第6話 ハンマーの一撃
盗賊団を従えたルルリは、再びグラトニー領を目指して進み始める。
馬車に乗ったルルリは、先程までとは違って、すっかり年相応の姿を見せるようになっていた。
「お嬢様、先程のは一体……」
「なんでしょうか、エピナ。あれは、スキルの副作用みたいなものです。なにせ【撃神の砲槌】という、お父様が物騒と称したスキルなのですからね」
「はぁ、そうですね……」
正面に座る侍女の質問に、ルルリはちょっと恥ずかしがりながら答えていた。こういうところは、元々のルルリの性格っぽい反応である。
そういう姿を見せられたエピナは、ルルリの返答をひと先ず信じることにした。
とはいえ、乱暴な言葉を使い、巨大なハンマーや筒を扱う姿は、直接見たのに信じられない光景である。
「ふわぁ……。ちょっと眠いですね。少し休ませていただきます」
その直後、ルルリはあくびをしてふらふらとし始めた。
ルルリの様子を見てこれはいけないと思ったエピナは、すぐさまルルリの隣に行き、頭を自分の膝の上に乗せるようにルルリを抱き寄せる。
頭が膝に触れる頃には、ルルリは既に夢の中だった。その寝顔は、やはりまだ5歳の子どもなのだなと思わされるくらいに可愛らしいものだった。
(盗賊相手とは言いましても、あれだけのものを振り回したのです。お疲れになられても仕方ありませんね)
エピナは眠るルルリの髪を撫でながら、心地よく眠れるようにそっとルルリの体を支えているのだった。
どのくらい経っただろうか。
再び、馬車の外が騒がしくなっている。
「どうかしましたか?」
心配になったエピナが、ルルリをそっと座席に寝かせると、外へと飛び出していく。
「ひっ!」
そこで見たのは、目の前に群れる魔物の群れだった。
こちらが武器を構えているとあって、魔物たちは様子を見ているようである。
「なんですか、あれは」
「グラトニー領に住むグラトニーウルフの群れですよ。空腹だとどんな相手でも見境なしに襲い掛かるという魔物です」
「ってことは、動かないってことはまだ空腹じゃねえってことか、そこはひとまず助かったというとこか」
エピナが叫ぶと、護衛の騎士が状況を説明している。盗賊の方もよく知らなかったようで、騎士の説明で少し安心をしている。ただ、周囲を囲まれているだけあって、ピンチには変わりはない。
「ふわぁ……、どうしたんですか、みなさん」
そこへ異変を感じて目を覚ましたルルリが顔を出す。
「ルルリ嬢、魔物に囲まれております」
「あら、おっきなワンちゃんたちがいますね……。なるほど、魔物ですか」
騎士の状況を説明するも、まだちょっと寝ぼけているルルリは、のんきなことを言っている。
「てめぇ! やっぱり俺たちを魔物の餌にするつもりでいたんだな?!」
「何を言ってるのかしら、この唐変木」
盗賊の頭が文句が言い始めると、ルルリの雰囲気がすっと変わる。
「いいわよ。その身に浴びても分からないのなら、【撃神の砲槌】の力をその目に焦げ付くくらいに焼き付けてあげましょうか」
魔物を目の前にして、ルルリは【撃神の砲槌】の状態が発動している。
普段はおとなしい感じなのに、憎まれ口をたたく攻撃的な性格へと変貌しているのだ。
「この程度の魔物、私だけで十分です。あなたたちは自分の身を守りなさい」
「お嬢様!?」
ゆっくりと前へと歩み出たルルリが発した言葉を聞いて、エピナは思わず叫んでしまう。
しかし、今のルルリには何を言っても通じなさそうなので、エピナはいわれた通りに身を守ることにした。
(グラトニーウルフかぁ……。こいつら、中盤以降に出てくるウルフの最上位じゃねえか。まるで火を噴きそうなくらいに赤い体毛が特徴で、特殊な技能は持たない代わりに、敏捷と攻撃力がくそほど高いやつだ)
目の前のウルフを見て、ルルリは魔物を確認している。
だが、同時に何か違和感を覚えた。
(うん? ってことは、この世界ってやっぱあのMMOと……)
そんな考えごとをしていると、グラトニーウルフたちがルルリ目がけて襲い掛かってくる。
「お嬢様!」
「っと、考えるのは後ね。来い、ドラゴハンマー!」
エピナの叫びで現実に戻ってきたルルリは、ドラゴンの装飾がされた巨大なハンマーを呼び出している。かと思えば、ハンマーの頭を地面に置いて、思いっきり振り回そうとしている。
「シャイニングスイング!」
ものすごく必死な形相を浮かべて、力の限りハンマーを振り抜く。
ハンマーの描いた軌道は光の塊となり、目の前のグラトニーウルフたちを容赦なく打ち砕いていく。
信じられるだろうか。5歳の少女が、グラトニー領に住む魔物たちを、一撃で屠ってみせたのだ。
吹き飛んだ魔物たちは地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かない。
「ふーん、初期スキル一撃でも倒せちゃうのかぁ。となると、この体には思った以上の補正がかかっているのかもしれないね」
大量の魔物を具き飛ばしておきながら、ルルリはとても落ち着いた反応を示している。
その状況を見ていた騎士や盗賊たちは、ぽかんとマヌケな顔をさらしている。
「さて、まだいるみたいだし、もう一発いっとく?」
体とほぼ同じ大きさのハンマーを担ぎ、ルルリはグラトニーウルフたちへと笑顔を向けている。
次の瞬間、グラトニーウルフたちは逃げ出してしまった。
「なんだ、つまんないの」
ハンマーをしまって、ルルリはエピナのところへと戻ってくる。
「ルルリ様、万歳!」
「ルルリ様、最強!」
そしたら、騎士と盗賊たちがルルリを突然讃え始めた。
あまりに突然のことに、びっくりして固まってしまうルルリなのだった。




