうしてここに?」
「おお、そういえばとんでもない偶然ですよね。僕はこの辺りで勇者と魔王が戦ったのではないかと推測して、その痕跡を探していたんですよ」
「なんで?」
「魔王が死んだとは思えないからです。たとえ死んでいたとしても、何か戦いの痕跡があれば遺品とかあるかもしれませんし……」
暗い顔をするユキムラ。そんなに魔王のことを慕っていたんだなぁ。
周りを見回すと、雪崩の影響で随分柔らかい雪が積もっているようだ。俺が一歩進むと、ズボっと足がとられてしまう。
「そういえばトラジ様はなぜ雪崩に乗っていたんですか?」
「いや乗ってたわけじゃないんだけど……」
「シズネ様とははぐれてしまったのですか?」
「……はい」
「それはそれはお気の毒に……」
「どうも」
「トラジ様、では僕と一戦、戦ってみますか?」
「じゃあそうしよっかな……ってなるかボケ!」
何を言ってるんだコイツは!? 魔王代行なんでしょ? 世界で二番目に強い魔物なんでしょ? 魔力ゼロの俺と戦うってどういう神経してんの? 弱い者いじめが好きなの?
「というのはまぁ、半分冗談で……」
「ちょちょちょ、半分ってなによ。全部でしょ全部。全部冗談でしょうが」
「魔力ゼロの生き物なんてこの世には存在しないわけですよトラジ様」
あー、またディスられてるのか俺は。
「つまりオンリーワンなんですよ? スペシャルな存在なんですよ?」
……なんか、悪い気はしないね。
「つまり……実はすごく強いのではないのでしょうか」
「俺もね、実はすごい強いんじゃないかと密かに思ってるんだけどね……でも普通の猫なんだよね」
「そうなんですか……。じゃあちょっと窮地に立たされてみてはどうでしょうか」
あれー、何をそんな無邪気な笑顔で言い放ってるのかな。
悪気はないけど殺す気はあるよって顔してるよユキムラさん。
「ほら、僕も魔王代行としての真の姿を見せていないでしょう? つまり、僕が本気を出せば、トラジ様も本気になるのではないかと考えているわけですよ」
「いやいやいやほらじゃないし、なんもつまってないからね? 本気とか真の姿とかどうでもいいからね?」
俺の言葉が終わるかどうかのところ。
時が止まるような錯覚になるほどのプレッシャーを瞬時に感じた。
…………マジで?
というわけでユキムラさん命名です!
トラジの時と同じような決まりかた……ゴホンゴホン




