第7話 グラトニー領に踏み入って
グラトニーウルフたちを退けたルルリたちは、いよいよグラトニー領に入る。
同じ王国内とは思えないくらいにその空気はよどんでいる。
(ここまでもずいぶんと荒廃した感じだったが、なるほど、この惨状を見れば納得がいくってもんだな)
ルルリは目の前の風景を見て素直な感想を抱いている。
「お嬢様、大丈夫でしょうか」
エピナはルルリのことを心配している。それというのも、本来のルルリはおどおどとしたおとなしい性格の子どもだからだ。
【撃神の砲槌】のスキルを授かってからというもの、ルルリには乱暴な面が出てくるようになったものの、やはりエピナは侍女として心配なのである。
「大丈夫ですよ、エピナ。むしろ、ここの開拓を任させれたことを実感して、わくわくしています」
グラトニー領に到着して馬車の外を眺めているルルリの顔には、確かな高揚感が現れている。
「本当は五人ならどうしようかと思いましたけれど、ちょうどいい作業員が手に入りましたからね。ふふっ、【撃神の砲槌】様様というところでしょうか」
「お嬢様、かなり変わられましたね」
明らかに絶望したり泣き出したりしてしまいそうな光景を目の前に、5歳のルルリはにっこりと笑ってみせている。その姿には、城からついてきた騎士や、道中配下に加えた盗賊たちもドン引きである。
「さぁ、いつまでも止まってはいられません。この領内にあるというお屋敷へと向かいましょう。開拓には拠点が必要ですからね」
「は、はい。承知致しました」
グラトニー領の入口に立ったのも束の間。ルルリたちは領内にあるという領主の屋敷へと向かって、再び馬車を進ませ始める。
馬車の座席に座るルルリは、なんだか落ち着かない様子で両足をぶらぶらとさせている。普通ならばこのような場所にくれば、子どもは震えてしまうものだ。だというのに、ルルリはしっかりと顔を上げて、しかも笑みまで浮かべている。そう、恐怖で足を動かしているのではない。楽しみで仕方がないのだ。
それというのも、かなり強いはずのグラトニーウルフを最弱のスキルで一掃してしまったからだ。転生前に遊んでいたMMOで使っていたスキルや戦っていた魔物と同じものが存在している。つまり、現実という以外はゲーム感覚でいられるということに期待を抱いているというわけだ。
(MMO内にも、こういう荒廃した土地があったからなぁ。そこで見たモンスターと同じ魔物がいる。これは、あれも期待していいのかもしれないね)
なにやらルルリには、登場を期待する魔物がいるらしい。それこそが、ルルリが落ち着かない最大の理由である。
つまりあれだ。オラわくわくすっぞという状態というわけだ。
だが、グラトニー領に到着したばかりなので、まだ慌てる時じゃないと、自分を落ち着かせようとしている。
その時だった。ルルリは何かを感じ取る。
「お嬢様!?」
次の瞬間、エピナが叫ぶくらいにはルルリは素早い行動に出ていた。
(ふふっ、魔物だ。ああ、早くぶっ飛ばしてやりたいね)
そう、スキルが魔物の気配を感知したのだ。ルルリの高揚感もあってか、スキルは余計な機能を獲得したようである。
「うわっ! レッドキャップたちだぞ!」
「なんだってこんな狂暴な魔物が襲ってくるんだ」
「何言っているの。グラトニー領だからでしょ」
驚く騎士や盗賊たちの隙間から、ツッコミを入れつつ、ルルリが飛び出してくる。
「ドラゴハンマー!」
走りながら巨大なハンマーを取り出し、襲い来るレッドキャップへと突っ込んでいく。
「ソイル、インパクトッ!」
盗賊たちに対して放ったハンマーの一撃。
ルルリが地面を叩くと、地面は砕け、その破片がレッドキャップたちを襲う。
「ギギャーッ!」
下からの攻撃は想定していなかったのか、レッドキャップたちはあっという間に破片に貫かれて倒れていく。
「あら、グラトニーウルフとあんまり強さが変わらないのに、この程度で終わりなの?」
あまりにもあっけない状況に、ルルリはきょとんとしている。
「うわぁっ!」
ところが、騎士たちの方から悲鳴が聞こえてくる。
ルルリが振り返ると、反対側からもレッドキャップが襲い掛かってきていたのだ。さすがは騎士たち、狂暴な魔物相手にもなんとか応戦している。
だが、いかんせん戦いのセオリーを守らない魔物にじわじわと追い詰められていっている。
このままでは人数が減ってしまいかねない。
「ドラゴキャノン!」
ルルリは武器をハンマーからキャノンへと持ち替える。
「シャイニングレイ!」
そして、すかさず砲撃を行う。
しかし、その砲撃は空中へと放たれている。
「どこ狙ってんですか、お嬢!」
「うるさいわね。まぁ見てなさいよ」
文句を言う盗賊に対して、冷静に言い返すルルリは、パチンと指を鳴らしている。
鳴らすと同時に空中に上がった砲撃が、なんと分裂している。そのまま地上にいるレッドキャップたちへと襲い掛かる。
「ギギーッ!」
「ギギャーッ!」
ルルリの放った砲撃に貫かれ、レッドキャップたちは次々と倒れていく。
なんということだろうか。ルルリたちの馬車に襲い掛かったレッドキャップの群れが、たったの二撃で全滅してしまったのである。
「ざっとこんなものかしらね」
魔物を全滅させたルルリは、満足そうにキャノンを地面に立て、もたれるようにして笑っている。
だが、この油断はいただけなかった。
「ギギ……ッ」
「お嬢様、危ない!」
「えっ?」
なんということだろうか。どうやら生き残ったレッドキャップがいたらしい。
かすかに動いたレッドキャップは、最後の力を振り絞ってルルリへと襲い掛かった。




